あとがき

文字数 5,590文字

 この度は、本作『名探偵、超苦難』(以下超苦難)を最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。
 もし、本編を読まずにこの文章を読んでいる方、例えば、読書感想文を書きたいだとか(それはそれで有難いが)、作者からの感想を訊かれた時のために、あらすじだけを期待するとか(それはそれで悲しいが)、たまたま開いたところが、このページだったとか(そんなわけあるかい!)、事情は様々でしょうが(そもそも、図々しくもあとがきなんぞを書く時点で、自己満足の極みなのだが)、どこから読み始めようが、読者の自由であるのだから、作者としては文句を言えないのであります。
 尤も、超苦難本編を、きちんと最後まで読み通してくれた奇特な読者から「全然面白くなかったぞ! 時間返せ!!」と言われた日には、苦笑いしか返せないのですが……。

 ご存知の方も多い(?)とは思いますが、この作品は『名探偵、苦難』(以下苦難)シリーズの三作目にあたります。一作目の苦難は約十ページ、二作目の『名探偵、大苦難』(以下大苦難)は約ニ十数ページと、まだまだショート作品の域を出ませんが、当時はそれぞれ、作者自身にとって最高最長の作品でありました。苦難と大苦難の間には十作品ほど間があきましたが、本作は大苦難を書き終えた後、間を置かずに取り掛かった次第であります。ページ数も最初は三~四十ページを目指して書き始めましたが、結果はご覧の通りです。
 その理由は以下の通りになります。

 ※ここから先はネタバレが多分に含まれますので、本編を未読の方は注意されたし。

 面倒くさがり屋の性分として、毎回の如くプロット(設計図のようなもの)を立てずに書き出す手法を取っています。ショート作品では、それでも特に問題は無かったのですが、苦難シリーズは多少ボリュームがあり、完成までに様々な“苦難”がありました。一作目は、最初の構想からはまるっきり違う作品になってしまったし、二作目の大苦難では、犯人やトリックを決めずに設定だけを決めて、さっさと書き始めたのが災いし、書いていくうちに話がどんどんズレて、調整のための作業が大変でした。
 そこで三作目である超苦難では、ちゃんとプロットを書いてから挑もうと決意したのですが、慣れないために、いざプロットを書き始めると、なかなかうまくいきません。
 ある著名なミステリー作家が自身のエッセイの中で、『自分はプロットを作らず、犯人やトリックを決めずに書いている。最初の頃の作品はちゃんとプロットを立てて書いたが、いざ完成してみると、どうも納得がいかない。そこで大体の設定だけを決めて、一見不可能な現場を登場させ、自分で試行錯誤を重ねながら書いたら、満足のいく作品が出来ました』的なことが書いてありました。
 頭の足りない作者はそれを鵜呑みにしたのです。
 プロットを作らずに書いた苦難と大苦難が、それなりに満足のいく出来だったので、調子に乗って、今度も何とかなるだろうと、プロットを作らないまま三作目の超苦難に取り掛かった次第でした。
 それが悪夢の始まりとも知らずに。

 先ずは、これまでと同様、設定作りからです。前々からバディ物に挑戦したかったので、それを採用しました。ちなみに構想段階では、一作目の苦難の時から助手を登場させたかったのだが、当時の実力では(現在も大したことは無いが)そこまで余裕がありませんでした。大苦難の時も結局見送り、満を持して超苦難で登場させることにしました。
 当初は男性の助手という設定でしたが、文章にメリハリが出るだろうと女性に変えました。高校生にしたのは「歳の差があった方が面白くなるんじゃね?」的な単純なノリです。決して作者の個人的な趣味ではありません。決して。
 しかるに文章の半分近くが高野内和也と峰ヶ丘小夜子の掛け合いに終始してしまったのは全くの計算外でした。
 次は物語の舞台です。苦難では山奥の山荘、大苦難では絶海の孤島とベタな設定が続いたので、今回も奇をてらわずに(?)豪華客船を選びました。
 船の名前は日本を代表する大型船『飛鳥Ⅱ』と『日本丸』からヒントを得て『弥生丸』としました。そして、せっかくの豪華客船だから、殺人のついでに怪盗も出そうということになり(ここら辺の設定は西村京太郎氏の『名探偵が多すぎる』の影響。というか丸パクリ。当然ながら向こうの方が数段面白いw)怪盗もシャッフルという、ありがちなネーミングで登場させたのです。
 怪盗といえば予告状という、あまりに古典的で安易なノリの設定を終え(もちろん、ここまですべて脳内)この話を書き始めました。それが苦難シリーズ史上……いや、小説を書き始めてから最も困難な作業になろうとは露とも思わずに。

