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エピソード文字数 646文字

「和睦のためでございます。鳴かぬ女がお気に召さぬなら、側室を持てば宜しかろう。この婚儀は破談には致しませぬ。何としても濃姫様を正室に迎えるのじゃ」

「わかった、わかった、正室に迎えればよいのだろう。鳴かぬなら、鳴かせてみせるまで」

 信長はニヤリと口角を引き上げた。
 こんな男の元に嫁がなければいけない姫君が、不幸でならない。

 病に侵され声が出ないなんて、この信長と喧嘩も出来ず、ただ黙って従わなければならないのか。

 正室とは表向き、最初から側室を持つことを認めたも同然。魂を抜かれた人形のように、暴君な信長の傍で生涯仕えなければいけないなんて、もしあたしが姫君なら御免被る。

「そこでじゃ、紅、そなたを濃姫様の護衛につけることと相成った」

「はっ?この俺が姫君の護衛ですか?女の護衛なんて、真っ平御免です」

「これ、紅!言葉を慎め!濃姫様は信長様の正室であるぞ。話せぬ弱きお方様を守るが紅の役目と心得よ。よいな!」

 ちぇっ、平手はあたしが女だと知った上で命じたに違いない。あたしなら姫君と始終一緒にいても、色恋沙汰に陥る心配もないし、むさ苦しい男の中にいるよりも、素性がばれることはないと考えてのこと。

「濃姫様の傍に仕えるのじゃ!よいな」

「はいはい」

「『はいはい』とはなんじゃ!信長様もお主もわしを小馬鹿にしおって。紅、しかと命じたぞ」

「はいはい」

 不満はあったものの、男として信長に仕えるよりも、話せない姫君に仕える方が精神的に楽かも知れない。
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登場人物紹介

斎藤紗紅(さいとうさく)16歳

レディース『黒紅連合』総長

 斎藤美濃(さいとうみの)17歳

紗紅の姉、家族想いの優等生

 織田信也(おだしんや)20歳

紗紅の交際相手

元暴走族

 織田信長(おだのぶなが)

戦国武将

明智光秀(あけちみつひで)

戦国武将

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