第1話

文字数 4,627文字

・1P
ひと気のない地下鉄のホーム。男が一人立っている

男の名:赤井優火

モノローグ:2012年5月14日。天候:晴れ
「お、きたきた」
電車が猛スピードでホームに向かってくる
モノローグ:今日は少し、遠出してみた
「悪いな、鉄ちゃん……でもまあ」
赤井が線路に向けて足を踏み出す
・2P,3P
「そのうち忘れるさ」
笑顔で線路に飛び込もうとする赤井。その後方から制服姿の女が手を伸ばしている
タイトル「無限」
・4P
電車が猛スピードでホームを通過する
「はあ……はあ……」
血の気の引いた表情

女の名:春日部今日子

「……はあ?」
赤井、呆けた表情
・5P,6P
「あ、危なかった……」
「……なに、してんだ?」
「そ、それはこっちの台詞っ! もう少しで死ぬとこだったんだよ!?」
「あー……まあ、そのつもりだったからな」
「バカっ!」
「え……」
「自殺とかほんとバカっ! ほんと! もう!……バカっ!」
「……(なんだこいつ。わけがわからん)」
・7P,8P
「大体さ、そんなすかした髪型してるくせにさっ!……ほんと、見れば見るほどなんだその髪型はっ!」
「……そんなに変か?」
「変っ!……だけどコダワリは感じるかな!」
「そりゃどうも」
「それなのになんで自殺なんか……」
春日部、ふと気づいたようにあたりを見渡す
「……あれ? どういうこと? こんな騒ぎがあったのに、駅員が一人もこないぞ……てゆーか」
不気味なほど静まり返った駅構内
「それ以前に、人自体、全くいないような……?」
・9P,10P
「いやまあ、そりゃそうだろ。つーか、さっきから何なんだ? お前」
「そりゃそうだろ?  え、どういう意味??……あ! そもそもだよそもそも! そもそも今日は朝からなんか変だった! よく考えたらここに来るまでにも人、全然歩いてなかったし! それにそれに、町の雰囲気が、なんてゆーか……」
春日部、不安げな表情
「……(ああ、そうか。こいつ)」

赤井、春日部の頭に手をポンと置く


「ま、現実逃避したいって気持ちは分かるけど、余計辛くなるだけだぞ?」
「は、はあ?」
・11P,12P
(なんて。俺も人のことは言えんけど)
「そんじゃーな」
赤井、片手をあげ、立ち去ろうとする
「ちょ、ちょっと! ちょっとちょっと! どこ行く気さ!?」
「……どこって、家にだけど。興が削がれた」
「ま、待って!」
「……なんで?」
・13P,14P
「ヘンガミさん、何かさっきから『俺知ってるぜ』的な空気出してるよね? ね? 知ってるなら教えてよ! この『変な感じ』はなに!?」
赤井、キョトンとした表情

春日部、真剣な表情

「……はあ。じゃあ、ついてきな(ヘンガミさん?)」
「! う、うん」
(面倒だ。地上に出たところで、テキトーに撒こう)
地上までの階段を上る二人

あたりを見渡す春日部

「やっぱり人、いない。通勤時間なのに」
「まあ、ここまで誰もいないのも珍しいっちゃ珍しいな」
「へ?」
「家近くの駅なんかだと、イカれたおっさんとかが結構徘徊してるけどな」
「? それってどういう……」
突如、雄叫びのような声が聞こえてくる
「ひゃっ?」
・P15,P16
階段前方。地上出入口に全裸の男が立っている
「え、え、えぇ~!?」
「噂をすれば、だな」
全裸の男「あああああっ!!」
全裸の男、全速力で階段を駆け下りてくる
「やべっ。おい、よけろ!」
「え、え」
反応が遅れた春日部、全裸の男に体当たりされる
「うそっ」
・P17,P18
そのまま階段を転がり落ちる春日部と全裸の男
「……あちゃー」
一人難を逃れた赤井、ゆっくりと階段を下りる

