第三十二話 リセットボタン
文字数 1,739文字
*瑛悠*
擬体の非現実的超パワー+カタパルト+遠心力+気合い。これで狙撃手に反撃する。
両腕の装甲をパージして、ノースリーブ状態になった僕は覚悟を決める。腕にダメージを食らったら深刻だろうが、そんな隙を与えるつもりはない。
ピンクの擬体の視界からギリギリ陰になるように位置を取りながら、まず右手で頑丈な消火栓をつかむ。つかんだまま後ろに向かって階段を下りていき、ギリギリと右手を限界まで引っ張る。右手のチューブ束が伸びているのを感じる。まだいける。「DOG、右手の肘の関節を外して」「オーライ」。もう少し。もっと伸びる。
左手を後ろに伸ばす。限界まで伸びろ!手先でにじり寄るように、少しでも遠い階段の段差をつかむ。
左右の腕が伸び切った状態。ここからだ。自分がボウガンの矢になったイメージ。
「行くぞDOG」
右手だけ残して一気に解放し、蹴りだす。腕が縮む力が加速を倍加させる。カタパルト。
ピンクが視界に入る。僕は空中で左手をムチのように振る。最高速でっ!
ド・ドン!!
左腕から、空間を伝わる「波」のようなものが見えた気がした。
ピンクが射出した光弾は途中ではじかれるように逸れ、ピンクのボディが揺れた。衝撃波が伝わったのがわかる。
成功!新技・ソニックブーム。
その勢いのまま、ピンクへの距離が詰まる。至近距離。
間合いに入った。DOG、気分は中国拳法キャラだぞ。
→→P、←K→P、PPKPP、↑PKPP↓K!!
飛び込んで寸勁(すんけい)からの乾坤一擲。上下打ち分けコンボで最後はかかと落とし…がピンクに炸裂した。
ピンクの胴体部の装甲破損、中枢までダメージ。頭部破壊。十分…だろう。
ピンクのハンドラーの身体は、おそらくまだサンシャイン広場にある。今頃、ほんの一時の間、ギャラリーに囲まれて目を覚ましているだろう。
そういえば、僕の身体もそこにあるのだった。早く取りに行きたい。自分の身体と離れすぎているのは心地が悪い。
ピンクの擬体は、足先から消え始めた。
僕は初めて、階段広場からあたりを見渡す。すぐ近くに駅が見える。
その時気のせいか、
とにかく、ずいぶん時間がかかってしまった。かかりすぎだ。
戦いに集中するあまり、忘れていた。僕はこうしちゃいられないのだ。
未咲。未咲が生き残っている間に、残りの敵と対峙するのは僕の、騎士としての役目だ。
どうする?焦る僕は少しの間、逡巡する。
どこだ、どこに行けばいい?
今何人残っているのだろう?
身体を取りにサンシャイン広場に走って戻るのは時間の無駄だ。直接、残っている敵の擬体を捜索せねば。
「DOG、敵はどっちにいると思う?」
そうつぶやいた瞬間だった。まるで木枯らしにまかれたかのように、僕の周りが金色に光った。
ちがうちがう、間違えた。
至近距離で旋回するWINNERの文字がぼやけている。
ちがうってば。リセットしよう。これはダメだ。これじゃあゲームオーバーだ。リセットってどうやるんだっけ。
前のバトルからやり直すには、どうすればいいんだっけ?
広場でピンクに逃げられず、さっさと仕留めて、他地区の強いやつと戦いに行かなくちゃならなかったんだ。
いや、いっそピンクに滅多打ちに撃たれて、僕が死ねば良かったのかも。未咲との「全力で戦う」約束なんて、約束なんて、約束なんて…未咲そのものと比べたらぜんぜん、大事じゃ、ない…!
なんでそうしなかったんだ?
