余はいかにして・・・

文字数 2,660文字

眠れない。
スマホで、時間を確認しようとして・・充電が切れていることに、気が付いた。
・・・・。
充電ケーブル、それをとりにきただけなんです!
決して女の子のいる、二階にいこうとか考えていません・・・!
と心の中で弁解しながら、そろそろと牧師館の台所にいくと・・・・

明かりがついていて、そこには、さくらがいた。

「ちょ、なに、女子の方にきてるのよ!(小声)」
「お、俺はただ、充電ケーブルをとりにきただけで・・・(小声)
お前こそ、こんな時間になにやってんだよ?(小声)」
「わ、わたしは・・・その、ちょっと、」
「?  ちょっと?」
・・・・・・・。
次の言葉をまってると、沈黙に耐えかねたのか、いいにくそうに、さくらが言った。
「・・・ホラ、小さい頃、私、ここのキャンプに参加したことあるじゃない・・・」
ああ。おばけがでるよー、って、泣いて帰ったやつな。
「・・・その話を、ゆりにしたら、今夜もでたりして・・・って言われて・・」
え。
お前、まさか。
「まさか、怖いから、帰ろうとしてた?!」
「違うわよ!・・・ただ、その、ゆりが、電気を全部消さないと寝れない派だから、
私は台所で電気つけて寝ようかなー、とか、ここで起きてよっかなー、みたいな・・・」
暗いとダメなのよ、と珍しく、気弱に言った。
「・・・・お前、いつも、そうしてればいいのに・・・」
「どういう意味よ!」

そんなさくらを、なんとなく、ほおっておけなくて。
「ジュースのむ?」ときくと、
「結構です。」と断られた・・・
・・・・なんとなく、傷つくな・・・・

ケーブルを回収し、それじゃ、がんばれ・・・みたいな気持ちで去ろうとすると、
「よしゅあはさ、」と、さくらが、話しかけてきた。


「よしゅあはさ、・・・結局、牧師になるの?」
「・・・なんだよそれ・・・お前には、関係ないだろ。」
それに、今も牧師ですがなにか?
「関係ないって・・・、幼馴染には、ちゃんとした道にすすんでほしいなーって。」
「ちゃんとした道って・・・」
牧師じゃいけないのか?
「だって、ほら、よしゅあは『とりあえず』の『まにあわせ』な牧師であって、
好きでその道にはいったわけじゃないでしょ、」
「そりゃ、そうだけどさ
・・・お前、いつも、みんなの前でそれ言うけどさ・・・
そういうの、やめろよ。
『よしゅあは、聖書全部よんだことない』とかさ。」
「だって、ほんとのことじゃない。
よしゅあは、『とりあえずのまにあわせ牧師』で、
将来、ダリアさんと教会を、とか絶対無、」
「・・・読んだよ。」
「は?」
「聖書は全部読んだし、祈ってるし、皆、俺を牧師だって認めてるだろ!
毎回毎回、俺の事、牧師無理無理―、とかいってくれたけど、
俺は、ちゃんとやってるだろ。
今日一日、お前は俺の何を見て、何をきいてたんだよ!」
「はぁ?そのわりには、よしゅあ、昔っから、ちっとも、かわってないじゃない?
よしゅあのお父さんみたいな、よしゅあのお母さんみたいな、クリスチャンっぽさ、
全くないっていうかー」
「なんだよ、クリスチャンぽさって!俺はこれでも、」
「これでも?」
「聖書は読んでるし、祈ってるし、」
さっきも言ったな。
「と、とにかく、お前の言ってる、まにあわせ、なりにしてたんだよ!
お前みたいに、人を馬鹿にしまくるやつよりは、数倍マシだろ!」
「ば、馬鹿になんか、私は、アンタを心配して、」
「ほんとの神様を知らないようなお前に、心配なんかしてもらいたくないね、
聖書に、『兄弟に『ばか者。』と言うような者は燃えるゲヘナに投げ込まれます。』って、書いてあるんだぞ!」
さくらはそれをきいて、ショックを受けたような顔をした。
言い過ぎたな、とおもって、立ち去り際に、
「・・・お前も、聖書、読んでみろよ、正しい人間になれるからさ」と、
アドバイスした。
「・・・アンタのいう正しさ、の神なんか、いらないわ」
さくらが、言い返す。

あいつは、本当に勝気というか、なんというか・・・

もう寝よう、と、礼拝堂にはいろうとして、
その入り口の、壁に、ふと、目がとまった。

『神にとって、不可能なことは一つもありません。 ルカの福音書1:37』


・・・・・・・・。


『神に、とって。』



・・・・・・・・・。


お、俺、・・・。



気が付くと、牧師館の台所に、駆け込んでいた。
「さ、さくらー!!!!!(小声)」
「きゃっ、なんなのよ・・!」
さくらは、目元が赤くて、泣いて、いたようだった。

「おれ、おれ・・・・」
言いたいことがたくさんあって、
・・・・。
「・・・おれ、いつのまにか、自分は正しいって、思いこんでた。
聖書は読んでるし、教会の仕事もしてるし、正しい、クリスチャンだって。」
さくらが、だまって、こっちをみる。
「今日とか、皆が、すごいですねって、こんな素晴らしい教会を牧会できているよしゅあ先生は素晴らしいとか、そういうの、きいてて、高慢になってた。
俺の祈りがすごいとか、俺、自分が、すごく、高いところにいるような気分になってて、」

だから、神が、されたことじゃなくて、俺が、したと、思った。
そうだ。
おれは、すごく、高ぶってて。
全部、おれが、なしえたことだと。

「お、お前に、ひどいこと、言った。自分は正しくて、お前はダメだと。」
まだだ。
まだ、伝わらない。まだ、足りない。

「この、素晴らしい俺が、正しい道を教えてやる、そんな気持ちだった。

イエス様は、罪びとの友となられた。
俺は、『お前は罪びとだ』って、えらそうに言うばかりで」

だけど。

「さくら、おれが、
おれが、一番、罪びとだったんだ。
俺は、正しいクリスチャンで、牧師で、すばらしい働きをしてる、そう思い込んでて、
実は、みじめで、哀れで、盲目で、
・・・俺にこそ、神の救いが、必要だった・・・」

おれの、この、自分が正しい人間だとおもいこんで、さくらを傷つけたことを、ゆるしてほしい。
―さくらに。

そして、
おれが神中心でなく、おれ中心だったことを、ゆるしてほしい。
―イエスさまに。
おれが、自分の正しさで、救いを達成しようとしてたこと、
あなたぬきでーイエス様ぬきで、キリスト教を語っていたことを。






俺の話と、祈りを、さくらは、ずっと黙って、聞いていてくれた。
いつものように、ちゃかすことも、ひやかすとこもなく。
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