第12話

文字数 7,776文字

 明光第一で、死んだ六年生の男子について説明会が行われたらしいと泉へ知らせてきたのは、クラスメイトのりあだった。りあは交友関係が広くて、その点、他校に知り合いや友人などいない泉には彼女は貴重な情報源だった。りあは、自分も怖い夢を見て、そのことを泣きながら泉へ報告して以来、体調を崩しがちで、ピアノのレッスンもままならない状況だったが、身体がつらいぶん積極的に友人たちとメッセージをやりとりしているようだった。りあの場合はそれが恐怖をまぎらわせる手段らしく、泉にも頻繁にメッセージや電話が来た。そしてそのたび周囲から得られたうわさの断片を、請われるまま、昼夜を問わず泉へ教えていた。明光第一は生徒数が多く、真偽のほどはどうあれ情報はいろいろな方面から飛びこんでくる。
 説明会はつい数日前に行われたばかりだという。りあの友人の女子生徒が実際にそれに出席していた。そしてその友人は、会が終わったとき、椅子ごと突如倒れた同級生の真後ろに座っていて、非常なおどろきとショックを受けたという話をりあにした。友人もチョーカーの悪夢を見ていたし、とにかく怖がっていて深いことまでは話してくれなかったが、その場にいた教員や親たちは「熱中症だ」と言っていたらしい。だがそれを聞いていた周りの生徒たちはむしろ冷めていた。白けた空気で、扇風機の音がやたらにうるさかった。倒れたその同級生は幸い大事には至らなかったが、脱水症状気味で、今も自宅のベッドに寝たきりだという。
 「でも、熱中症じゃないよね? 泉くん。りあたち、みんなそう思ってるのに」
 りあの声は震えていた。泉は電話越しにもそれが分かった。
 「だってみんな、あれのせいだって思ってるよ。りあもそうだもん。あの夢の……」
 真夜中だった。泉は通りに葉月の部屋の電気が相変わらずしっかり消えているのを眺めながら、エナジードリンクのボトルを手から離さずにいた。飲みすぎると美容に毒というが、気にしなくなった。
 「それじゃとりあえず、まだ死んでないんだね、その倒れちゃった子」
 「うん」
 「よかった。……何がよかったのか分かんないけど」
 泉はけわしい顔で訊いた。
 「で、自殺しちゃった子のほうは? なんで死んだか、死んだときの状況とか、詳しいことは説明されたって?」
 「ううん。なんか、自殺はほんとのことっぽいけど、ちゃんとした説明はなかったって」
 「どうせそうだろうと思った。それじゃ意味ないじゃん、何のための説明会だったの。いつも形ばっかり。言いたくないことはすぐ隠す」
 泉は窓ガラスに映る自身をにらんだ。自殺したその生徒が例の動画配信にかかわっていたことを先日りあから聞いたとき、彼は「やっぱり」と思った。その生徒はあのとき動画を撮影していた、つまり撮影者の少年だった。あの夜の撮影隊の中心メンバーのひとりだった。それを聞かされ、「ほらね」と思わないはずがない。泉の予想は当たっていた。
 悪夢の感染は止まっていない。こちらにも明光第一の生徒にも、市内、市外、県内外、全国、もはや自分たちの認識できる範囲を超えて静かに広まっている。その感染が悲劇を現実に生んでいる。先日にも、県外で、橋から落ちて重体に陥った小学生のことがニュースになっていた。わざわざ自分から柵をのぼって落ちるなんて、そうそう起きうることじゃない。それとも偶然? ほんとうに? 考えすぎるほど考えても、心の奥から納得のいく「偶然」は泉には思いつけていない。
 「投稿した本人は、まだ入院中?」
 「うん、たぶん」
 沈んだ声でりあは答えた。
 「説明会にも来てなかったみたいだし」
 「だれが連絡取ろうとしても、返事がないんでしょ?」
 「そうみたい。泉くんに言われたとおり、友達に何人か頼んでみたけど、メッセージ送ってもずっと既読にならないから、スマホ見てないっぽい。反応がないって」
