第158話 5ヶ月と3日目 10月28日(水)

文字数 999文字

 ずっと部屋に籠もって小説を書いていたので、3日ぶりくらいに外に出た。
 明後日派遣バイトを入れていて、回数券を買ったのと熱帯魚屋さんへ最後の下見へ。
 熱帯魚君達を完璧に迎える為にどうしたらいいかを熱帯魚屋さんに相談に行くのもあって新宿へ行った。
 往路で前を歩いている女性が落とし物をしたのだが、恐らくワンピースのウエストを結んでいるベルト(ワンピースと同じ生地らしい)と推察した。
 たまたま女性の真後ろを歩いていたので、私はそれを拾って声を掛けた。
 後ろ姿からは10代か20代であろう。
 「あの、すいません」
 と、声を上げたが前を歩く女性の耳には届いていないようで、もう1度今度は、「あの、お嬢さん、すいません」と声を出したが、またまた気付いてくれない。
 その時一瞬の逡巡があったのだが、「お姉さん」ではキャッチの男みたいだし、「彼女ぉ」ではナンパしてるみたいではないか。 
 それに肩を叩いたり身体に触れる訳にもいかないから、やはりここは「お嬢さん」だろう。
 そう確信し今度は横に並び、できる限り声を張った。
 「落としましたよ! お・・・・・」
 の、「お」まで声を張ったその後には「○嬢さん」ではなく「○としものですよ」、と、小さい声で続けた。
 女性は恐縮しながら私の手からウエストベルトを受け取り、「ありがとうございます」、と、言ってくれ、私も「いえ」だけ言ってその場を離れた。
 ここで既にお分かりの方もいらっしゃるだろうが、女性は美人だったが恐らく30代後半から40代だったのだ。
 幾ら声を張っても、「お嬢さん」では気付いてくれない筈だ。  
 しかし「奥さん」とか、「お母さん」、或いは最悪なのが「オバちゃん」とか「お婆ちゃん」だろう。
 それよりは「お嬢さん」は全然オッケーなミステイクだと思うのだが、やはりあの女性は恥ずかしかったのだろうか。
 ま、何れにしても大惨事に到らなくて良かったと思う。
 これからも迷ったら「お嬢さん」で行こう。
 とか、考えているうちに、今日も競馬の開催時間もパチンコ屋の閉店時間も過ぎた。
 やはり今日の競馬やパチンコの無事は、「お嬢さん」に感謝であろう。
 そして明日の競馬やパチンコでの無事は、本物のお嬢さんに出会えることで無事としたい。
 しかしそんな邪な事を考えていると、あの18Rこと変態プリキュア女装おじさんに会うかも知れないので、真面目に小説を書こうっと。
 
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