第4話

文字数 1,003文字

とうとう学校が始まってしまった。

類とは運良く同じクラスになることができた。

やっぱり類はすぐにみんなから好かれた。
みんな、というよりは『女子みんな』に。

こんな綺麗な男の子、みんな見たことがなかったのだから当然だ。
おまけにあんなに優しいのだから。

反対に、男子の中には類の居場所はなかった。

休み時間、男子がグラウンドに出ていって類がポツンと一人になったとき、私はすぐに類に駆け寄って、絵を描こうと誘った。

類を一人にはしない。
私が類を守る。
類は私の宝物なんだから。


「あずみってさー、類のこと好きなんじゃないのー?」

類といっしょのある日の帰り道、後ろから大声で怜奈が言った。

「…!」
そうだ、とも、違う、とも言えなかったその時。

「あずみ?あずみって、誰?」
類が言った。

「えっ、類の隣にいるでしょ、あ・ず・み」

「…あずみって、あすみのこと?」

「そうそう、あずみの方が呼びやすいでしょ!みんな呼んでるよ、類もあずみって呼んだら?」
うつむく私を見て、類は怜奈に言った。

「あずみじゃない。あすみだよ。」
その言葉に、私は顔を上げて類を見た。

「行こう、あすみ。」

それだけ。
類が言ったのは、それだけだったのに、私の心はスカッとした。

怜奈は何も言い返さず、私たちを見ていた。

類がいれば、私は無敵。

それからも、変わらずみんなは私をあずみと呼んだけれど、類だけは「あすみ」と呼んでくれた。

それで良かった。




9月。雨上がりの帰り道。
「類、来週私の誕生会があるからうちに来てくれる?」

「誕生会?いつ?」

「次の日曜日!来れる?」

「うん、行くよ」

「やったぁ!楽しみだなー…あっ!虹!」

「え?どこ?…あっ!」

山の向こう側に、虹の足元だけが見えた。

「もーっと大きな虹、見てみたいなぁ、こっちの山とあっちの山をつなぐような、おっきいの。類は見たことある?」

「うん、あるよ、大きいの!お母さん、の、好きな…」

そう言いかけて、類はきゅっと口を結んだ。
「…ひまわり畑で。」

「……ひまわり畑?いいなぁ私も行ってみたい!」

類の顔がまたぱあっと明るくなる。
「うん、行こうよ、いつか。」

私には、類の悲しみがわからない。
でも、お母さんがいなくなるなんて、考えただけで涙が出そうだ。

類は、優しくて、強い。

類の悲しみを、私はどうしたら軽くしてあげられるんだろう。

類があすみと呼ぶだけで、私の嫌な気持ちは、ずっとずっと軽くなったのに。

私は、類に何をしてあげられるんだろう。

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