 「そっか。その子と仲が良ければな、病室まで会いに行きやすいけど、さすがにね……」
 「ていうか、面会できないかもしれないよ。子供だけじゃだめって言われそう」
 「そうだね。お見舞いはちょっとハードル高いかな。まずその子も話したくないだろうし。いい感じに再生数、稼げてた動画を消すんだから。一緒に撮影してた子は死んじゃうし」
 「ねえ。りあ、その動画見てないけど、お墓に置いてあった食べ物、勝手に食べちゃったんでしょ?」
 「そう。それが炎上みたいになって、コメントが荒れたの。けどそのときは盛り上がった」
 「泉くんは、やっぱりそのせいって思う? そのとき、お墓にいた幽霊が……怒って、みんなを呪ってるって。勝手にお供え物を食べたのが小学生だったから、手当たり次第に小学生を呪い苦しめようとしてるって。そう言ってる子もいるの。すごくうわさになってる。呪いとか、たたりとか」
 「さあ、どうだろ。分かんないよ。けどそうだとしたら、あの動画が削除されたのはどう考えても痛かったな。また見れば、何か気づけるかもしれないのに」
 「やだあ。りあ、絶対見たくないよ……」
 眠たいが寝るのが怖いと嘆くりあに付き合い、その気持ちは泉も十分共感できたので、ふたりはそれから努めて他愛ない世間話をするようにした。無料回線であるのをいいことに三時過ぎまで話し、くたびれて通話を切った。
 りあは愛犬のトイプードルを抱いて寝ると言っていた。どんなに眠たくとも、このごろそうしないと寝つけないという。泉は数時間ほど眠ったが、記憶に残る夢は見なかった。疲れきって気絶するように寝ることが身を守るすべになるとは、先月までは思いもしなかった。
 目が覚めて、何をするでもなくぼうっとして、思い出したように残りの課題を片づけた。それから葉月にメッセージを送ると出かける準備をした。メイクをする気はなく日焼け止めだけ塗って、キャップをかぶると玄関をあけた。午前十時過ぎだったが、日差しはたっぷり降りそそいでいる。自転車で通りを横切り葉月の家まで行こうとすると、ちょうど玄関から本人が出てきた。葉月は泉を見ると手を上げ、ガレージから自転車を引っ張り出し、通りを泉のほうまで渡ってきた。葉月も帽子をかぶっていたが、ペダルから足を下ろすとまぶしそうに目をしばたたき、こすった。
 「おはよう。泉」
 「おはよ。だいじょうぶ?」
 「うん。どこ行く?」
 「どこでも……どっか快適なところ。人が少なくて」
 「うん」
 「橋の下にしよっか? 途中でコンビニ寄って……あ、でも」
 泉は時計を見て、
 「この時間ならまだすいてるかも、あそこのフードコート。あそこなら広いし、すずしいし、なんか買って飲めるし」
 「うん」
 ふたりは大型の商業施設の一階を目的地に決め、どちらからともなくペダルを踏んだ。
 葉月が実家への帰省を終えこちらへ戻ってきてから、泉の葉月と過ごす時間は以前より少し増えた。家にひとりでいると鬱屈としてくるので、当てがなくとも外へ出る。そうすると、少なくとも泉はわずかながらにも気がまぎれた。りあが友人たちと連絡を取り合うことで恐怖を薄めているのと、似たような感覚。葉月は泉のそんな気持ちを知ってか知らずか、外がどんなに炎天だろうと今のところ嫌な顔ひとつ見せていない。もっとも泉は、葉月があからさまに嫌そうな表情をするのを、面と向かって目にしたためしはなかったが。
 ほとんど会話はなく、ふたりは自転車を走らせた。この市は道路が広く、車の交通量が多く、そのぶん歩行者や自転車はむしろ少ない。地方都市ならではの車社会。スピードを上げ橋を渡り、ゆるやかな坂をくだり、国道へ出ると目的の大型看板が見えてくる。
