降り積もる雪

文字数 1,863文字

その日は朝から雪が降っていたよ。


クリスマスも過ぎた12月28日の夜。


気の合う仲間で集まって私の部屋で忘年会を開いたの。


6人のメンツの中にはもちろん武藤さんも。


私の部屋は12畳1間の古いアパート。


少し狭いけどみんなで楽しい時間を過ごすには十分だったよ。


楽しい時間は瞬く間に過ぎ去るよ。


時計は0時を回っているの。


メンズは泊められないから武藤さんともう一人は帰る事に…。


私はタクシーを呼ぶと女の子の友達を部屋に残して外まで送る事にしたよ。


部屋で待てればいいんだけどアパート周辺の細い道は毎年たくさんの雪が積もってどんな車の進入も拒むの。


少し先の太い道路まで行かなきゃいけないの。


間もなく1台のタクシーが来てもう1人とはすぐにお別れ。


その場には私と武藤さんの2人きりだよ。


痛いほど寒い深夜。


雪の止む気配は無い。


電球色の街灯が照らす。


持ってきたビニール傘に肩を寄せる2人。


いや寄せたのは私なんだけどね。


タクシーはこない。


来るワケなかった。


タクシーは1台しか呼ばなかったの。


「タクシー来ないね。

どこかで埋まったかな?」


こんな事をしても武藤さんに迷惑かけるだけなのはわかってるよ。


でも…


1分1秒でもそばにいたい。


私はタクシー会社に問い合わせるふりをすると武藤さんへ一度部屋に戻る事を勧めたの。


向かってた1台が雪に埋まって身動きとれないって。


少し時間がかかるみたいだよ?


・・・・・・。


もちろん全部ウソなの。


「そっか、でも悪いよ。

女の子の部屋にいつまでも居座るワケにはいかないし。

俺はこのままタクシーを待つよ」


・・・・・・。


お酒のチカラもあったと思うよ。


いつもよりたくさん飲んでたの。


私は雪の積もったビニール傘を投げ捨てると…


彼の胸に飛び込んだの。


ドキ ドキ ドキ ドキ

ドキ ドキ ドキ ドキ


ドラマの様に鼓動が聞こえる気がしたよ。


冬の寒さとお互いのコートが邪魔して武藤さんの温もりは感じられないの。


私は腕にチカラを込めて…

『ギュッ』

っと抱き締めたよ。


微かに彼が愛用しているウィークエンドの香がするの。


胸に飛び込んでからどの位の時間が過ぎたのかわからない。


数分?


数秒?


武藤さんは私の背中に手を回すと…


『ギュッ』っと私の事を抱き締めて応えてくれたの。


ドキ ドキ ドキ ドキ

ドキ ドキ ドキ ドキ


今だ…


今しか無いの!


「武藤さん…私…」


私は…


背筋を伸ばして…


ツマサキを立てて…


背伸びをして…


彼にキスをしたの。


彼とのファーストキスは寒さのせいで感覚が無かったよ?


現実はロマンチックにいかないね。


やっぱり時間の感覚がハッキリしないの。


彼は…


武藤さんは腕にチカラを込めると…


『え!?


私の肩をつかんでそのまま引き離したの。


顔をそむけてそのまま時が止まる…。


雪が…


私達に降り積もる雪が止まって見えるの。


冷たくは感じないよ?


カラダの感覚も思考も全てが麻痺してるの。


そんな…


それは明らかな拒絶だったよ。


今日は初めてな事だらけ。


武藤さんを抱き締めて…


武藤さんにキスをして…


今は武藤さんと手を繋いでるよ。


彼に拒絶された後。


私の瞳からは熱い涙がボロボロ流れ出てきたの。


鼻もぐしゃぐしゃ。


喉が痛い。


きっと私は凄い顔をしてるよね。


彼はそんな私の手を引いてアパートに連れ帰ったの。


部屋で待ってた友達はビックリ。


困る彼の代りに答えたよ。


「急に気分が悪くなっちゃって武藤さんに送ってもらったんだ」


涙が止まらない。


「ありがとう武藤さん。

もう大丈夫だよ。またね」


私は一方的にそう伝えると部屋の中に入ったよ。


「ごめん、俺は男だから…あと頼んだね」


彼は彼女達に私を託し部屋を後にしたの。


あぁ。


今日は本当に初めてな事だらけだったの。


なのに…


彼の温もりを感じるものは何も残ってないよ。


「藍苺? 大丈夫?」


「大丈夫、大丈夫だよ…」


布団に倒れこんだ私は急な疲労感に襲われてそのまま深い眠りについたの。
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登場人物紹介

ヒロイン(HN:藍苺ランメイ)


北海道の土産店に勤める高卒女性社員。

社会人として頑張っているがまだ若い。

趣味は自分磨き。


写真素材[モデル:Lala*]

武藤さん


仲卸しの営業マン。

妻子持ちの働き盛り。

ブルーベリーを使った中国酒が好き。

無糖あずは無関係(゜-゜)


写真素材[モデル:ゆうせい]

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