第111話 3ヶ月と17日目 9月11日(金)

文字数 1,425文字

 テレビがぶっ壊れたままだったので、何とかしなければと、今日は朝からテレビを求め都内中を彷徨った。
 何故かと言うと色々迷ったのだが、地デジチューナーだけを買うことに決めたせいで、売っている店が都心にはなかったのだ。
 結局は板橋まで行く羽目に陥った。
 無論板橋も23区だし、そんな言い方をしたら板橋が東京じゃないみたいじゃないか、と、お叱りを受けることは重々承知している。
 しかしここで言う都心とは、新宿、渋谷、と、言った辺りで、大手家電店廻りをしたと言う意味なのでご了承戴きたい。
 普通にテレビを買っていたら直ぐに終わる買い物の筈が、モニターを残したい一心で夜までかかってしまった。
 私の場合ぶっ壊れたと言っても、DVDは見れているのだ。
 つまりモニターは大丈夫で地デジのチューナーだけがぶっ壊れたのである。
 まぁ、この機会に4Kテレビに買い替える手もある。
 しかしこのモニターには思い出が詰まっているし、捨てるには忍びない。
 そこで地デジチューナーを探そうと決意。
 ところが新品の地デジチューナーなど何処の大手家電店にも売っておらず、有るのは4Kチューナーのみ。
 結果最後の最後に板橋のリサイクルショップで見付けたのである。
 しかもネット検索の末であり、店頭に地デジチューナーが置いてあったのは都内でその板橋のリサイクルショップ唯一件で、その一点だけであった。
 だから今日の私は板橋万歳なのだ。
 しかし、と、言うことは今時地デジのチューナーなど探している人間は、自分以外いないと言うことか。
 つくづく自分は社会に置いていかれている、と、認識を深めた今日の一日であった。
 と、そう感慨を噛みしめた直後、今日都心の地下街で見掛けたおっさんを思い出した。
 それと言うのも透明のフェイスシールドをして、しかもパナマ帽を被った私と同世代のおっさんだったから忘れられなかったのだ。
 見た瞬間、「うわ、マスクでよくない」、と、胸中に呟いてしまった。
 声にこそ出さなかったが、その直後思わず見詰めてしまい不覚にも眼が合ったのである。
 やがてこちらを睨み付けるようにドヤ顔をすると、イケメンでもない普通におっさんなそのおっさんがパナマを被り直した。
 言わずもがなであるが、パナマ帽にフェイスシールドのそのおっさんは禿げていた。
 私は絶体に笑ってはいけないと、俯いたままそそくさとその場を後にして事なきを得たが、ひょっとしてあのフェイスシールドのおっさんと同じくらい、否、それ以上に私は社会に置いていかれているのではないか。
 今の刹那そんな不安が私の脳裏を過った。
 とか、考えていたら、競馬の開催時間もパチンコ屋の閉店時間も過ぎた。
 それに今日は宝くじがビリの200円しか当たらなかったので、スクラッチくじも買ったが今日は削ってはいないし、依存症治療である宝くじ療法は計算通りにいっている。
 そう言うことなので今日の無事は・・・・・フェイスシールドのおっさんにだけは感謝したくないので、やはり板橋のリサイクルショップに感謝しよう。
 明日の無事は肉体労働の派遣バイトもあるし、何よりもテレビが治った。
 板橋への道中恋愛小説や歴史小説を読んで打ちひしがれもしたが、テレビを観れば一瞬自身の才能の無さも忘れることが出来て、少しだが自分の小説も書けた。
 明日の無事は何と言っても、テレビが観れることで確実だろう。
 
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