 最初は比較的スムーズでした。
 何となく主人公の探偵事務所から始まり、何となく乗船前のちょっとしたエピソード、何となく船の中の豪華なディナー、そこに現れる何となく怪しい人物。そして何となく怪盗に狙われる一級品のダイヤ。まさに何となくのオンパレード。これで良く最後まで書き終えたなと、自分でも感心しています。
 ところが、そこまで筆を進めた時点で、事件も起こらないうちに、せっかくだから(何が?)と誘拐のアイデアが浮かびました。すると強引な二通目の予告状、不自然な行動をとる登場人物たち、後先の事を全く考えず適当に書いた謎や伏線の数々。お陰で途中、何回も書き直すハメになりました(それは前二作品も同様でしたが、今回は桁が違った)。
 それでも五十ページを過ぎた段階で、ほぼ終わりが見えてきましたが、ここで悪い病気が発症したのです。この時点で(作者としては)既に最長の作品だったのですが、物足りなさを感じて(ここら辺はランナーズハイのようなもの。ライターズハイ?)、新たなる登場人物を追加したのです。しかも二人も。
 参考までに記しますと、追加した人物とはグラビアアイドルの大野城エイラと税理士の松矢野です。副船長の飯田橋も最初は第八章以降の登場でしたが、出番を思い切り増やして、序盤から登場させました。
 つまり最初の段階では怪盗シャッフルは弥生丸には乗っていなかったという設定だったのです。
 お陰で文章に辻褄が合うように文章を大幅に書き足す事となり、完成もかなり遅れました。ページ数は大苦難の約五倍ですが、感覚的には十倍以上でした。
 しかし、その結果、(冒頭でも書いた通り)大変満足のいく作品になったと思います。

 ですが、いざ読み返してみると、後悔すべき点がいくつも目に付きます。
 例えば無茶苦茶な設定に強引な展開、ミステリーというよりも、荒唐無稽なファンタジーと呼べる代物になってしまいました。
 それはさておき、全百二十ページ程の作品にも関わらす、メインの事件発生までに七十ページほどかかってしまったという点も、問題の一つ。さすがに二枚の予告状と、小夜子を襲った襲撃事件のエピソードだけでは、中だるみは必至で、読者はこれがミステリー作品であることを忘れてしまいそうになるのではないかと、余計な心配をしています。
 それなのに、いざ事件が起こると、今度はいきなり三つの謎が同時に登場するという波乱の展開に。お陰で、終盤の推理のシーンは、かなりややこしい構成になってしまったり、何回も出てくる情報整理の場面が、結構煩わしかったりと(この文章も、かなり煩わしいが)、かなりの“苦難”を

に強いる結果になってしまいました。情報整理のくだりは、二時間サスペンスの半分経った頃に、途中参加の視聴者に分かり易く説明し直すのと大体同じパターンで、ちなみに前作の大苦難にもありました。
 今思えば、ダイヤの盗難事件だけでもタイミングをずらして、もっと早い段階で発生させれば良かったかもしれませんが(そう思うのなら、ちゃんと書き直せとの声が聞こえてきそうですが)、今更この膨大な(?)作品を修正することなど、到底出来かねます。
 さらに、前二作を読まれた方はご存知かと思いますが、メインの推理シーンにおいて、恒例の時間稼ぎや、見当違いの推理を展開させるなどの定番(?)が出来なかったのも、悔やまれるところです。しょうもないギャグやダジャレも、作者のセンスが如何に酷いかを改めて思い知らされるところでしょう。
 最終的に会話文だらけ(特に第八章の推理の場面)になってしまい、小説というよりも芝居の台本のようになったり、会話の主が判り難くなってしまったのも、今後の課題の一つとなりました(地の文だけだと、三十ページくらいに収まりそう?)。おかげでページ数の割には大作感が無いのは、ここだけの話にしておいてください(涙)。

