07 犯人はお前だ【推理編3】
文字数 4,067文字
推理小説は好きだ。
でも、そこに出てくる『名探偵』というものを、俺はあまり信用していない。
思うに、奴らは幸運に恵まれ過ぎているのだ。
たとえば探偵の推理が行き詰ったりすると、なぜかふいに身近な誰かが解決のヒントになる発言をしたり、重要な証拠品が見つかったりする。それは、あまりに都合が良すぎる展開じゃなかろうか。
「あっ!? なんだべ、これ!」
……お?
境内を囲む林に入って、何やら探索していた門脇さんが妙な声をあげた。
「何か見つかりました!?」
意気込む絆に、拾い上げたものを掲げて見せる。
「絵馬か。どうしてこんなところに捨ててあるんだか……?」
絆がガックリと肩を落とした。なんだアレ か。
「ああそれ、拝殿に飾ってあったんです。でも、祈が」
花凛がこちらを睨んでくる。なんだその冷たい目は。言っておくが、俺は、絵馬を捨てたことを一つも後悔してないぞ。
「ふうん。前の晩は、こんなもん飾ってなかったのになぁ……『ずっと一緒にいられますように』だって。ははっ……名前が書いてあるぞ、どれどれ」
同級生カップルが残した絵馬を、門脇さんはニヤニヤしながら眺めている。
ほら、見たことか。結局こういう恥ずかしい状況になるだろう。
「オジサン。今、前の晩に絵馬は無かった――って言いましたよね?」
絆がまた何かをひらめいたようだ。
「ってことは、これは今朝に飾られたってことだよな。まさか……響と笑美が朝から潜んでいて、会長を襲って……まだここに隠れているんじゃ……?」
ヤツが喋り終わるよりも先に、俺は電話をかけていた。
「ああ、響、久しぶり。今、どこだ?――家か。……笑美も一緒にいるんだな? いや、立て込んでる ときに悪かったな。じゃあ」
通話終了。
「いたぞ、ふたりとも家に」
「笑美も一緒にいたの? 私も話したかったなぁ」
花凛がうらやましそうに呟く。
「いや、直接話したわけじゃなくて、声が聞こえただけなんだ」
喘ぎ声が。何かを察したのか、二マリとした絆が「姫はじめってやつだな」と、例によって下品な古い言い回しをした。花凛は意味がわからなかったらしく、今回はスルーされる。
まあ――現実はこんなもんだ。
重要な手がかりなんて、都合良く見つかるわけがない。てか、ヤッてんなら電話に出るな! いちいち腹立つ奴らだな、クソっ。
「はいはい、刑事ごっこはそこまでだ」
門脇さんが小さくて丸い手を、ぱんと叩いた。
「寒くなってきたし、そろそろ皆帰ったほうがいいべ。会長も、そのケガ、病院で診てもらった方がいいんじゃないかな」
「うむ。じゃあ、そうさせてもらおうかな」
樫葉会長は額のキズに手をやって、今さらながら痛そうに顔を顰めた。
「ちょっと、待ってください!」
大人たちに向かって、絆が叫ぶ。
「まだ会長を襲った犯人がわかってないのに。このまま解散していいのかよ!」
「大丈夫だ。泥棒だか暴漢だか知らないが、さっきから林の方を見回っているけど、人っこひとり見かけねえ。念のため、おれはもう少し見回っていくから。君たちはもう帰りな」
風邪ひくぞ、と門脇さんが絆の薄い背中を押す。
駐車場でエンジンがかかる音がした。見ると、樫葉会長が二台停まっているうち一台の軽トラックに、巨体を屈めて乗り込むところだった。
西木幌町のメシアが、早々と去っていく様を見ながら、俺は、完全に夢から覚めた気分でいた。
どうして探偵の真似事なんてしてしまったんだろう――?
