第1話

文字数 1,639文字

 アイデアでお金が稼げたら良いな、とずっと思っていた。けれど今一つ、その一歩が踏み出せないまま 無駄に時間だけが過ぎていた。おそらく踏み出せなかったのは自分の実力を思い知らされるのが怖かったからだろう、と思う。きっかけは間違って購入した雑誌だった。僕は友達の誕生日プレゼントとして 懸賞情報の載っている雑誌を買ったつもりだったのに それは公募情報の載っている雑誌だったのだ。懸賞と公募の違いも分からないまま 本棚から手に取ってレジでお会計まで済ませたのだから恥ずかしい限りだ。唯一の救いは 官製はがきをその時点で購入していなかった、という事くらい。
 
 間違いに気付いたのは購入した雑誌をぺらぺらと捲っていた時だ。どうも自分の思い描いていた情報が載っていない。ネットで調べてみて疑惑は確信へと変わった。しかし失敗したものの 載っている公募に俄然興味が湧いてきている自分がいた。これって 少し前に自分が思い描いていたアイデアでお金が稼げるかもしれない可能性に満ちたものなのでは、と。俳句や川柳は今一つルールも分からないし、その区別すらわかっていない。音楽は楽器も持っておらず論外。絵心はまだある方だと思うけれど 他人と競えるほどのものでもなく、可能性があるとするのならキャッチコピーか文芸だろうと思った。しかもエッセイのコンテストは規定枚数も少なく、賞金も魅力的な額で これならば、と思い。即、書き上げてWEB応募で送った。書き上げた時、面白おかしく書くことも出来たので 何かしらに入選するのではないかと天狗みたいに鼻が伸びていたけれど そんなに甘い世界でもなく、箸にも棒にもかからず結果は全くもって駄目だった。

 自分の周りの誰に言うわけでもなく 黙々と更新される公募情報を調べては面白そうなコンテストに応募していたある日、かしわ餅の妖精のキャラクタデザイン募集という情報を見つけた。ゆるキャラのデザインならまだ自分にも描けるかもしれないし、これを職場の絵心のある人間を巻き込んで みんなで応募したら面白いんじゃないかと思いついたので 声を掛けてみると あれよあれよ、と参加するという人間が増えた。その時、皆の目の奥に十万円という数字がはっきりと浮かんでいたと思う。縁もゆかりもない遥か遠くの住所から 複数枚、作品が送られてきたことに実行委員の方々が驚いたことは想像に難くない。結果はまあ・・・、うん・・・、そりゃそうだよね・・・、縁もゆかりもないものね・・・、みたいなものだったのだけれど。僕は非常に楽しかった。うちの職場には芸大出身者や 独学で絵が上達した人もいて その人たちは今でもアートの公募に参加している。いつか彼らの作品が入選することもあるかもしれない、と思うと他人事ながら楽しみで仕方がない。何よりも嬉しいのは 職場でもあまり繋がりのなかった人間同士がコンテストきっかけで 会話をすることになったことだ。その反面、困ったことも当然あって、アート公募に未だに僕を誘ってくることだ。僕は自分の絵心に早々に見切りをつけたので そのお誘いは毎回、丁寧に断らせてもらっている。

 ノベルデイズの存在を知ったのも 公募情報誌のWEB版がきっかけだった。ただ今まで応募してきた作品は 審査員くらいしか目を通さないだろうと思っていたので気軽に応募出来たのに対し ここは不特定多数の人に読まれるかもしれないと思うと敷居が高く感じられ 応募するのに躊躇した。けれど面白くなければそもそも誰の目にも止まらないだろうし、落選した作品(虫歯と隠し味)を供養する意味でも投稿しようと考え、清水の舞台から飛び降りる覚悟で応募してみた。有難いことに今日までに多数の方に読んで頂いているようで感謝しております。この場を借りて御礼申し上げます。

 今、職場では空前の俳句ブームが巻き起こっていて 賞金五十万を目指して スタッフが暇を見つけては捻りだしているところだ。よろしければご一緒に一句どうでしょうか?
 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み