僕は黒い擬体のまま、子どものように地団駄を踏む。
または、一対一のルールを破ってでも未咲を護って、僕が殺されるべきだったんだ。
たくさん、あったんだ。これよりも良いやり方が。
これよりは“少なくとも”良いやり方が。
やり直したい。やり直させてください。お願いします。
僕は誰にともなく頼んだ。
擬体での地団駄は、広場の階段をだいぶ、破壊している。
全部壊れればいい。全部壊して、もう一回やり直そうよ。
目の前が見えなくなる。このお調子者の擬体も、涙が流れるようにできている。
リセット。リセット。リセット。リセット。リセット。
僕は駄々をこねる。地面を蹴り続ける。
わめきながら暴れる僕を怖がって、ギャラリーも近寄って来ない。
僕は最悪の、これ以上ない最悪の失敗をした。
未咲を、死なせてしまった。
僕が、僕だけが、生き残ってしまった。
擬体の非現実的超パワー+カタパルト+遠心力+気合い。これで狙撃手に反撃する。
両腕の装甲をパージして、ノースリーブ状態になった僕は覚悟を決める。腕にダメージを食らったら深刻だろうが、そんな隙を与えるつもりはない。
ピンクの擬体の視界からギリギリ陰になるように位置を取りながら、まず右手で頑丈な消火栓をつかむ。つかんだまま後ろに向かって階段を下りていき、ギリギリと右手を限界まで引っ張る。右手のチューブ束が伸びているのを感じる。まだいける。「DOG、右手の肘の関節を外して」「オーライ」。もう少し。もっと伸びる。
左手を後ろに伸ばす。限界まで伸びろ!手先でにじり寄るように、少しでも遠い階段の段差をつかむ。
左右の腕が伸び切った状態。ここからだ。自分がボウガンの矢になったイメージ。
「行くぞDOG」
右手だけ残して一気に解放し、蹴りだす。腕が縮む力が加速を倍加させる。カタパルト。
ピンクが視界に入る。僕は空中で左手をムチのように振る。最高速でっ!
ド・ドン!!
左腕から、空間を伝わる「波」のようなものが見えた気がした。
ピンクが射出した光弾は途中ではじかれるように逸れ、ピンクのボディが揺れた。衝撃波が伝わったのがわかる。
成功!新技・ソニックブーム。
その勢いのまま、ピンクへの距離が詰まる。至近距離。
間合いに入った。DOG、気分は中国拳法キャラだぞ。
→→P、←K→P、PPKPP、↑PKPP↓K!!
飛び込んで寸勁(すんけい)からの乾坤一擲。上下打ち分けコンボで最後はかかと落とし…がピンクに炸裂した。
ピンクの胴体部の装甲破損、中枢までダメージ。頭部破壊。十分…だろう。
ピンクのハンドラーの身体は、おそらくまだサンシャイン広場にある。今頃、ほんの一時の間、ギャラリーに囲まれて目を覚ましているだろう。
そういえば、僕の身体もそこにあるのだった。早く取りに行きたい。自分の身体と離れすぎているのは心地が悪い。
ピンクの擬体は、足先から消え始めた。
僕は初めて、階段広場からあたりを見渡す。すぐ近くに駅が見える。
その時気のせいか、
誰かに呼ばれた
気がした。とにかく、ずいぶん時間がかかってしまった。かかりすぎだ。
戦いに集中するあまり、忘れていた。僕はこうしちゃいられないのだ。
未咲。未咲が生き残っている間に、残りの敵と対峙するのは僕の、騎士としての役目だ。
どうする?焦る僕は少しの間、逡巡する。
どこだ、どこに行けばいい?
今何人残っているのだろう?
身体を取りにサンシャイン広場に走って戻るのは時間の無駄だ。直接、残っている敵の擬体を捜索せねば。
「DOG、敵はどっちにいると思う?」
そうつぶやいた瞬間だった。まるで木枯らしにまかれたかのように、僕の周りが金色に光った。
ちがうちがう、間違えた。
至近距離で旋回するWINNERの文字がぼやけている。
ちがうってば。リセットしよう。これはダメだ。これじゃあゲームオーバーだ。リセットってどうやるんだっけ。
前のバトルからやり直すには、どうすればいいんだっけ?
広場でピンクに逃げられず、さっさと仕留めて、他地区の強いやつと戦いに行かなくちゃならなかったんだ。
いや、いっそピンクに滅多打ちに撃たれて、僕が死ねば良かったのかも。未咲との「全力で戦う」約束なんて、約束なんて、約束なんて…未咲そのものと比べたらぜんぜん、大事じゃ、ない…!
なんでそうしなかったんだ?
僕は黒い擬体のまま、子どものように地団駄を踏む。
または、一対一のルールを破ってでも未咲を護って、僕が殺されるべきだったんだ。
たくさん、あったんだ。これよりも良いやり方が。
これよりは“少なくとも”良いやり方が。
やり直したい。やり直させてください。お願いします。
僕は誰にともなく頼んだ。
擬体での地団駄は、広場の階段をだいぶ、破壊している。
全部壊れればいい。全部壊して、もう一回やり直そうよ。
目の前が見えなくなる。このお調子者の擬体も、涙が流れるようにできている。
リセット。リセット。リセット。リセット。リセット。
僕は駄々をこねる。地面を蹴り続ける。
わめきながら暴れる僕を怖がって、ギャラリーも近寄って来ない。
僕は最悪の、これ以上ない最悪の失敗をした。
未咲を、死なせてしまった。
僕が、僕だけが、生き残ってしまった。