九の二 師傅の護り
文字数 3,821文字
「影添大社は百人もいるらしいね。普段は何をやってるの? 金は国から? 本当に百人も社員がいる? なんで一般人に隠しきれるの?」
知りたかったことをヘリの中で尋ねる。
「全部社外秘ていうか私も知らない」
大蔵司はつっけんどんに答えるだけ。「でも百人もいるかな? あれも足してかな?」
『ほほほ、全容を知っているのはごく限られた人のみ。さあ到着ですよ』
アナウンスが答えてくれたけど、麻卦や折坂さんのことだろう。
「あれってあれか?」
「教えない」
思玲が聞いても答えないならば、俺ならなおさらだろう。
「あれって何?」
「大蔵司が教えぬなら私もシークレットだ。――東南東に山間部を進め。速度をゆるめろ」
『お任せあれ、おほほ』
思玲が着陸箇所を細かく指示しだす。窓に貼りつく。やり取りに気づかない夏奈はスマホでゲームしている。
「行き過ぎた。東から回りこんで、あの空き地に着地しろ」
『了解です。見事な視力ですね、ほほほ』
数分ほどで山間の一角に、ド派手な大型輸送ヘリが羽根を止める。今までで一番快適な乗り心地だった。さすが宮司専用機。
「なんか日本の山奥って感じ。毒蛇がいるんだっけ?」
台湾島に降りたった夏奈が言う。
たしかに異境な感じはしない。見慣れた緑に囲まれた雑草だらけの一角だ。台湾の地理など知らないから、新北がどこか分からない。北側だとは思うけど。
「荒れたな。九郎の仕事がたっぷりできた。香港から戻ったら草刈りさせよう」
俺に続いて降りた思玲が言う。「念のため警戒するぞ。桃子に援護させろ」
『桜井ちゃまは私の中に入れておくべきでは?』
屋外スピーカーのように桃子が言う。
「僕もそうすべきだ」
夏奈の背の黒いリュックサックが嘆願する。
「あれが思玲のおうち?」
リュックサックの頼みなど聞かない大蔵司が指さしたのは、白い二階建ての家。こじんまりして別荘みたいだ。
「そうだ。私と師傅と賄いのばあやの三人で暮らしていた」
露泥無の話などまったく聞かない思玲がうなずくけど、師傅と同居していたのか。どういう関係だったかなんて聞けるはずない。
「九郎が言うには、婆やがまだいるはずだ」
思玲が扇と小刀を手に丘を降りる。
「よくずけずけと進めるね」
神楽鈴を手に大蔵司も続く。
「どこからだしたの! すげえ。私も持つべき?」
紙垂型の木札を手にした夏奈も続く……戦う気か?
「松本哲人は先頭?」
「しんがりにいる。桜井はいざとなったら背中を向けろ。運が良ければリュックサックが破けるだけだ」
「やめてくれ。彼女は本気にする」
リュックが悲鳴を上げるなか、俺の背後でヘリコプターが音もなく上昇する。無人なのに夏奈は気にしない。
「ばあやも魔道士?」大蔵司が尋ねる。
「だったが、さすがに六十近くで霞んでいる。もともと非力らしいしな」
思玲は歩きながら答える。「ここだけの話だが、楊偉天の女だった……ハラペコがいたな。内情はもう話さぬ」
「ハラペコ? 他にも化け物がいるの? どこどこ?」
化け物を背負った夏奈が尋ねる。
「うわああ」
そのリュックサックがいきなり燃えだし悲鳴を上げる――燃えだしただと!
「夏奈!」
背後を歩いていた俺は、慌てて露泥無であるリュックを取ろうとして、ピキッと音がして、
「うわあ!」
俺の体まで燃えだす。それでもリュックを奪おうとして、夏奈ごと背後に倒れる。
「うろたえるな。異形避けの罠だ。桜井には見えない異界の炎だ」
思玲が俺と夏奈へと扇を振るう。
「これが残っていたとは、ここは手つかずだったのか」
俺と露泥無を覆った炎が消えていく。……適当にも程 がある。夏奈は尻もちをついた体勢で悲鳴も出せずにいた。空を見ていた。
「あ、あれ……」
ショッキングツートンカラーのヘリコプターが燃えながら落ちてくる。……異界の炎ではない。リアル炎だ!