事件の真相が何だ。そんなのどうでもいいじゃないか。好奇心だけで動ける絆と違って、俺は、基本的に私利私欲のためにしか動かないのだ。
「せっかく、推理で事件の状況を突き止めたっていうのに。犯人はわからず仕舞いかよ!」
狐のような目を吊り上げて、絆が烈火のごとく怒っている。なんて熱い男だろう。我が幼馴染ながらに感心する。
「他のアプローチから何とかならないかな……そうだ、凶器とか。脳天を打たれているから、やっぱり棒状のものとか」
なあ、と情熱的な似非探偵に肩を叩かれる。
「さあ……殺意はなかっただろう、ってこと位しかわからないな」
「殺意――そうか、殺すつもりならナイフとか、もっと殺傷力の強い凶器を使うはずだ。脳天を打っただけで済んだということは、殺す気はなかったってことだな。で?」
「――で?」
先を促された俺は両手を上げる。お手上げのポーズだ。
「これ以上はわからないよ。わかりようもないし」
「なんだよ頼りないな!」
何とでも言え。俺のやる気ゲージはゼロを振り切ったんだ。
車道と石段、どちらの道から帰ろうか迷っていたら、花凛が石段の方へ歩きだしたので、それに付いていく。早く帰って、暖房の効いた部屋でアイスクリームでも食べたい気分だった。
「動機は? うーん……会長が背中を向けてしゃがんでいたから、襲うには絶好のチャンスだったっていうのは理解できるとして」
「本当にチャンス だったのかな」
「へ?」
「絆が犯人だったら、会長をどう襲う?」
雑談に付き合ってやるつもりで、適当に話題を振る。
「そうだな。社務所の陰に隠れて、こっそり忍び寄って……こう!」
武器を振り下ろす動作をする。
「そう上手くいけばいいけどな。途中で気づかれたらどうする? たとえば、階段の真下あたりで。そうなったら、ただでさえ馬鹿デカい会長が、段上にいる状況で向き合うことになるんだぞ――壇上の巨人 と。メチャクチャ怖いぞ、たぶん」
「それはそうかもしれないけど。背中を見せているんだから、やっぱり襲うにはチャンス!と感じるんじゃないかな……?」
「背中を見せている瞬間だったら、その前にもあっただろう。思い出せ。会長は襲われるまで何をしていた?」
「なにって、除雪……」
絆がはっとした表情になる。
「なるほど! 除雪をしていたなら、作業中に隙が出来る。腰をかがめる瞬間もあっただろうし」
実際やってみるとわかるが、除雪作業というのは結構な重労働である。
スコップで雪を掻く音で周囲の音は聞こえづらくなるし、背後から誰かに襲われても気づけないこともあるんじゃなかろうか。
「それに、あの拝殿に上がる階段。使うたびに軋む音 がするだろう」
「あーそれ、私も思った。昔遊んでたときは、そんなことなかったのにね。老朽化したんだね」
花凛が回想するように口を挟む。
「もし、会長を襲おうとチャンスを狙っている犯人だったら、当然気づいたんじゃないかな? あの階段が軋む ってことを――。だって、会長が階段を上がるところを見ていた はずなんだから」
あ、と絆が声にならない悲鳴を漏らす。
「そうか! あんなにギシギシ音がしたら、気づかれるに決まってる!……妙だな。犯人はそこまで気が回らなかったのか?」
「難しい話じゃない」
まるで地蔵のように、立ち止まって動かなくなった絆を振り返る。
「犯人は、会長よりも先に神社に来て、余裕をもって背後を狙っていたわけではない――ってことだ。
会長よりも後に着いて、犯人が最初に見た光景 が、『賽銭箱の前にしゃがんでいる会長』の姿だったんだ」
「でも、それじゃあ」
絆の不安げな声が、どこか遠くに聞こえていた。
雑談に付き合う程度のつもりだったのに――これから俺は何を明らかにしようとしてるんだろう? 何を指摘しようとしているんだろう?
