第二景
文字数 1,162文字
細やかにさんざめく新雪の輝きに目を瞬(しばたた)かせながら、公園の中を通り抜けていきます。
両脇には桜並木が続いていますが、今はすっかり葉が落ちて丸裸になり、閑散とした風情です。
それでも今朝は清楚に綿帽子を被った枝々が、澄ました顔で、銀鼠色の曇天を串刺しにしていました。
この公園の敷地内には、他の種類の落葉樹も幾つか生えているのですが、年ふりた巨木になればなるほど、その枝振りは複雑怪奇になっていきます。
それらを遠目に眺めると、黒糸で丹念に編まれた繊細なレース模様に見えるのです。
今朝はそこに綿帽子の縁取りが加わったので、幽玄な水墨画の世界が出現していました。
曇天の灰白、樹氷の純白、裸木の漆黒。
他の色彩が凍り付いてしまっている季節だからこそ、裸木が形作る偶然の芸術が浮き彫りになり、それを堪能することが出来るのでしょう。
これぞ正に、冬の風物詩の代表格というものです。
そこからふと視線を転じると、その先に待ち受けていたのは、奇跡のように心打たれる光景でした。
これほどまでに宇宙から祝福された朝には、出逢ったことがありません。
その時一瞬で目を奪われたのは、明るく淡い色彩でした。
西方の曇り空に、彩り豊かな虹の橋が出現していたのです。
周囲にくすんだ色彩が控えている中で、その軽やかな七色のアーチは、そこだけが生命力に溢れているように感じられました。
しかも、虹の橋に遭遇出来ただけでも幸運なことなのに、この時に出現していたそれは、一本だけではなかったのです。
二本同時に観測出来る虹は、主虹と副虹といった名称で親しまれているようですが、今回はそれに加えて、三本目の虹も観測することが出来たのです。
私は思わずその場に立ち止まり、滅多に目にすることの出来ない現象に釘付けになっていましたが、冬の虹というものは、一段と儚い運命にあるようです。
それこそ見る見るうちに、曇天に溶けるように薄れて消えていきました。
私はその瞬間、ほうっと深い溜め息を吐きました。
そこには二種類の相反する想いが溶け込んでいました。
まず一つ目は、至福とも呼べる体験を享受出来たことへの満足感と感謝の想い。
そして二つ目は、その体験があまりにも呆気なく過ぎ去ってしまったことへの無念の想い。
それらの想いに後ろ髪を引かれつつ、再び歩を進めようとしました。
ところが、直ぐ様その歩みを止めざるを得ない稀有な印を、新雪の表層に発見したのです。
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・・・ 第三景へと続く ・・・
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