「まずい。強敵相手にセカンドトラップが発動した」
思玲が空へと舌を打つ。「逃げろ」
俺は夏奈の手を握り起きあがらせる。引きずる。すぐ背後にヘリコプターが墜落する。直後に爆音。俺は夏奈へとかぶさる。盾になる。
炎、毒、人の作りし破片、すべて背中で受けとめる。夏奈には一片さえもかすめさせない。
神楽鈴が聞こえ、灼熱が遠ざかる。
「かっこいいね。そういうの好き」
大蔵司がやってくる。俺の背をさする。でも傷は治る気配はない。
「人だった異形にもやっぱり無理か。……桃子は死んじゃったかな? それに、このヘリコプターは十億円。色々とやばい」
「松本が守ってくれたの?」
背中から俺に抱えられた夏奈が言う。
「うん……もう大丈夫みたい。ヘリに残らなくてよかったね」
俺は聞こえない声をかけて夏奈から体をどかす。
槍を持った初老の女性が、家から飛びでてくるのが見えた。
***
「封印が無理やり解除されました。なので私は生き延びました。……すごい術です」
原色ピンクとバイオレットなぼろぼろの羽根で、風軍より巨大な蛾(顔はモモンガ?)がよろよろと空に浮かぶ。
「こうなった私は影添大社に戻らないとなりません。京様方は自力でお帰りください」
「待ってよ。車に封じて――」
京の言葉が届かぬように、モモン蛾である桃子が北へと飛んでいく。
俺だって背中がひりひり痛い。昼だから回復遅いだろうな。パンツの後ろをさすってみたが尻は丸出しになってない。だったら我慢しよう。夏奈のための傷だ。
「あれこそが師傅の術だ。すなわち折坂の封印の術に勝ったと言うわけだが、済まなかったな」
思玲が大蔵司の背中に言ったあとに、
「婆や、こいつらに分かるように異界の言葉で話すぞ。――心配をかけたな。こいつらは日本人だ。……師傅の件は存じているよな?」
「賢そうな小鬼から聞きました。九郎とともに来ました。でも玲玲が生きているだけで充分」
槍を地面に落した女性が思玲へ歩み寄る。
「十年前の玲玲。これからは静かに過ごしましょう」
泣きながら彼女を抱く。
「やめてくれ。……ここを一時間で出る。車は乗り捨てることになる」
思玲は抱擁から体をのかす。
「こいつらに茶を飲ませてくれ。私は用を済ます」
一人で母屋の脇へ向かう。
「どうぞ」と涙でぐちゃぐちゃの婆やが俺達も呼ぶ。
「名前はハラペコだっけ? まだ気絶しているね」
大蔵司が夏奈の黒いリュックサックを歩きながら見る。
「しかし十億円。私は、あそこで一生ただ働きだよ。日本に帰らないでいようかな」
「ははは、現実感ねーし。……松本はどこにいるの?」
夏奈が大蔵司に尋ねる。
「いつも、あんたの前か後ろにいるよ。いまは後ろ」
夏奈が振り向く。目が合うはずないのに、俺の目線へ瞳を向ける。
「松本君ありがとうね。瑞希ちゃんが言っていたように、私の身にも色々あって、松本君が守ってくれたんだね。ようやく信じられたよ」
夏奈が、見えない俺へと微笑み手を伸ばしてくる。
俺も手を伸ばし、互いにふわりと流れる。頬をさすろうとしてふわりと流れる。
「風を感じたよ。松本君の手かな?」
夏奈が微笑む。そうだよと聞こえない声をかける。
***
お香が漂う粗末な部屋。ばあやと呼ばれる人は農村の日本人って感じで、無口だった。六十代ぐらいと聞いたが、ずっと年老いてみえる。
話しかける言葉もなく、三人ともほぼ黙ったままで中国茶をすする。ちなみに俺にもお茶を出してくれた。訳あり異形にフレンドリー系だが飲まない。でも持ちあげて夏奈に存在をアピールする。
「キモいからやめよう」拒絶される。
留守を守っていた女性はうつむいて黙ったきり。
「思玲はどこへ行ったのですか?」
異形の声で俺が尋ねる。彼女はようやく顔をあげる。
「離れにある師傅の部屋でしょう。……そこは術がかけられているので彼女しか入れません」