「賽銭箱の前にしゃがむ会長を見て、すぐに襲ったっていうのか? なんでだよ。全然意味がわからない……あ!!」
ついに気づいたか――。
頬を紅潮させながら、絆が「わかった!」と息を弾ませて、
「やっぱり犯人は《賽銭泥棒》だったんだな! 自分が狙っている賽銭箱を横取りされると思って、あせって会長を襲ったんだ!」
え?
きっとコイツには、やる気のない探偵を舞台に引き戻す、天然のワトソン属性があるに違いない。
「……ここに来る途中、お前らは、町内で《空き巣騒ぎ》があったことを話していたな。俺は知らなかったけど」
「なんだよ、いきなり。それがどうした?」
そこで俺はひとつ息を吐く。
「空き巣騒ぎに、怒って警戒している――そんな人間が、たとえば、だ。
神社の賽銭箱の前にしゃがみこむ怪しい男 の姿を見たら、どう思うだろう――? 賽銭泥棒 と勘違い しても、無理ないんじゃないかな」
賽銭泥棒――。
今日は随分と、その存在に振り回された気がする。
目的とあらば暴力もいとわない、恐ろしい泥棒――暴漢が潜んでいるなどと、怯えさせられもした。
しかし、実際にそんなものは存在しなかった。皮肉なことに、襲われた樫葉会長こそが――《賽銭泥棒》と勘違いされていたのだ。
「じゃあ……犯人は、会長を賽銭泥棒と勘違いして、とっちめてやろうと思って攻撃したってわけか……!? 青天の霹靂過ぎる発想だな!」
「もし、この想像が当たっているとしたら、犯人は消去法でわかる」
絆の表情に緊張が走るのを確認して、俺は続ける。
「会長を賽銭泥棒と勘違いしたのは、まず、門脇さん――ではない。普段から見慣れている会長を、彼が泥棒と勘違いするはずがないからだ。そして、俺と絆でもない。石段を滑って登り直してきた俺たちは、着いてすぐに、倒れている会長を発見した。時間的余裕がないのは明らかだ。残ったのは――」
振袖姿でずんずんと先を行く後姿が、ふいに立ち止まる。
振り返った、その頬は、寒さのせいか緊張のせいか、いつもよりも上気しているように見えた。
「犯人はお前だ――花凛」
でも、そこに出てくる『名探偵』というものを、俺はあまり信用していない。
思うに、奴らは幸運に恵まれ過ぎているのだ。
たとえば探偵の推理が行き詰ったりすると、なぜかふいに身近な誰かが解決のヒントになる発言をしたり、重要な証拠品が見つかったりする。それは、あまりに都合が良すぎる展開じゃなかろうか。
「あっ!? なんだべ、これ!」
……お?
境内を囲む林に入って、何やら探索していた門脇さんが妙な声をあげた。
「何か見つかりました!?」
意気込む絆に、拾い上げたものを掲げて見せる。
「絵馬か。どうしてこんなところに捨ててあるんだか……?」
絆がガックリと肩を落とした。なんだ
「ああそれ、拝殿に飾ってあったんです。でも、祈が」
花凛がこちらを睨んでくる。なんだその冷たい目は。言っておくが、俺は、絵馬を捨てたことを一つも後悔してないぞ。
「ふうん。前の晩は、こんなもん飾ってなかったのになぁ……『ずっと一緒にいられますように』だって。ははっ……名前が書いてあるぞ、どれどれ」
同級生カップルが残した絵馬を、門脇さんはニヤニヤしながら眺めている。
ほら、見たことか。結局こういう恥ずかしい状況になるだろう。
「オジサン。今、前の晩に絵馬は無かった――って言いましたよね?」
絆がまた何かをひらめいたようだ。
「ってことは、これは今朝に飾られたってことだよな。まさか……響と笑美が朝から潜んでいて、会長を襲って……まだここに隠れているんじゃ……?」
ヤツが喋り終わるよりも先に、俺は電話をかけていた。