倒れたまま動かない二人

床面は血の池

「こりゃ即死だな。階段ダイブか。今度俺も試してみようかな」
そう呟きつつも、春日部の困惑した表情のまま固まっている死に顔に目をやる
「……」
ほんのわずかだけ、悲しそうな表情を浮かべる
「……そういや、名前も聞いてなかったな」
・P19,P20
住宅街の一角。平凡な一軒家の前
「ただいま」
玄関をくぐり抜け、リビングの戸を開くと、窓際に首を吊った中年男性がぶら下がっている
「親父……」
「ったく。家で首吊りはやめろって言ったじゃねぇかよ」
・P21,P22
どかりとソファに座り込む赤井

テーブルに置いてある煙草を手にし、ライターで火を点ける。

「ふうう」
ソファに背を深く沈める
「……」
窓際を睨みつける赤井
「臭ぇんだよ」
・P23,P24
早朝

部屋のベッドで目を覚ます赤井

ダルそうにカーテンを開く

「……快晴、か。そりゃそうだ」
ベッド横にある机の上には、原稿のようなものが散らばっている

赤井、一瞥するも興味無さげに欠伸をする

階段を下り、リビングの戸を開く
「おお。起きたか、優火」
首を吊っていたはずの父親が笑顔で話しかけてくる
・P25,P26
「……親父さぁ、俺、何度も言ったよな。家で首吊りはやめろって。家中が臭くなんだよ」
「ああ、悪い悪い。つい衝動的に、な」
「ちっ……」
「でもお前ならわかるだろ? ついヤッちゃう気持ちがさぁ」
「……うるせぇよ」
洗面所。鏡の前で髪型を整える赤井
「これでよし、と」
「お前、こんな状況でも身だしなみだけはやたらと気にするよな」
「みすぼらしいカッコで外歩くと、気分が滅入るんだよ」
「そーいうとこ、俺の息子とは思えんな。誰に似たんだか……ん? なんかいつもと少し整え方が違うような」
「……気分転換だよ」
・P27,P28
玄関に向かう赤井

後ろからついてくる父親

「な、なあ、優火。久々にやらないか? 決闘ごっこ」
いささか興奮した面持ちな父親
「やらねーよ。今日は昨日のリベンジする予定だしな」
腰を下ろし、靴ひもを結び始める赤井
「なんだよ、死に損ねたのか?」
「……なんか、変なJKに止められてさ」
「変なJK?」
「ま、よくいる頭イカれちゃった系だと思うけど」
「……言っておくが、レイプだけはやめとけよ」

靴ひもを結び終え、立ち上がる赤井。靴箱の上にある1枚の写真盾に目をやる

赤井の母親を含めた家族三人が笑顔で収まっている

「……するわけねーだろ」
・P29,P30

ひと気のない、地下鉄のホーム。赤井が一人立っている

電車が猛スピードでホームに向かってくる

「お、きたきた。今日も絶好調だな、鉄ちゃん」
赤井、線路側に足を踏み出そうとする。
『自殺とかほんとバカっ!』
!?

猛スピードでホームを通り過ぎる電車

呆然と立ちつくす赤井

「あれ……なんで」
踏み出せなかったことが腑に落ちない様子の赤井

突然、ぐいと腕を引っ張られる

・P31,P32
振り向くと、息を切らした春日部が赤井の袖を掴んでいる
「はあ……はあ……今、飛びこもうと……はあ……しなかった?」
「お前……! また来たのか。なんで」
「へ? どーいう意味……てゆーかそれよりさ、なんかおかしくない?」
「なにがだよ」
「だってさ、通勤時間なのに、人全然いなくない? あ! てゆーか、そもそもだよそもそも! そもそも今日は朝からなんか変だった! よく考えたらここに来るまでにも人、全然歩いてなかったし! それにそれに、町の雰囲気が、なんてゆーか……」
「……お前さ、ひょっとして」
「なに?」
「マジで記憶ないわけ?」
・P33,P34