 駐輪場は空きが多かった。泉の思ったとおり、一階の食料品売り場やコーヒーショップ、フードコートにまだ人はまばらだった。夏休みはもうよほど終わりに近く、世の中は通常の平日の午前に戻っている。ペダルをこいだ身に、外の暑さと比べ屋内は生き返るようだった。
 ファストフードの店でドリンクを買って、ふたりはひと目を避けるように端のテーブルを選んだ。アイスクリーム店の今月の新商品が、対面遠くに大きく掲示されている。
 泉は早速、昨夜りあから聞いたことを葉月に話した。葉月はおよそ友人同士の会話とは思えない深刻な顔でそれを聞き、聞き終えたあともその表情を変えなかった。目の下の皮膚を青紫にしている。葉月はやはり夢で問われるチョーカーをさがすつもりでいて、だがこれといった手がかりがなく、さがしたいのにどうすればいいか分からず二の足を踏んでいた。夢でつつかれる右肩にここ数日は起きていても違和感が残って、眠るたび疲れが蓄積している。葉月のそのもどかしさを泉は感じ取りはしても、どうすればいいか見当はつかず、そしていっこう疲れが取れず肉体的につらいのは泉も同じだった。
 「やるべきことがはっきりしてたら、いいのに。せめて」
 特大のため息とともに泉がつぶやくと、長い間のあと、葉月が応じた。
 「はっきりしてるよ」
 「何?」
 そのあと葉月が言わんとすることを、しかし泉は分かっていた。
 「はっきりしてるよ、泉。さがすんだよ。あの人の……チョーカーを」
 「だから――それはもういいよ。さがすにしても、どうさがせばいいのか、それがはっきりしてたらいいのに、っていう意味」
 「うん。だから僕、考えてた」
 「考えて分かるなら苦労しないよ。僕、思うの。別れたあとのカップルの気まずさがしばらくすると自然消滅するみたいに、このまま全部が一件落着してくれないかなって。別れたあとも普通に仲良し、それかそもそも付き合ってなかったっていうビジネスカップルはこの場合、除外ね」
 「それできのう、思い出した」
 「はーくん? 僕の話、聞いてる?」
 「うん。考えてみて、思い出したんだけど」
 「分かった、分かったよ。もう。何?」
 「あの撮影のときだよ。泉。お墓にいたとき」
 葉月の目に力がこもった。
 「


 「えっ?」
 「みんなが食べ物で遊んでたとき。覚えてるよね。あのときそばにあったお墓から――どのお墓だったかは分からない――何かが落ちた。僕はそれを見たのに、きのうまでずっと忘れてた。でも落ちた」
 にわかに顔つきを変えた泉へ、葉月は力強く継いだ。
 「紐みたいな何かだった。細長い、紐かリボンみたいな。ひらって落ちた」
 「はーくん、それって」
 「うん。でも、ほんとに一瞬だった。ちゃんと見たわけじゃなくて、落ちたな、って思っただけ。だからそれがそのあとどうなったか知らない。そのときは気にしてなかった。だれも拾わなかったし、何かが落ちたことも言わなかった。だからどんなに頑張ってもぼんやりした形しか思い出せなくて。紐みたいな、たぶん短い、ひらひらって……」
 「色は?」
 「分かんない。暗かったせいで、そこまでは。白っぽかった気もするんだけど」
 「動画に映らなかったかな。僕は全然……気づかなかったってこと? いや、あの感じじゃ気づくほうが無理……ていうか画面外だったかもしれないし」
 「そう思う。映ってなかったと思う」
 「そうなると、はーくんのほかにその落ちた何かを覚えてる可能性があるのは、あのときお墓に一緒にいた子たちだけだね」
 「うん。けど、だれか覚えてるかな。知ってるかな。ほんとに、ちっちゃなことだったから」
 「それがチョーカーだと思うの?」
 葉月は答えず、もとの真剣な顔に戻った。そうだと思っていたが、確信はなかった。
 あのとき墓のどれかから落ちたもの。
