第4話 青の森

文字数 447文字

 青い光が植物の生育を促すという話を御存知だろうか。天体の光が弱まる新月の夜、市街地の辺縁に建つ温室群では一斉に有機青色光の照射が行われる。硝子壁を通して広がる光は昏い夜天を照らし上げ、照射の間じゅう、暁のもっとも深い一瞬が続いているように見えるのだとか。そしてその一夜で植物は忽ちに成長し、真冬であったとしても花々が咲き誇り、伸びた枝葉は脆い硝子壁を喰い破って領域を拡大してゆく。
 近年問題視されている植物類による地上の侵蝕はこうして人為的に行われているのだが、実はその現象を加速させているのは、此の世ならぬ青色に惹かれて温室へ近づいた人間が尽く青色光を浴びて植物と化す所為なのだと云う。
 誰が温室の管理をしているか? 温室見物に赴き幸運にも生還した者達の語るところでは、過ぎた生育の果てに人となった植物が統率しているらしい。しかし彼等が本当に人間として戻ってきたのかが分からぬ以上、それは滅びゆく者が知る必要は無いのであろう。私達はただ、生きている青に喰い尽くされる夜を待つのみである。
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