君の瞳みたいに

文字数 969文字


「今夜、流星群が見れるんだって」
 君からの誘いは突然だった。

 秋の入り口の風は冷たくて、人恋しさを助長する。
 待ち合わせ場所で君に声をかけると、振り返って鼻歌でも歌いそうな表情で駆け寄って来た。
 僕が手を差し出すと、君はその満面の笑顔で飛びついてくる。

 えくぼが今日も愛らしいと君の顔を見て僕は思った。
 互いの薄いコートを眺めて、そのうかつさに笑い合う。

 なんだって、こんな寒い日に。
 いくらか後悔しながらも、うきうきと弾んだ心で共にロープウェイへと向かい、乗り込んだ。
 冷え切った指をコートのポケットで寄り添わせて、少しの熱を分け合った。

 ワゴンの中では誰もが押し黙っていたけれど、君のおしゃべりな視線の先を眺めるだけでも時間を潰せた。
 僕はとても幸せ者だと思う。

 夜の山は思っていたよりさらにずっと寒かった。
 ぶるりと震えた君と同じように、僕もひとつ身震いをする。
 お互いそれなりにおしゃれしてきた服装は失敗、けれどこんな思い出が増えてもいい。
 デートとしてはベタな夜景スポットだけれど、こんなありがちなことを繰り返して僕たちは距離を縮めてきた。
 これからもそうありたい。
 たぶん君もそう思ってくれている。

 自販機でホットのお茶をふたつ買う。
 君はうれしそうに眉を下げて受け取ると、頬を擦り寄せながら「もう少しね」と言った。

 少しだけ薄い雲がかかっている。
 けれどずっと星が近くに見える。
 たくさんの人が空を見上げていたけれど、それでも今僕たちはこの世で二人だけだ。
 そう思わせてくれる夜空だった。

 君は何度も楽しげに腕時計を見た。
 観測推定時刻に差し掛かって、暗い空へと目を凝らす。
 僕はそんな君のきらきらした瞳の横顔を見ていた。

「あ、あそこ!」

 君が指差した先を僕も見た。
 同じようにあちこちで声が上がる。
 想像していたよりも迫力はなかったけれど、それでも感動するには十分だった。
 君の瞳みたいにきらきらしている。
 僕も君もただその空を見上げている。
 なにもかもが美しくて、僕は感謝の気持ちを覚えた。
 あの星がまた巡りやってくるときに、また君とここでそれを見上げたい。
 そう願った。

「またね、同じ星が来たとき」

 君がつないだ手をぎゅっと握った。
 見なくても君の表情はわかっている。

「また、一緒に見られるといいね」

 僕も握り返した。
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