第十二話「最終回 その3」

文字数 1,693文字

夢を見た。

鏡を見たら豚になっていた。他人にはどう見えているのかわからない。怯えながら外に出るといつものように世界は同じ手も足も人間のように生えているけれどガラスに鏡に映る自分の姿だけがどうしても、豚なのだ。

・・・・

おはよう

お、おはようございます

ベッドの上で横になっていた。

よく眠れて?

美緒さんは温かいスープを僕の前に差し出した。

み、美緒?・・・

そうだ。

「名前を当てて」という彼女を前にして俺は。

(以下、回想)

そ、そんなのわかりませんよ!・・・

いいえ、あなたはわかるはずよ、私の名を言ってみて!

・・・。・・・。結城、美緒・・・・。

ゆっくり瞼を閉じる彼女の目の端からすうっと涙が走った。それにはなにも意味がない通過儀礼のように見えた。

そう、そしてそのまま意識が遠のいて・・・・。

(回想、終わり)

気がつけばこうしてベッドの上。

そう、私は結城美緒。あなたは私の名前を言い当てた。

いえ、当てたというより生成したの。

あなたがその名を口にしたかったから。

そ、そんなことが・・・。

カオスフィールドの中で生まれた私と瞳はあなたが前に進めないために現れたの。

水島君。あなたは私と出会うことで、さらに覚醒しつつあるわ。

終わりに向かうために。

そう、リビルド。始まりのための終わりへ。

あの・・・キルケゴールは倒せるんでしょうか・・・

ふぅ、それは簡単ではないわね。実存哲学の祖キルケゴール。

現実存在としてあがきながらパッションだけで始まったこの話。

強引な理屈が許されるなら実存哲学を表現していたようにも思えるわね。

葛藤と躓きを前にして、それでも主体的に関わろうとするこの実験小説そのものの

生成の苦しさ、がそれね。

そう、なんですね・・・

ダメね、私ばかりしゃべって・・・本当はあなたがすべて理解すべきことなのに。こうして説明ばかりでつまらなくなってしまう。

美緒さん・・・・これは、失敗でしょうか?

ふふ、それはまだわからないわね。

お昼ご飯を作るから、ということで美緒さんは食材を買い出しに行った。

バカチンおはよー!!

お、おはよう。また、お前か・・・

お前じゃないでしょ!瞳よ!!瞳っ!

瞳は俺の腕を引っ張り力づくで玄関に行かせようとする。

さっ、行くわよ!あんたと姉さまがお話しするとこの物語終わっちゃうから。

お出かけしよ!

靴を履き紐を結ぶ瞳。

おお、今日はきちんと靴を履くんだな

あったりまえじゃない!!今日は遠くへ行くんだから!

強引に押し切られて俺たち二人は電車に揺られて遊園地に着いた。

電車の中でも遊園地でも、瞳ちゃんははしゃぎ続けた。振り回されながらも、きらきら光る瞳を見ているのは悪くなかった。

あんたなにあたしの輝いてるところを二三行で端折ろうとしてんのよ!

足をブラブラさせてベンチに座りソフトクリームを舐める瞳。

絵に描いたようなそれ、だ。

ずいぶんと時間が経ったような気もするけれど、まだ夕暮れにすらなっていない。

いい天気だ。

携帯電話が鳴った。

も、もしもし・・・

水島君?・・・今どこにいるの・・・

美緒さん?・・・え、デスティニーランド、ですけど・・・

瞳ちゃんと一緒に・・・。

やっぱりね。今そちらに向かうわ。瞳にはなにも言わないで!

あの子は必ずもっと遠くへ行こうとするはずよ。

は、はぁ・・・でもいったい

あの子はもうすぐこの世界から消えるの。

き、消える!!?

そう、消える・・・っていう設定なの。

っていう設定!!?

そう。登場人物の紹介を見れる?

・・・・・・

瞳ちゃんだけ、いない?・・・

そういうことなの。彼女はもともと存在していないキャラクターなの。だから主人公であるあなたを憎み、あなたに与えられた名前を喜んだの。カオスフィールドではなにが起こるかわからないわ。とにかく急いでそちらに向かってる。そこを動かないで・・・

瞳は今どうしてる?

え、と。急に眠くなったって言って今グッスリ寝て

美緒って誰よ!!・・・・・・・・・

瞳は俺の腕を掴み引っ張る。

あんたはあたしの言うことを聞いてればいいのっ、、、


遠くへ、遠くへ、行こ。

瞳は言うと、急に息遣いが荒く、力なく、前のめりに倒れこんだ。

瞳ちゃんっ!!

次回 第十三話「最終回の最終回」に続く

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登場人物紹介

名前「水島義男(みずしまよしお)」

中二病を病み続ける男。

哲学者キルケゴールの存在を知ったときに自分は彼の生まれ変わりだと信じてしまい絶望に身を投じる。


名前:セーレン・キルケゴール(アイコンは作者描いてます)

実在したデンマークの哲学者。

著書「死に至る病」が有名。

実存哲学の巨匠である。愛した女性レギーネ・オルセンの婚約を突如破棄し、絶望の中から哲学を探求し続けた。

名前:結城美緒(ゆうき みお)

水島にとって、すべてをかけて愛したという最愛の人。


キルケゴールの著書

名前:竹林香織(たけばやし かおり)

通称「かおちん」

パチンコ屋の店員で結城美緒の親友


女の子

覚醒レベル「サード」の覚醒者

水島義男の物語を向かわせるべきところへ導こうとする

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