第十二章 空港にて6「…なぁ、お前はどう思う?」

文字数 1,048文字

 …自分はどうだろうか? だとしたら、自分はどうだろうか? 何かに抵抗することもやめてしまい、逃避行なんて物でさえ、もとから決められたレールをなぞっていた。そんな自分と、使い捨ての存在に、一体どんな違いがあるというのだろうか? レオはそう思った。
「今更そんな話しを持ち出して、私にどう責任を取れっていうんだ? 私は常に依頼主の要望通り施術を行ってきた。君の母親だって、それらを理解して引き受けたんだろ?」
 右足を引き攣った斉藤が、捲し立てるように語る。
「まして、十分な報酬を受け取っているにも拘わらず、それに見合うだけの成果を生み出さなかった。だから、子どもを引き取るのは道理に叶っている。…なぁ、そうじゃないかね?」
「じゃぁ、俺達はどうなるんだ? いかがわしい技術によって生み出されたクロードはどうなる? 自分のルーツも曖昧なまま、病気を患って捨て去られた子ども達はどうなるんだ?」
 そう叫びながら、アランは銃口を斉藤に差し向けた。
「…それでも、自分に責任はないと言い切れるのか?」
 セレナを撃ち抜いて、クロードを連れ出し、盗んだ車に由美子を乗せた。
「なぁ、クロード。お前はどう思う?」
 インド帰りの男と出会い、同性愛者に薬を売り捌き、遠くの場所へと飛び立とうとする。
「この男のいかれた技術によって、俺達の生活が左右されたとは思わないか?」
 それらでさえ、誰にでも代わりの効く陳腐な出来事として過ぎ去ってしまうのだろうか? 決められた道筋に乗せられて、誘導されるようやり過ごしてきたというのだろうか?
「…なぁ、お前はどう思う?」
 クロードのもとへ歩み寄ると、アランはGlock18を差し出した。それを見つめると、クロードが静かに右手を掲げる。
「…やめろ」
 レオがクロードの腕を掴もうとすると、アランが別の銃を取り出して、レオに銃口を向けた。
「なぁ、どうなんだ? …クロード」
 クロードがGlock18を受け取ると、徐に踏み出して、銃口を掲げる。肘を付く斉藤は、怯えた表情でクロードを見つめていた。
「なぁ、アラン!! こんなことして、一体何になるっていうんだよ!?」
 レオがそう叫ぶと、アランとクロードは親指でハンマーを引き下ろした。
「クロード! お前は、母さんに会いに行くんだろ? そう、決めたんだろ!?」
 人差し指が引き金に触れる。
「だから、お前はイタリアに行かなきゃいけないんだよ!! なぁ、そうだろ!?」
「…都合良く、人をもてあそびやがって」
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