「ああ、響、久しぶり。今、どこだ?――家か。……笑美も一緒にいるんだな? いや、
通話終了。
「いたぞ、ふたりとも家に」
「笑美も一緒にいたの? 私も話したかったなぁ」
花凛がうらやましそうに呟く。
「いや、直接話したわけじゃなくて、声が聞こえただけなんだ」
喘ぎ声が。何かを察したのか、二マリとした絆が「姫はじめってやつだな」と、例によって下品な古い言い回しをした。花凛は意味がわからなかったらしく、今回はスルーされる。
まあ――現実はこんなもんだ。
重要な手がかりなんて、都合良く見つかるわけがない。てか、ヤッてんなら電話に出るな! いちいち腹立つ奴らだな、クソっ。
「はいはい、刑事ごっこはそこまでだ」
門脇さんが小さくて丸い手を、ぱんと叩いた。
「寒くなってきたし、そろそろ皆帰ったほうがいいべ。会長も、そのケガ、病院で診てもらった方がいいんじゃないかな」
「うむ。じゃあ、そうさせてもらおうかな」
樫葉会長は額のキズに手をやって、今さらながら痛そうに顔を顰めた。
「ちょっと、待ってください!」
大人たちに向かって、絆が叫ぶ。
「まだ会長を襲った犯人がわかってないのに。このまま解散していいのかよ!」
「大丈夫だ。泥棒だか暴漢だか知らないが、さっきから林の方を見回っているけど、人っこひとり見かけねえ。念のため、おれはもう少し見回っていくから。君たちはもう帰りな」
風邪ひくぞ、と門脇さんが絆の薄い背中を押す。
駐車場でエンジンがかかる音がした。見ると、樫葉会長が二台停まっているうち一台の軽トラックに、巨体を屈めて乗り込むところだった。
西木幌町のメシアが、早々と去っていく様を見ながら、俺は、完全に夢から覚めた気分でいた。
どうして探偵の真似事なんてしてしまったんだろう――?
事件の真相が何だ。そんなのどうでもいいじゃないか。好奇心だけで動ける絆と違って、俺は、基本的に私利私欲のためにしか動かないのだ。
「せっかく、推理で事件の状況を突き止めたっていうのに。犯人はわからず仕舞いかよ!」
狐のような目を吊り上げて、絆が烈火のごとく怒っている。なんて熱い男だろう。我が幼馴染ながらに感心する。
「他のアプローチから何とかならないかな……そうだ、凶器とか。脳天を打たれているから、やっぱり棒状のものとか」
なあ、と情熱的な似非探偵に肩を叩かれる。
「さあ……殺意はなかっただろう、ってこと位しかわからないな」
「殺意――そうか、殺すつもりならナイフとか、もっと殺傷力の強い凶器を使うはずだ。脳天を打っただけで済んだということは、殺す気はなかったってことだな。で?」
「――で?」
先を促された俺は両手を上げる。お手上げのポーズだ。
「これ以上はわからないよ。わかりようもないし」
「なんだよ頼りないな!」
何とでも言え。俺のやる気ゲージはゼロを振り切ったんだ。
車道と石段、どちらの道から帰ろうか迷っていたら、花凛が石段の方へ歩きだしたので、それに付いていく。早く帰って、暖房の効いた部屋でアイスクリームでも食べたい気分だった。
「動機は? うーん……会長が背中を向けてしゃがんでいたから、襲うには絶好のチャンスだったっていうのは理解できるとして」
「本当に
「へ?」
「絆が犯人だったら、会長をどう襲う?」
雑談に付き合ってやるつもりで、適当に話題を振る。
「そうだな。社務所の陰に隠れて、こっそり忍び寄って……こう!」
武器を振り下ろす動作をする。
「そう上手くいけばいいけどな。途中で気づかれたらどうする? たとえば、階段の真下あたりで。そうなったら、ただでさえ馬鹿デカい会長が、段上にいる状況で向き合うことになるんだぞ――
