第75話 手紙

文字数 1,849文字

美桜はその家屋に入ると誰かがいたような痕跡を見つけた。家屋内の扉が半開きであったり、玄関口に土汚れが残っていたからである。靴を脱いで奥に進むと、手前にある一個目の和室の中心部に置かれている黒塗りの小さめの机の上に一枚の手紙があるのを見つけた。

「何かしらこの手紙?」

美桜は手紙を開けて中に入っている紙を開く。そこには皇明臣君へと書かれていた。

「あの人宛ての手紙? 書き方から見て女性から?」

美桜は手紙を読み進めると、家の力がなくてごめんねや子供のころからお互い好きなのに結婚できなくてごめんねと書かれていた。また、今も好きなことや明臣君の支えになりたかったとも書かれていた。

「何よこの手紙……好きな子いたんじゃない……」

その場に座って手紙を読み進めると、手紙を書いた女の子が家が潰れそうなことが書かれていた。

「家が潰される!? どうしてよ!」

美桜は感情的になりながら手紙を読むと、家の財政が危ういことや支援が受けられずに借金の方として自身が嫁ぐことで親が救われることが書いてあった。

「そんなことが……どこの家でも親のせいで子供が振り回されるのね……」

そして、手紙の最後にごめんねと一言だけ書かれていた。

この手紙を書いた人の名前は誰かと知ろうと美桜は、手紙の入っていた袋を見た。すると、手紙の裏側に差出人の名前が書かれていた。

「篁マリア……これが差出人の名前か……」

美桜は名前からしてハーフなのかなと思うも、この手紙の差出人が今も明臣が好きなんだと手紙の文章から分かりすぎる程に感じていた。美桜は手紙を読み終えると、袋の中に戻した。そして、その手紙を持って家屋から出ようとした時に、誰かの足音が聞こえた。

「だ、誰か来る!?」

美桜はとっさに近くにあった襖をあけて隠れた。そして、少しだけ隙間を空けて誰が来たのか確認することにした。するとそこに現れたのは明臣であった。明臣は黒塗りの机の上を見て、そこにあるはずの物がないといった感じに慌てていた。

美桜はこの手紙を探しているのかなと思い、恐る恐る襖を全開にして明臣の名前を呼んだ。すると明臣は身体をびくつかせて美桜の方向を向いた。

「み、美桜さん!? どうしてここに!?」

明臣は突然現れて声をかけてきた美桜に驚きつつも、どうしてここにいるか聞くことにした。

「どうしてここに美桜さんがいるんですか? 何か御用時でもあったのですか?」

平静を装いつつ美桜に聞くと、美桜は庭園を歩いていたらここに辿り着きましてと返す。そして、続けて美桜がこれをお探しですよねと一枚の手紙を手渡した。

「き、君が持っていたのか……中身は読んだのかい?」

明臣が美桜に恐る恐る聞くと、美桜が読みましたと笑顔で返答した。明臣はその場に座って読んだんだなと呟いた。

「はい、読みました。 篁マリアさんと両思いで結婚をしたいんですよね?」

単刀直入に聞いてきた美桜に対して、明臣は顔を紅くしながらそうだよと言葉を発した。美桜はやっぱりそうだと思い、私は貴方と結婚は出来ませんと言った。その言葉を聞いた明臣は、知ってましたと返した。

「会ったこともない人と、例え貴族といっても結婚なんかしたくないしね」

そう言われた美桜はバレてましたかと言う。美桜はお父様が勝手に進めた縁談で、勝手に婚約となりましたからと事実を言う。

「そうだったのですか。 私のお父様は美桜さんの意志のもとと聞いたと言っていましたが、弦十郎様の虚言でしたか」

明臣が虚言と言うと、美桜が家のために属性魔法が扱えない私を売りに出したと言えますねと話す。それを聞いた明臣は子供を利用するなんて酷すぎると怒っていた。

「全てお父様が悪いとは言いませんが、それでも私を含めて兄や姉達が苦しんでいるのはもう見たくはないですね」

その言葉を聞いた明臣はどうにかならないか考えておくと美桜に言う。そして、そのまま明臣は手紙を読むことにした。美桜はその間は立ちながら外の庭園の景色を眺めていた。

どれだけの時間が経過したのか数分か、数十分か分からなかったが短くもあり長くもある時間が経過すると、すすり泣く声が聞こえてきた。美桜は何が起きたのか明臣の方を向くと、涙を流しながら手紙を読んでいた。

「ちょっ、ちょっと! 急に泣いてどうしたのよ!?」

美桜が慌てながら明臣に近づくと、明臣がマリアさんも同じ気持ちだったんだなと分かってと言う。
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