 葉月はそれを自力で思い出した。見続けている怪夢は今のところチョーカーのありかに関して何のヒントも与えてくれていないが、葉月はそこから具体的な手がかりを得たいと望んでおり、だから積極的に夜も眠る。あの夢が、あの人が何か教えてくれないかと考え目を閉じるとき、基本的に葉月は恐怖を感じていない。怖くないと言ったらウソになるが、それは恐怖というより緊張に近い。それぞれの悪夢からのがれようと精一杯の努力をしている泉やほかの子供たちと、その点、葉月は大きくずれていた。
 「泉はどう思う?」
 泉はストローから口を離し、さあというふうに肩をすくめた。
 「泉はまだ夢を見てる?」
 「最初のとき以来、一度だけ。ううん、二回か。けど、どっちもあのときよりずっとあいまいな夢だったから助かった。はーくんのほうがよっぽど鮮明でリアルだと思う。僕はあの人の顔も知らないの」
 「それは僕も。ちゃんと見たことない」
 「でも、少なくともはーくんはあの人の……なんて言うの、『本体』と接触してる。そうじゃない? 僕の場合は、一回目は母さんに化けて出て、あとは声だけだったり、『そこにいるな』っていう感覚だけなの。うまく言えないんだけど、ぼやけてるっていうか、かたちがない」
 「うん」
 「だから、はーくんのほうが、よりあの人の『本体』に近いものを夢に見てるんじゃないかな。だからあの人がどんな女の人か、どんな顔してるか、一番よく知ってるのはじつははーくんかも」
 「そうなのかな」
 「分からないけどね」
 泉はキャップを目深にかぶり直し、テーブルにべったり頬杖をついた。キャップの下から、憔悴した視線をちらと投げた。
 「ねえ、はーくん? あのさ。聞いて。僕、ほんとはこの話したくないんだよ。そもそも話したくないの。愚痴るつもりじゃないけどさ」
 「うん。分かってる。泉」
 「口に出したくないから、みんな大概黙って静かに、ほら、嵐が過ぎるのを待ってる。自分に災難が来ないうちに過ぎ去ってくれるのを待ってる。僕だってほんとはそうしたいの。けどそれじゃいけないってはーくんが言うから、頑張ってる」
 「うん」
 「けどそれでも、こうやって話し合ってると不安になる、これがだいじょうぶなのか。あの人を刺激してるんじゃないか、怒らせてるんじゃないか、また夢に出るんじゃないかって。あの人の、なんだろ……ルールに反してるんじゃないかって。分かるでしょ? この感覚」
 「うん」
 「すごく悪いことしてる気になるの。どれくらい悪いかって、たとえるなら――」
 泉はアイスクリーム店の新作フレーバーの掲示へと目をやり、それを指差した。
 「あれを、なんにも考えないで好きなだけ食べまくったとき。それくらいの罪悪感」
 「それって、そんなに悪いことなの?」
 「決まってるよ。あれにどんだけの糖分が含まれてると思ってるの? でもおいしそう。今は食べたくないけど、食べたいな。何味だって? 僕の視力じゃ読めない」
 「カスタード・シュークリーム風フレーバーだって」
 「アイスなのになんでシュークリームなの? だったらひやしたシュークリーム食べればよくない? って思うのは僕だけ?」
 「シュークリームで有名なお店と一緒に開発したみたいだよ。そう書いてある」
 「ああ、なるほど。コラボしたの。ミーツ系か。最近そんなのばっか。……はあ……」
 疲れたふうにキャップに顔を隠した泉を、葉月はのぞきこんだ。ためらう顔つきに少し黙ったが、そろりと言った。
 「ねえ、泉。……あのさ」
 「言わないで。分かってるから。何を言いたいか大体分かっちゃってる」
 「そうなの」
 「さっきの話聞いて、はーくんのしたいことが分からないわけない。……行って確認してみたいんでしょ? あのお墓に。現場に」
 「うん。落ちたものがまだあるかどうか。もしあれば、それが何か」