そう言ったあとに俺達を見渡し「玲玲の命は削られたのですか?」
「そんなことないと思います」正直に答える必要ない。
「あなたは楊によって異形になった人ですね」
お婆さんは俺を見つめる。陰うつな眼差し。
「私の名は陳佳蘭 です。私とあの人の子どもが楊聡民。そのため玲玲はいまも私を恨んでいるのです」
いきなりの告白に、忌まわしき戦いの結末を思いだす。
楊偉天は琥珀を聡民と呼んだ。楊偉天の杖のことを、琥珀は楊聡民の杖と呼んだ。楊聡民は、思玲の弟のかたきであるとも聞いた――。
何も尋ねられるはずない。魔導団と違い俺を奇異な目で見ない人へ、代わりに告げる。
「思玲はあなたを頼っていました。ここに来たのもあなたに会うためです」
実際は違うと感じる。思玲はこの人の話題をほとんどしなかった。いまだって素気ない。感情を向けようとしない。
「心の声で喋っているのでしょ? やめてくれない」
夏奈がむくれたときの声をだす。
「たいした話じゃないよ。私たちは表に行こうか?」
大蔵司が立つ。陳佳蘭へと「その話を異形さんに聞かせてやってください。知りたくて顔がうずうずしている」
なんて奴だ。大蔵司と夏奈が表へ行く。黒いリュックサックは置かれたままだけど。
「もう私と玲玲しか知らないのだから教えますとも。妖術に囚われた愚かな親子の話を、ぜひ聞いてください」
陳佳蘭が語りだす。
次回「楊聡民と王俊宏」
王思玲主人公の短編集「女魔道士の正義」
最新話(十~十四)公開中です。
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知りたかったことをヘリの中で尋ねる。
「全部社外秘ていうか私も知らない」
大蔵司はつっけんどんに答えるだけ。「でも百人もいるかな? あれも足してかな?」
『ほほほ、全容を知っているのはごく限られた人のみ。さあ到着ですよ』
アナウンスが答えてくれたけど、麻卦や折坂さんのことだろう。
「あれってあれか?」
「教えない」
思玲が聞いても答えないならば、俺ならなおさらだろう。
「あれって何?」
「大蔵司が教えぬなら私もシークレットだ。――東南東に山間部を進め。速度をゆるめろ」
『お任せあれ、おほほ』
思玲が着陸箇所を細かく指示しだす。窓に貼りつく。やり取りに気づかない夏奈はスマホでゲームしている。
「行き過ぎた。東から回りこんで、あの空き地に着地しろ」
『了解です。見事な視力ですね、ほほほ』
数分ほどで山間の一角に、ド派手な大型輸送ヘリが羽根を止める。今までで一番快適な乗り心地だった。さすが宮司専用機。
「なんか日本の山奥って感じ。毒蛇がいるんだっけ?」
台湾島に降りたった夏奈が言う。
たしかに異境な感じはしない。見慣れた緑に囲まれた雑草だらけの一角だ。台湾の地理など知らないから、新北がどこか分からない。北側だとは思うけど。
「荒れたな。九郎の仕事がたっぷりできた。香港から戻ったら草刈りさせよう」
俺に続いて降りた思玲が言う。「念のため警戒するぞ。桃子に援護させろ」
『桜井ちゃまは私の中に入れておくべきでは?』
屋外スピーカーのように桃子が言う。
「僕もそうすべきだ」
夏奈の背の黒いリュックサックが嘆願する。
「あれが思玲のおうち?」
リュックサックの頼みなど聞かない大蔵司が指さしたのは、白い二階建ての家。こじんまりして別荘みたいだ。
「そうだ。私と師傅と賄いのばあやの三人で暮らしていた」
露泥無の話などまったく聞かない思玲がうなずくけど、師傅と同居していたのか。どういう関係だったかなんて聞けるはずない。
「九郎が言うには、婆やがまだいるはずだ」
思玲が扇と小刀を手に丘を降りる。
「よくずけずけと進めるね」
神楽鈴を手に大蔵司も続く。
「どこからだしたの! すげえ。私も持つべき?」
紙垂型の木札を手にした夏奈も続く……戦う気か?
