第11話 ギフト
文字数 1,366文字
複雑だなあ・・私はベットの中で呟いた。
すっかり忘れていたのに。融君のことは。
忘れていたよ。あんなこともこんなことも。ちっとも思い出さなかった。
再会なんて考えもしなかった。
あの頃随分支えてくれたのに・・私と来たら何て、忘恩の徒なのだろう。
何で離れたのだったっけ?・・・
あたしは暫し考える。
あの頃の事はあまりよく覚えていない。
兎に角日々を過ごすのに必死で。
融君と何かあったのかも知れない。何だった?
お互いに寂しさだけで繋がっていた。誰かの温もりが欲しかった。
心は違う人を求めていたのに。
私は陸を。彼は小夜子さんを。
彼の事を何度か「陸」って呼び間違った。
その度に笑っていた。
そんなの気にしていないって。
でも私は気にした。
私って馬鹿だなって思った。
あの頃は上手く人と付き合えなかった。
人との距離感が上手く掴めなくて、結構迷惑を掛けたなと今更ながらに思い出す。
ああそうだ。・・・思い出した。
彼の従妹の小夜子さんを一緒に見舞った時に、彼が余りにも優しい眼差しで小夜子さんを見るから・・・・自分から離れたのだ。
傷の浅い内に。
融君は相変わらずいい男だった。
カッコ良いけれど繊細って感じじゃない。
大らかで男っぽい感じ。
背が高くて力が強くて。
大きな手は陸に似ている。
笑うと明るくて。
面白くて温かくて。
すごく優しい人だった。優しすぎる位に。
それに全身で寄り掛かっていた。
あの頃はぐだぐだだったのだ。
どうしようもなくヘタレだったのだ。私は彼を傷付けたかも知れない。
でも、それに構っていられなかったのだ。
そんな事を考えているうちに、寝入ったらしい。
久しぶりに陸の夢を見た。
「樹、何やってんだよ。トロくせえなあ。」
陸が私を呼ぶ。
陸のボードが波の様に滑らかに流れる。
右に左にほんの少しエッジを上げただけでそれは自在に美しく滑って行く。
私はそれに見とれて、そして転ぶ。
どうして陸の膝はあんなにしなやかに動くのだろう。何であんなにバランスよく体を保てるのだろう。
「樹ってすげーかわいいよ。たまーにそう思うよ。ホント、たまにだけど。・・運動神経悪過ぎだけどな。」
私を可愛いって形容したのは陸が最初で最後。
陸が私を雪の上で転ばす。
転んでようやく起き上がった私をまた押して転ばして喜んでいる。私はずるずると無様に転げながら滑り落ちる。
散々笑った挙句手を差し伸べる。
「ほら、樹。何時まで寝てんだよ。他の人に迷惑だろうが。」
とか、何とか。
陸にいくら教えてもらっても巧く滑れなかった。私じゃ、一緒に滑っていても楽しくないよね。それでもよく滑りに行ったよ。
陸の手の感触が私の手に残った。陸の低い声が耳にまだ残っている。
あの乱暴で強引で優しい男。
背が高くて、ボードが巧くて、いい加減な奴。
「俺さ、樹にべた惚れなんだよな。最初見た時からさ。だから樹、俺を置いて他の男に就職すんなよ。」
本人目の前にしてよく言うわ。この人。聞いているこっちが恥ずかしい。
でも、陸。あなた本当にいい加減だよね。陸こそ私を置いて行ったくせに。
私は逃げる夢を追い掛ける。
どうして夢って消えてしまうのだろう。
ほんの少しだけ、今は何時だろう?とか今日は何曜日とか思った瞬間に消える。
慌てて追いかけても、もうあちこち欠落している。
お願いだから、消えないで。
儚い夢は神様からのギフト。
私は自分を笑った。
そして泣いた。
すっかり忘れていたのに。融君のことは。
忘れていたよ。あんなこともこんなことも。ちっとも思い出さなかった。
再会なんて考えもしなかった。
あの頃随分支えてくれたのに・・私と来たら何て、忘恩の徒なのだろう。
何で離れたのだったっけ?・・・
あたしは暫し考える。
あの頃の事はあまりよく覚えていない。
兎に角日々を過ごすのに必死で。
融君と何かあったのかも知れない。何だった?
お互いに寂しさだけで繋がっていた。誰かの温もりが欲しかった。
心は違う人を求めていたのに。
私は陸を。彼は小夜子さんを。
彼の事を何度か「陸」って呼び間違った。
その度に笑っていた。
そんなの気にしていないって。
でも私は気にした。
私って馬鹿だなって思った。
あの頃は上手く人と付き合えなかった。
人との距離感が上手く掴めなくて、結構迷惑を掛けたなと今更ながらに思い出す。
ああそうだ。・・・思い出した。
彼の従妹の小夜子さんを一緒に見舞った時に、彼が余りにも優しい眼差しで小夜子さんを見るから・・・・自分から離れたのだ。
傷の浅い内に。
融君は相変わらずいい男だった。
カッコ良いけれど繊細って感じじゃない。
大らかで男っぽい感じ。
背が高くて力が強くて。
大きな手は陸に似ている。
笑うと明るくて。
面白くて温かくて。
すごく優しい人だった。優しすぎる位に。
それに全身で寄り掛かっていた。
あの頃はぐだぐだだったのだ。
どうしようもなくヘタレだったのだ。私は彼を傷付けたかも知れない。
でも、それに構っていられなかったのだ。
そんな事を考えているうちに、寝入ったらしい。
久しぶりに陸の夢を見た。
「樹、何やってんだよ。トロくせえなあ。」
陸が私を呼ぶ。
陸のボードが波の様に滑らかに流れる。
右に左にほんの少しエッジを上げただけでそれは自在に美しく滑って行く。
私はそれに見とれて、そして転ぶ。
どうして陸の膝はあんなにしなやかに動くのだろう。何であんなにバランスよく体を保てるのだろう。
「樹ってすげーかわいいよ。たまーにそう思うよ。ホント、たまにだけど。・・運動神経悪過ぎだけどな。」
私を可愛いって形容したのは陸が最初で最後。
陸が私を雪の上で転ばす。
転んでようやく起き上がった私をまた押して転ばして喜んでいる。私はずるずると無様に転げながら滑り落ちる。
散々笑った挙句手を差し伸べる。
「ほら、樹。何時まで寝てんだよ。他の人に迷惑だろうが。」
とか、何とか。
陸にいくら教えてもらっても巧く滑れなかった。私じゃ、一緒に滑っていても楽しくないよね。それでもよく滑りに行ったよ。
陸の手の感触が私の手に残った。陸の低い声が耳にまだ残っている。
あの乱暴で強引で優しい男。
背が高くて、ボードが巧くて、いい加減な奴。
「俺さ、樹にべた惚れなんだよな。最初見た時からさ。だから樹、俺を置いて他の男に就職すんなよ。」
本人目の前にしてよく言うわ。この人。聞いているこっちが恥ずかしい。
でも、陸。あなた本当にいい加減だよね。陸こそ私を置いて行ったくせに。
私は逃げる夢を追い掛ける。
どうして夢って消えてしまうのだろう。
ほんの少しだけ、今は何時だろう?とか今日は何曜日とか思った瞬間に消える。
慌てて追いかけても、もうあちこち欠落している。
お願いだから、消えないで。
儚い夢は神様からのギフト。
私は自分を笑った。
そして泣いた。