第1話

文字数 442文字

 待ち遠しい時間はとても長いと感じる。
 私は何度も腕時計を見たがあと五分が過ぎてくれない。
 通りの向こうに見慣れた白いSUVが私の視界に入る。
 あの人がいつものようにまっすぐ前を向いてハンドルをさばく。そして白い車の切っ先はターンして私の真横につける。
 幸せな時間の始まりであると同時に、数時間の逢瀬の終わりのカウントダウンが始まる合図でもある。うなじの下、背中の骨あたりになぞった私のコロンの香りが一層強く香る。
 決まって夏はいつも暑くて、長い。今年の夏もきっと恐ろしく暑くそして
あっという間に私と彼の時間は終わる。また会えるかなと聞きたいが無理で、終わりの予感はなかった。まさかこの日が最後になるとは思わなかった。

 ある日突然に、手紙一枚で終わりを告げる私の恋。

 そのつぎも、またその次もずっと、何度もあると思うことが間違いだなんて思ってもいなかった私は若すぎた。
 十九歳なんて大嫌いだ。そしてそれからの、今。
 もっと嫌いだ、夏なんて。暑いだけじゃないかと思うのは間違いだろうか。
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