「松本哲人は先頭?」
「しんがりにいる。桜井はいざとなったら背中を向けろ。運が良ければリュックサックが破けるだけだ」
「やめてくれ。彼女は本気にする」
リュックが悲鳴を上げるなか、俺の背後でヘリコプターが音もなく上昇する。無人なのに夏奈は気にしない。
「ばあやも魔道士?」大蔵司が尋ねる。
「だったが、さすがに六十近くで霞んでいる。もともと非力らしいしな」
思玲は歩きながら答える。「ここだけの話だが、楊偉天の女だった……ハラペコがいたな。内情はもう話さぬ」
「ハラペコ? 他にも化け物がいるの? どこどこ?」
化け物を背負った夏奈が尋ねる。
「うわああ」
そのリュックサックがいきなり燃えだし悲鳴を上げる――燃えだしただと!
「夏奈!」
背後を歩いていた俺は、慌てて露泥無であるリュックを取ろうとして、ピキッと音がして、
「うわあ!」
俺の体まで燃えだす。それでもリュックを奪おうとして、夏奈ごと背後に倒れる。
「うろたえるな。異形避けの罠だ。桜井には見えない異界の炎だ」
思玲が俺と夏奈へと扇を振るう。
「これが残っていたとは、ここは手つかずだったのか」
俺と露泥無を覆った炎が消えていく。……適当にも
「あ、あれ……」
ショッキングツートンカラーのヘリコプターが燃えながら落ちてくる。……異界の炎ではない。リアル炎だ!
「まずい。強敵相手にセカンドトラップが発動した」
思玲が空へと舌を打つ。「逃げろ」
俺は夏奈の手を握り起きあがらせる。引きずる。すぐ背後にヘリコプターが墜落する。直後に爆音。俺は夏奈へとかぶさる。盾になる。
炎、毒、人の作りし破片、すべて背中で受けとめる。夏奈には一片さえもかすめさせない。
神楽鈴が聞こえ、灼熱が遠ざかる。
「かっこいいね。そういうの好き」
大蔵司がやってくる。俺の背をさする。でも傷は治る気配はない。
「人だった異形にもやっぱり無理か。……桃子は死んじゃったかな? それに、このヘリコプターは十億円。色々とやばい」
「松本が守ってくれたの?」
背中から俺に抱えられた夏奈が言う。
「うん……もう大丈夫みたい。ヘリに残らなくてよかったね」
俺は聞こえない声をかけて夏奈から体をどかす。
槍を持った初老の女性が、家から飛びでてくるのが見えた。
***
「封印が無理やり解除されました。なので私は生き延びました。……すごい術です」
原色ピンクとバイオレットなぼろぼろの羽根で、風軍より巨大な蛾(顔はモモンガ?)がよろよろと空に浮かぶ。
「こうなった私は影添大社に戻らないとなりません。京様方は自力でお帰りください」
「待ってよ。車に封じて――」
京の言葉が届かぬように、モモン蛾である桃子が北へと飛んでいく。
俺だって背中がひりひり痛い。昼だから回復遅いだろうな。パンツの後ろをさすってみたが尻は丸出しになってない。だったら我慢しよう。夏奈のための傷だ。
「あれこそが師傅の術だ。すなわち折坂の封印の術に勝ったと言うわけだが、済まなかったな」
思玲が大蔵司の背中に言ったあとに、
「婆や、こいつらに分かるように異界の言葉で話すぞ。――心配をかけたな。こいつらは日本人だ。……師傅の件は存じているよな?」
「賢そうな小鬼から聞きました。九郎とともに来ました。でも玲玲が生きているだけで充分」
槍を地面に落した女性が思玲へ歩み寄る。