 「ないよ。一ヵ月近く前の話だよ? とっくに風に飛んでるか、だれかに踏まれたか、掃除されたか捨てられたか」
 「うん。でも行ってみたい。なくてもいいから」
 「本気? 僕にも行ってほしいの?」
 「うん。だめ? 泉が行きたくなかったら、僕ひとりで行くよ」
 「ああ……ああ、もう。葉月……」
 身を投げうつように泉はテーブルへ突っ伏した。頭からキャップが取れ、かすかなシャンプーの香りが葉月にかかった。その体勢のまま泉はしばし動かなかったが、やがて顔を上げると目だけ葉月を見た。
 「保留」
 むすっとして泉は言った。
 「行くにしても、きょうすぐ、これから、とかはさすがにやめて。それが条件」
 「じゃあ一緒に行ける?」
 「行かないとは言わない。いいよ、分かったよ。けど今、言ったとおりね。いきなりすぎて心の準備が間に合わない。遠いし、バスの時間もあるし。イベントとかなんにもない日に鈴掛行きの便が都合よくあるかな、そんなに本数あるとも思えない。学校始まってからでもいいでしょ? 土日とか」
 「うん。でも、きょうじゃなくてもいいけど、なるべく早めに行こう。まただれか……」
 泉を気にしてか葉月は口をつぐんだが、泉にはその続きがやはり聞かずとも分かっていた。
 まただれか死ぬ前に。
 「アイス食べようかな」
 泉が言った。ふたたび店のほうへ葉月が視線を移し、「あ……」とこぼした。
 「どしたの?」
 「今……」
 葉月が先を言わないので泉もそちらを見やるが、アイスクリーム店のそばに客の姿はなく、その向こうのガラスドア付近にはたった今、出入りをしている人々の小さな波があるだけだった。ここは駐車場とエントランスをはさみ、少々待たされる信号があるので、それが青になったタイミングで一気に客が入ってきたりする。
 「今、何?」
 じれた泉がうながすと、じっと見つめていた葉月はあきらめたように視線を戻した。
 「今、あの撮影で一緒だった子がいた気がして。ふたり。肝試しにもいた」
 「え、マジ?」
 泉は慌ててまた目をやったが、人波はすでにばらけ、消えている。小学生と思われる子供もいない。
 「そのふたりってのは、前から知ってる子? 友達?」
 「ううん。撮影のときはじめて見たから、別の学校だと思う。僕は話さなかった。ふたりとも――男の子も女の子も――あのときはずっとふたりでいて、仲良しそうだった。明光第一の子たちともしゃべってたけど……」
 葉月は自信をなくしたように首をかしげた。
 「でも、気のせいかも。今、あっちのほうにふたりで歩いていったように見えて」
 「どうしよ。追う?」
 「ううん、いいよ。いい。まちがってたら泉に悪い。ほんとに気のせいだと思う。……」
 とは言ったものの、葉月は自分が今しがた目端に見た少年の、日に焼けた手足のすらりとした活動的な印象と、少女のほうのカールしたポニーテールには、やはりあの撮影の夜からの見覚えがあるように感じていた。ふたりは並んでエスカレーターのほうへ行った。だがこれ以上、先刻からの話を引きずって泉を不快にさせたくない、という思いがまさった。
 葉月は口を閉じ、それからストローをくわえた。泉は椅子の背にもたれ、キャップをかぶり、ため息をついた。低い声で言った。
 「ダブルにしよ」
 葉月は一瞬、泉がなんのことを言ったか分からなかった。だがすぐ、こくりとうなずいた。
 ふたりはそれからアイスクリームをダブルで買った。チョコミントやキャラメル。カスタード・シュークリーム風フレーバーはふたりとも選ばなかったが、テイスティングをスプーンに山盛り一杯もらった。味がシュークリームかどうかはさておき、それはとても甘く、ひと口で食べた泉をかすかにうならせた。
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