第3話 窓香の目的
文字数 2,632文字
「明日の朝出発すれば、午後には宮城に着きますぜ」
窓香は、愛犬の亡骸を見つけたお礼に、客間に案内された。
「ああ。でも、東京駅で乗り換えないと。でも時刻表がないな…」
その助けた男性、榊 風悟 は部屋の中を探したが、本棚やタンスの中には使われていない本や服しか入っていない。なので、パソコンの電源を入れてネットに頼ってみる。
「でもさ、窓香さんはどうして宮城に? 知人でもいるのか? そもそも、学校は? どこの高校に通っているんだい?」
風悟からすると、自分と同い年くらいの女子が平日にも関わらずフラフラしているのは非常に興味がある。
「私これでも二十歳ですぜ?」
一九九七年生まれの窓香は、一応アルコールを飲めるのだが、ほとんどの人から年相応に見られない。ちょっとムカつく勘違いをよくされるが、自分の見た目が若いという証拠でもあってまんざらでもないのだ。
「じゃあ大学は?」
大学生なら、講義を受ける必要のない時間は自由だ。風悟は納得した。
しかし、
「いえいえ、通ってませんぜ」
「は?」
驚いたことに、窓香は高卒なのだ。風悟にとって、高校卒業後は当たり前のように大学に進学するという、常識を窓香は見事に打ち破った。
「仕事務め?」
また、怪しくなってきた。
「まあ何というか…。死者の声に耳を貸すのが仕事ですぜ。懐の良い人は、お礼と称して私に恵んでくれますんで」
「…悪かったな」
少し声に力が入った。それもそのはずで風悟は窓香に、一銭も渡していない。もう一度窓香の目を見ると、期待の光がキラキラとしている。
「宿泊費で、埋め合わせよう」
そう言うと、窓香は少ししょんぼりした。
二人はパソコンの画面に表示された時刻表を見る。
「これなら、すぐ着くね。この切符を買えばいい。駅まで送ろうか?」
「明日着いても、あまり意味があらんのですわ…」
「どういう意味だ?」
窓香は訳を説明した。ある人物に会いに行くのだが、その日程は決まっている。今すぐに宮城に行けば、見ず知らずの土地で数日間過ごさねばならない。窓香としては、時間をかけながら目的地に向かいたいのだ。
「じゃあ、ローカル線で行くのかい? それこそ、面倒極まりない」
「しかし、ここに何日もお世話になるわけにもいかんので…」
とりあえず、窓香は明日、自宅に戻ることにした。
寝るのにはまだ早かったので、窓香は風悟と話をしていた。
「私は、その人物に初めて会うんですが、何て言うか、うん…」
「言いにくい関係なのか?」
「結婚するんです」
「な、なるほど…っていきなり飛躍するなよ、鶏が空飛んだかと思ったぞ?」
丁寧に説明するなら、こうである。
日本中に支部がある子供支援会社である神代グループ。孤児院や学習塾を運営している。しかしそれは表向きで、実は裏では霊的な仕事を多く請け負っており、そちらの収入の方が莫大なのだ。
「もちろんグレーゾーンには手を入れないのがポリシーですが、噂によると日本中の霊能力者の連絡先を握っているとかいないとか?」
聞く話では、霊能力者ネットワークに勝手に登録されるらしい。
「何だよその、この世ならざる連絡網は…」
窓香は話を戻した。
「それで、そこの一人息子が婚約者を探してるんですぜ。それに私が何でか、選ばれたというわけですな」
会ったこともなければ、名前も詳しく知らない相手。窓香は、自分と同じく相手も霊能力者で、相手に相応しい資格が自分に有ったのだと認識している。
「断るつもりは、ないのか?」
「断れるもんですかい? 両親が恥かきますわ」
窓香の親は、一般人である。だから神代グループの表の仕事に従事している。そんな一般家庭の娘が、御曹司に選ばれたというのだから、断る理由がない。
「ふ~む?」
風悟は改めて窓香の容姿を見た。そこら辺にいそうな、普通の女の子以上の感想は出てこなかった。
「まあ、今日は寝ますぜ。明日はそんなに早くなくて大丈夫です。起きたら帰りますからご心配はなく」