「それはそうかもしれないけど。背中を見せているんだから、やっぱり襲うにはチャンス!と感じるんじゃないかな……?」
「背中を見せている瞬間だったら、その前にもあっただろう。思い出せ。会長は襲われるまで何をしていた?」
「なにって、除雪……」
絆がはっとした表情になる。
「なるほど! 除雪をしていたなら、作業中に隙が出来る。腰をかがめる瞬間もあっただろうし」
実際やってみるとわかるが、除雪作業というのは結構な重労働である。
スコップで雪を掻く音で周囲の音は聞こえづらくなるし、背後から誰かに襲われても気づけないこともあるんじゃなかろうか。
「それに、あの拝殿に上がる階段。使うたびに
「あーそれ、私も思った。昔遊んでたときは、そんなことなかったのにね。老朽化したんだね」
花凛が回想するように口を挟む。
「もし、会長を襲おうとチャンスを狙っている犯人だったら、当然気づいたんじゃないかな? あの
あ、と絆が声にならない悲鳴を漏らす。
「そうか! あんなにギシギシ音がしたら、気づかれるに決まってる!……妙だな。犯人はそこまで気が回らなかったのか?」
「難しい話じゃない」
まるで地蔵のように、立ち止まって動かなくなった絆を振り返る。
「犯人は、会長よりも先に神社に来て、余裕をもって背後を狙っていたわけではない――ってことだ。
会長よりも後に着いて、犯人が
「でも、それじゃあ」
絆の不安げな声が、どこか遠くに聞こえていた。
雑談に付き合う程度のつもりだったのに――これから俺は何を明らかにしようとしてるんだろう? 何を指摘しようとしているんだろう?
「賽銭箱の前にしゃがむ会長を見て、すぐに襲ったっていうのか? なんでだよ。全然意味がわからない……あ!!」
ついに気づいたか――。
頬を紅潮させながら、絆が「わかった!」と息を弾ませて、
「やっぱり犯人は《賽銭泥棒》だったんだな! 自分が狙っている賽銭箱を横取りされると思って、あせって会長を襲ったんだ!」
え?
きっとコイツには、やる気のない探偵を舞台に引き戻す、天然のワトソン属性があるに違いない。
「……ここに来る途中、お前らは、町内で《空き巣騒ぎ》があったことを話していたな。俺は知らなかったけど」
「なんだよ、いきなり。それがどうした?」
そこで俺はひとつ息を吐く。
「空き巣騒ぎに、怒って警戒している――そんな人間が、たとえば、だ。
神社の賽銭箱の前にしゃがみこむ
賽銭泥棒――。
今日は随分と、その存在に振り回された気がする。
目的とあらば暴力もいとわない、恐ろしい泥棒――暴漢が潜んでいるなどと、怯えさせられもした。
しかし、実際にそんなものは存在しなかった。皮肉なことに、襲われた樫葉会長こそが――《賽銭泥棒》と勘違いされていたのだ。
「じゃあ……犯人は、会長を賽銭泥棒と勘違いして、とっちめてやろうと思って攻撃したってわけか……!? 青天の霹靂過ぎる発想だな!」
「もし、この想像が当たっているとしたら、犯人は消去法でわかる」
絆の表情に緊張が走るのを確認して、俺は続ける。
「会長を賽銭泥棒と勘違いしたのは、まず、門脇さん――ではない。普段から見慣れている会長を、彼が泥棒と勘違いするはずがないからだ。そして、俺と絆でもない。石段を滑って登り直してきた俺たちは、着いてすぐに、倒れている会長を発見した。時間的余裕がないのは明らかだ。残ったのは――」
振袖姿でずんずんと先を行く後姿が、ふいに立ち止まる。
振り返った、その頬は、寒さのせいか緊張のせいか、いつもよりも上気しているように見えた。
「犯人はお前だ――花凛」