駅前のカフェ

厨房でコーヒーを注ぐ赤井

「24時間営業でよかった。入口を壊す手間が省けた」
「ちょっと、ちょっとちょっと! 勝手になにやってんのさ、ヘンガミさん!?」
「お前さ、やっぱ記憶ないとか嘘だろ。今日の俺は絶対ヘンガミじゃない」
「あ、ごめん! 心のあだ名で呼んじゃった! あまりに髪型が面白くてつい……」
「赤井だ、あ・か・い! 二度とそのふざけた名で呼ぶんじゃねぇぞ」
片手で春日部の頭を鷲掴む赤井
・P35,P36
「痛だだだっ! てゆーか、そんなことどうでもよくて! 勝手にコーヒーとか入れたらダメでしょ! ケーサツ呼ばれちゃうよ!?」
「誰が呼ぶんだよ」
「そりゃ店員さんとか、他のお客さんとか……」
「お前、目ついてんのか?」
店内には二人のほかは誰もいない
「き、きっとたまたまお休みなんだけど、鍵かけ忘れちゃったんだよ! だから」
「言っててむなしくなんねぇか? ここは24時間年中無休だ。入口に書いてただろが」
「むうぅぅ」
コーヒーに口をつける赤井
「まあまあ、だな」
「ねぇ、ヘンガミさん。そろそろ説明してくれない? わたし、もう頭がどうかなりそうだよ」
「赤井、な……説明してやるからさ、いい加減お前も名乗ったらどうだ」
「あれ? 名乗ってなかったっけ? それはシツレイしました」
・P37,P38
「わたしは春日部今日子! 花のJK17歳! イッツァセブンティーン!  すなわちサイキョー」
「そうか。じゃあ、春日部。手短に説明してやるから、手短に理解しろよ」
「あっさりしてんね……」
「春日部お前、『ループもの』って聞いたことあるか?」
「へ? ああ、あれでしょ、『まどマギ』とか」
「へえ。今どきのJKってアニメとか観んだな」
「うーん、人によるかなぁ。え、てゆーかヘンガミさんこそアニメ詳しいわけ? その髪型で?」
「関係ねぇだろうが、髪型は……つーか、話が脱線してきたな。とにかく俺が言いたかったのはだな」
・P39,P40
「分かった!『実はこの世界はループしてるんだよっ!』な、なんだってー!」
「……」
「なんちゃって……あれ?」
「理解が早くて助かるよ」
「いや……いやいやいや、それはないっ。そんな……アニメじゃないんだからさ……」
「より正確に言うならそうだな……『日本時間で2012年5月14日0時から23時59分59秒までが少なくとも1000回以上は繰り返されている』ってところか」
「ヘンガミさん! わたしは真面目に聞いてるんだよ!?」
・P41,P42
「別に……信じたくなきゃそれでもいいさ。つーか今更だが、俺みたいな素性の知れない男なんかよりも、家族とか友人に聞いてみりゃどうなんだ?」
「それは……あ、それよりもテレビ! テレビ点ければ一発だよっ! 絶対報道とかしてるはずだもん!」
「……」
春日部、ケータイを取り出し、ワンセグを立ち上げる
!?
ケータイの画面に喘ぎながら腰を振る女の映像が表示される
「ひゃ、ひゃあ!?」
「うわ、マジかよ。まだやってたんだ、これ」
「なんで!? ど、どこの番組も、こんなんばっか! うわ、今度はグロ映像!?」
「テレビ局もとっくに機能してないから、どっかの暇人が乗り込んで勝手に放送流してんだよ。しかし、未だにやってる奴がいるとはな。もう誰も観てねぇだろうに」
「機能してないって……なんでさ??」
・P43,P44
「関係者が仕事しねぇからだろ。つーか、テレビ局だけじゃねぇぞ。さっきの駅やらカフェやらもそうだ。同じ1日が延々とループしてるってのに、わざわざ律儀に仕事なんてやると思うか?」
「でも、でも……そうだ、電車は動いてたよ!?」
「ああ。あれは多分鉄ちゃんの仕業だ。鉄道オタク、な」
「勝手に運転してんの!?」
「だろうな」
「そんなの……何でもアリってことじゃん……」
俯く春日部

身体が小刻みに震えている

「……まあ、これでも最近は比較的落ち着いてきてるけどな。前はもっと暴れる奴やら喚く奴やらでカオス状態だった。きっとみんな、虚しくなってきたんだろうな」
「そんなのって……そんなのって……」
「……」
赤井、渋い表情
・P45,P46
ニコッ
春日部、満面の笑み
「……?」
「わたし、いーこと思いついちゃったぁ。ねぇ、ヘンガミさん」
「な、なんだよ」
「今からディズニーランドに行こうよ!」
「……は、はあ?」
2話につづく
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登場人物紹介

赤井優火。19歳。趣味は自殺。1日がループする前は漫画家を目指していた

春日部今日子。17歳。1日がループしている自覚がない

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