次の朝、目覚ましよりも先に、榊家の電話が鳴り響いた。
「もしもーし? 榊ですが?」
こんな朝早くに誰だよ、と思いながらも居留守をするわけにもいかないので風悟は受話器を取った。
「黄昏さん、大変だ!」
「番号、間違ってません?」
風悟は少し、怒りを感じた。間違い電話で叩き起こされたからだ。だが受話器の向こうの相手は、そんな素振りを感じさせずに話を進める。
「村本 君が朝、病院に搬送された。重症だ。何があったのか、わからない」
「あの、俺には話の意味がわかんないのですけれど?」
「とにかく、何者かの悪意ある動きを感じる…」
「俺はこの間違い電話に悪意を感じていますが?」
「とぼけるな! そちらに泊まっているだろう? 黄昏窓香! 君には用はないのだ」
それを言われて、風悟は窓香を呼びに客間に向かった。ドアをノックしようとしたら、窓香が飛び出てきた。
「わわわ、私に電話がありませんでしたかい?」
風悟があっちにある、と手で伝えると窓香は素早く電話に出た。
「はい! ただいまかわりました、窓香ですよー!」
電話の内容は聞こえてこないが、窓香の表情から察するに緊急事態という感じだ。
二、三分したら電話が切れた。
「大変です…」
窓香の額には、汗がびっしょりだ。まるで全力疾走をした直後のようだ。
「何が?」
「これまた名前だけの知人なんですが、闇討ちされたみたいなんですぜ…」
「やみうち?」
窓香の説明を受けた風悟。
神代の跡継ぎと窓香が会う約束がどこかから漏れたらしく、その第三者が会合を狙っている、可能性があるとのことだ。
「それはそれは、気の毒に…」
他人事のように返事をする風悟に対し窓香は、
「これはかなりヤバ、ですぜ…。風悟さん、一緒に行きましょう」
「はい? 今何て?」
「昨日話しましたよね? その情報を第三者が狙っているんですぜ。今は北海道にいる様子ですが、いつここに来るかわかりやしません。逃げるんですよ!」
第三者は、情報を聞いた人間を根こそぎ襲うつもりなのだ。不本意ながら風悟を巻き込んでしまった窓香は、彼の返事も聞かずに家から飛び出した。
窓香は、愛犬の亡骸を見つけたお礼に、客間に案内された。
「ああ。でも、東京駅で乗り換えないと。でも時刻表がないな…」
その助けた男性、
「でもさ、窓香さんはどうして宮城に? 知人でもいるのか? そもそも、学校は? どこの高校に通っているんだい?」
風悟からすると、自分と同い年くらいの女子が平日にも関わらずフラフラしているのは非常に興味がある。
「私これでも二十歳ですぜ?」
一九九七年生まれの窓香は、一応アルコールを飲めるのだが、ほとんどの人から年相応に見られない。ちょっとムカつく勘違いをよくされるが、自分の見た目が若いという証拠でもあってまんざらでもないのだ。
「じゃあ大学は?」
大学生なら、講義を受ける必要のない時間は自由だ。風悟は納得した。
しかし、
「いえいえ、通ってませんぜ」
「は?」
驚いたことに、窓香は高卒なのだ。風悟にとって、高校卒業後は当たり前のように大学に進学するという、常識を窓香は見事に打ち破った。
「仕事務め?」
また、怪しくなってきた。
「まあ何というか…。死者の声に耳を貸すのが仕事ですぜ。懐の良い人は、お礼と称して私に恵んでくれますんで」
「…悪かったな」
少し声に力が入った。それもそのはずで風悟は窓香に、一銭も渡していない。もう一度窓香の目を見ると、期待の光がキラキラとしている。
「宿泊費で、埋め合わせよう」
そう言うと、窓香は少ししょんぼりした。
二人はパソコンの画面に表示された時刻表を見る。
「これなら、すぐ着くね。この切符を買えばいい。駅まで送ろうか?」
「明日着いても、あまり意味があらんのですわ…」
「どういう意味だ?」
窓香は訳を説明した。ある人物に会いに行くのだが、その日程は決まっている。今すぐに宮城に行けば、見ず知らずの土地で数日間過ごさねばならない。窓香としては、時間をかけながら目的地に向かいたいのだ。