「十年前の玲玲。これからは静かに過ごしましょう」
泣きながら彼女を抱く。
「やめてくれ。……ここを一時間で出る。車は乗り捨てることになる」
思玲は抱擁から体をのかす。
「こいつらに茶を飲ませてくれ。私は用を済ます」
一人で母屋の脇へ向かう。
「どうぞ」と涙でぐちゃぐちゃの婆やが俺達も呼ぶ。
「名前はハラペコだっけ? まだ気絶しているね」
大蔵司が夏奈の黒いリュックサックを歩きながら見る。
「しかし十億円。私は、あそこで一生ただ働きだよ。日本に帰らないでいようかな」
「ははは、現実感ねーし。……松本はどこにいるの?」
夏奈が大蔵司に尋ねる。
「いつも、あんたの前か後ろにいるよ。いまは後ろ」
夏奈が振り向く。目が合うはずないのに、俺の目線へ瞳を向ける。
「松本君ありがとうね。瑞希ちゃんが言っていたように、私の身にも色々あって、松本君が守ってくれたんだね。ようやく信じられたよ」
夏奈が、見えない俺へと微笑み手を伸ばしてくる。
俺も手を伸ばし、互いにふわりと流れる。頬をさすろうとしてふわりと流れる。
「風を感じたよ。松本君の手かな?」
夏奈が微笑む。そうだよと聞こえない声をかける。
***
お香が漂う粗末な部屋。ばあやと呼ばれる人は農村の日本人って感じで、無口だった。六十代ぐらいと聞いたが、ずっと年老いてみえる。
話しかける言葉もなく、三人ともほぼ黙ったままで中国茶をすする。ちなみに俺にもお茶を出してくれた。訳あり異形にフレンドリー系だが飲まない。でも持ちあげて夏奈に存在をアピールする。
「キモいからやめよう」拒絶される。
留守を守っていた女性はうつむいて黙ったきり。
「思玲はどこへ行ったのですか?」
異形の声で俺が尋ねる。彼女はようやく顔をあげる。
「離れにある師傅の部屋でしょう。……そこは術がかけられているので彼女しか入れません」
そう言ったあとに俺達を見渡し「玲玲の命は削られたのですか?」
「そんなことないと思います」正直に答える必要ない。
「あなたは楊によって異形になった人ですね」
お婆さんは俺を見つめる。陰うつな眼差し。
「私の名は
いきなりの告白に、忌まわしき戦いの結末を思いだす。
楊偉天は琥珀を聡民と呼んだ。楊偉天の杖のことを、琥珀は楊聡民の杖と呼んだ。楊聡民は、思玲の弟のかたきであるとも聞いた――。
何も尋ねられるはずない。魔導団と違い俺を奇異な目で見ない人へ、代わりに告げる。
「思玲はあなたを頼っていました。ここに来たのもあなたに会うためです」
実際は違うと感じる。思玲はこの人の話題をほとんどしなかった。いまだって素気ない。感情を向けようとしない。
「心の声で喋っているのでしょ? やめてくれない」
夏奈がむくれたときの声をだす。
「たいした話じゃないよ。私たちは表に行こうか?」
大蔵司が立つ。陳佳蘭へと「その話を異形さんに聞かせてやってください。知りたくて顔がうずうずしている」
なんて奴だ。大蔵司と夏奈が表へ行く。黒いリュックサックは置かれたままだけど。
「もう私と玲玲しか知らないのだから教えますとも。妖術に囚われた愚かな親子の話を、ぜひ聞いてください」
陳佳蘭が語りだす。
次回「楊聡民と王俊宏」
王思玲主人公の短編集「女魔道士の正義」
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