 問題はまだあります。
 文章が単調な言い回しの連続で、小学生の作文並みに上手でない事は言うに及ばず、散々引っ張った挙げ句にトリックが見え見えという正直な読者の感想はこの際置いておくとして、名前の問題があります(おいおい! もっと気にするところがあるだろうが!)。
 一作目となる苦難では、四つ出てきた苗字のうち、三つまでもが三文字になっていました。これは偶然の産物であり、決して狙ったものでは無かったのですが、それを逆手にとって、二作目の大苦難からは登場人物の苗字を、敢えて三文字縛りにしてしまいました。
 特に本作である超苦難においては、名前が重大な意味を持ち、北鳴門氏と北奈留戸市、美咲と三佐樹というややこしい事態を招いてしまいました。北奈留戸市のトリックはともかく、美咲の謎は、勘のいい人なら最初のシーンですぐにピンときたかもしれません(K・Mのイニシャルもかなりのヒント)。
 現在構想中の続編“名探偵、苦難 小夜子編(仮)”も恐らく三文字縛りになる事でしょう(実際にそうなった)。
 他にも、峰ヶ丘が霧ヶ峰とイジられる場面がありますが、あれは最初から狙っていたのではなく、執筆の際に、峰ヶ丘と入力しようとして、何度か霧ヶ峰とタイプミスをしてしまったのがきっかけです。

 矛盾もかなりあります。なにせ、大型の船といえば、せいぜい中型のフェリーくらいにしか乗った事が無いので、内部のデザインは完全に想像任せ。本文のような豪華なレストラン街やショッピングモールが設置されているとか、本当に一般の乗客が入れないスイートルーム専用フロアがあるとか、僅か十センチとはいえ、客室の窓は果たして開くのだろうかとか、極め付きは、いくら揺れの少ない船底部とはいえ、巨大な釣り堀の設備が船の中に設置してあるといった構造上の問題など、突っ込みどころ満載です。
 それに非常時に自動的に開く非常扉や、いくら釣り堀があるとはいえ、コンビニに釣り具が売ってあるのかなど、常識的に考えてかなり無理のある設定だと改めて思いました(書いている時は何とも思わなかったところが、我ながら凄い)。

 そういえば、完成ギリギリになって、圏外であるはずの船の中で、平気で携帯を使用しているのはおかしいと気づきました。何とかならなかとネットで調べたところ、あのような大型客船には、フリーWi-Fiが設置されていることが判り、その描写を入れて何とか事なきを得ました(ふう、危なかった)。
 あと、税理士や副船長の仕事があいまいだとか、主要人物の面々が子供の美咲(琴美)を含め、あまりにも怪し過ぎたりとか枚挙にいとまがありません(笑)。
 それに加え、妙子(鈴香)がデービッドの事を警備員と間違えたり、副船長ともあろう人物が、備品を盗むというセコい事をしていたり、制服を着たまま客と飲んだり、ましてや酔っていたとはいえ、女性を襲おうとするなど、関係者が読んだら憤慨されるであろう表現がされているのも、自分でもどうかと思う。
 さらに、いかにも怪しかったデービッドが本当に犯人のひとりだったり、高野内と小夜子の喧嘩の後の仲直りがやけに早かったり、主要人物以外の人の表現が、かなりおざなりであったり、伏線の一部が回収されていなかったり、一週間の船旅のうちの最後の二日間はあっさりし過ぎていたり、さらにはトリックの一部(例えばGPSのくだりとか)は本当に実現可能なのだろうかという問題も残ります。

 ちなみに、この作品に限った事ではありませんが、全く関係のない過去の作者の作品のオマージュが入っています(かっぱ寿司専門店など)。気になる人はぜひお読みください(笑)。

 繰り返しになりますが、作者としては、過去最長の作品になったことで、完成したにも関わらず、さらにページ数を稼ぐために、調子に乗っていろいろ追加してしまいました。
 初の試みとして作品を章ごとに分け、それぞれタイトルも付けました。本タイトルはご存知の通り『名探偵、超苦難』という味もそっけもない名前ですが、章ごとのタイトルはそれなりにこだわりを見せて、更に英語までも追加するという暴挙に出ました。英語のタイトルは、ベストセラー作家の森博嗣先生の影響をモロに受けた次第で、その方が何となくカッコよく見えるだろうと、思い切って試してみた次第であります。あまりにも幼稚な中学生レベルの英語ばかりで、却って知能の低さが露呈した形になってしまった感も否めませんが……。よって綴りや文法が間違っている箇所があるかもしれません。もし気づいた場合は、遠慮なく指摘するか、その記憶を抹消してください。

 ここだけの話ですが、初稿の段階では第七章の最後に『読者への挑戦状』がありました。もちろんエラリー・クイーンのそれを意識しての事だったのですが、本文を読み返してみると、挑戦状を叩きつけるほどの大したトリックでは無かった事に気が付いたので、泣く泣く(?)削りました。
 これからも作者の苦難は続きそうです。

 最後に、この作品がより多くの方の目に止まりますように。

 
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