「じゃあ、ローカル線で行くのかい? それこそ、面倒極まりない」
「しかし、ここに何日もお世話になるわけにもいかんので…」
とりあえず、窓香は明日、自宅に戻ることにした。
寝るのにはまだ早かったので、窓香は風悟と話をしていた。
「私は、その人物に初めて会うんですが、何て言うか、うん…」
「言いにくい関係なのか?」
「結婚するんです」
「な、なるほど…っていきなり飛躍するなよ、鶏が空飛んだかと思ったぞ?」
丁寧に説明するなら、こうである。
日本中に支部がある子供支援会社である神代グループ。孤児院や学習塾を運営している。しかしそれは表向きで、実は裏では霊的な仕事を多く請け負っており、そちらの収入の方が莫大なのだ。
「もちろんグレーゾーンには手を入れないのがポリシーですが、噂によると日本中の霊能力者の連絡先を握っているとかいないとか?」
聞く話では、霊能力者ネットワークに勝手に登録されるらしい。
「何だよその、この世ならざる連絡網は…」
窓香は話を戻した。
「それで、そこの一人息子が婚約者を探してるんですぜ。それに私が何でか、選ばれたというわけですな」
会ったこともなければ、名前も詳しく知らない相手。窓香は、自分と同じく相手も霊能力者で、相手に相応しい資格が自分に有ったのだと認識している。
「断るつもりは、ないのか?」
「断れるもんですかい? 両親が恥かきますわ」
窓香の親は、一般人である。だから神代グループの表の仕事に従事している。そんな一般家庭の娘が、御曹司に選ばれたというのだから、断る理由がない。
「ふ~む?」
風悟は改めて窓香の容姿を見た。そこら辺にいそうな、普通の女の子以上の感想は出てこなかった。
「まあ、今日は寝ますぜ。明日はそんなに早くなくて大丈夫です。起きたら帰りますからご心配はなく」
次の朝、目覚ましよりも先に、榊家の電話が鳴り響いた。
「もしもーし? 榊ですが?」
こんな朝早くに誰だよ、と思いながらも居留守をするわけにもいかないので風悟は受話器を取った。
「黄昏さん、大変だ!」
「番号、間違ってません?」
風悟は少し、怒りを感じた。間違い電話で叩き起こされたからだ。だが受話器の向こうの相手は、そんな素振りを感じさせずに話を進める。
「
「あの、俺には話の意味がわかんないのですけれど?」
「とにかく、何者かの悪意ある動きを感じる…」
「俺はこの間違い電話に悪意を感じていますが?」
「とぼけるな! そちらに泊まっているだろう? 黄昏窓香! 君には用はないのだ」
それを言われて、風悟は窓香を呼びに客間に向かった。ドアをノックしようとしたら、窓香が飛び出てきた。
「わわわ、私に電話がありませんでしたかい?」
風悟があっちにある、と手で伝えると窓香は素早く電話に出た。
「はい! ただいまかわりました、窓香ですよー!」
電話の内容は聞こえてこないが、窓香の表情から察するに緊急事態という感じだ。
二、三分したら電話が切れた。
「大変です…」
窓香の額には、汗がびっしょりだ。まるで全力疾走をした直後のようだ。
「何が?」
「これまた名前だけの知人なんですが、闇討ちされたみたいなんですぜ…」
「やみうち?」
窓香の説明を受けた風悟。
神代の跡継ぎと窓香が会う約束がどこかから漏れたらしく、その第三者が会合を狙っている、可能性があるとのことだ。
「それはそれは、気の毒に…」
他人事のように返事をする風悟に対し窓香は、
「これはかなりヤバ、ですぜ…。風悟さん、一緒に行きましょう」
「はい? 今何て?」
「昨日話しましたよね? その情報を第三者が狙っているんですぜ。今は北海道にいる様子ですが、いつここに来るかわかりやしません。逃げるんですよ!」
第三者は、情報を聞いた人間を根こそぎ襲うつもりなのだ。不本意ながら風悟を巻き込んでしまった窓香は、彼の返事も聞かずに家から飛び出した。