第54話 俺だけのワンダーワールド 2
エピソード文字数 2,734文字

※
本日も晴天なり。そろそろ気温もあがり過ごしやすい季節へとなってゆく。
着こんで来なくて正解。シャツ一枚で全然快適だ。
電車に乗り込むこと十五分。四駅ほどの場所にどうやら同人誌が発売されている場所があるらしい。
ちゃんとネットで道順も調べており完璧である。
乗る電車を間違えそうになったが、無事に目的地である駅から降りると、妙に緊張してきた。
一応降り立った駅は、この地区では一番の繁華街であり、人がごった返している。
思わず人の波に押されてしまい、道に迷うというハプニングがあったが、何とかググールの地図を便りにとうとう店を発見した。
やべぇ緊張してきた。何だか人が多くて皆に見られているような気がすると、マスクやグラサン掛けてきた方が良かったんじゃないかと思ってしまう。
俺はこんな同人誌を販売してる店は初めてなのだ。超ビギナーであり、モグリのレベルである。
更にいわせて貰うと、ド田舎で住んでたので、電車が何種類もあるとか。かなり苦難の道であった。
あまり目立たないようなビルの五階か。ぱっと見ても全然分からないがここらしい。エレベーターで上がると、ドアが開いた瞬間に店内が見える。
そしてそこには……俺のワンダーランドに似たような世界が広がっていた。
だがこんな場所で田舎者丸出しにはなれない。あたかもこの店に通い詰めてる玄人のような素振りを見せて店内を散策する。
ネットで見かけるようなタイトルがチラチラ見えると無性に興奮してくる。普通の書店では見かけない本が所狭しと並んでいるのだ。
まずは新刊である同人誌を手に取る。これで俺の極秘任務は終了だ。しかしせっかく来たのだから色々見て回ろうと思った。
エロコーナーやフィギュアには興味がないので、俺は真剣に、そしてゆっくりと気になるタイトルを探してゆく。いつの間にか俺の手には五冊の同人誌を持っていた。
早速レジに並ぶ。さっさと帰ろう。
バイトをしていて本当に良かった。こんな大名買いを出来るとは思わなかったぜ。これはマジでバイトの日数増やそうかな。
その時だった。後ろで本の落ちる音がしたので、思わず振り返ると――
俺は見てはいけないものを見てしまった。

その瞬間、身体がぶつかってしまう。
すると、相手も俺も戦利品を店内にぶちまけてしまった。
そう答えた彼女は落とした本を手に取ると、こちらを見上げる。



うん。やばい。非常にヤバイ。洒落にならん。
とんでもなくヤバイ雰囲気に、目も真っ白。頭も真っ白に枯れ果てた。
※
言い訳は出来ない。
白竹さんとエンカウントしたのは同人誌を扱う店の中。そしてレジ前。お互いがお互いの戦利品を手に持ったまま、決定的証拠を見られてしまったのだ。
その後は無言でレジで同人誌を購入すると、二人は同じエレベーターに乗り込んだ。しかも都合が悪く、他にも人が乗り込んできたので何も喋れない。
同じエレベーターに乗り込んだカップル。どうやら人目も気にせずコアな話題を平気で喋っていた。あぁこれ絶対俺には出来ない。などと思っているとあっという間に一階に到着。
そして暫く歩いてから人がいない道に入り込んだ白竹さんは、こちらを振り向くなり泣きそうな顔で俺に訴えた。
そんなやりとりが十回ほど続いた。
そして、お互いがお互いの立場を理解した時、二人の間で固い約束が交わされた。
ようやく事態が収拾すると、二人の間に笑顔が芽生える。
用事が済んだ二人は、いつしか並んで駅に向かうと、何気に同人誌の話になってしまい、駅前のバスターミナルにあったベンチに座る事態へと発展した。
何だかやたらフレンドリーになってしまった。
しかし。白竹さんとベンチで並んで座っていると……
男がみんな振り返るこの現象はなんなんだ?
そして次に俺を見るのはいいのだが、まるで生ゴミを見るような目をするんだけど。
ちなみに丸太が通じるのはゾンビじゃなくて吸血鬼なんだけどね。
このネタがリアの人間に通じるとは思わなかったし、通じた時の感動は素晴らしいものだった。
そこからはあまり周囲の目を気にする事なく喋っていたが……
どうせなら外じゃなくて、違う場所で喋りたい。


せっかくの機会なんだから、ちょっとお喋りしましょう。
同人繋がりという話題があるなら、楽しく喋れるかもしれないし、俺のワンダーワールドにも理解のある人なのかもしれないと思った。