第1話 問題編・前編
文字数 1,943文字
時間よ、時間！ 今、夜中の二時じゃない！ こんな時間に呼び出しってどういうこと！？
睡眠不足は美容の大敵なのよ～！
これで乙女の柔肌にニキビでも出来たら、立派な傷害罪だと思わない！？
ちょっと、黒鵜（くろう）ちゃん。
なによ、そのどーでもいー、みたいな反応は。
なんでもないわよ。
それより、もう一度事件のあらましを教えてちょうだい！
……？
わかりました。
事件は、一週間前の九月十日。
この家の長男、茂部一郎（もぶ・いちろう）二十歳が消息不明。のちに、誘拐事件だと発覚しました。
はい。三日前に犯人から、「身代金三千万円を用意しろ」と、連絡が入っています。
ちなみに茂部の父は建設会社の社長で、身代金は父親が用意しています。
なるほど。
じゃあ、実際に誘拐されたのは、何日なのかはわからないってことね。
十日の朝に、母親が茂部が出掛けようとしているところを目撃しています。
そして少なくとも、十四日の夕方には犯人から連絡が入っていますので――。
うーん、困っちゃうわね。
いつ誘拐されたかくらい、ハッキリして欲しいものだわ。
身代金の要求は電話からですが……それとは別に、被害者の監禁された写真が送られてきています。
家のポストに投げ入れたようですね。
･倉庫らしき場所に監禁されている茂部
･椅子にロープ状のもので、後ろ手に縛られている
･茂部の服装は黒のパーカーに、裾のほつれたジーンズ
･室内に、犯人に結びつきそうな遺留品はなし
･茂部は疲労しているようだが、外見上、大きなケガなどはない
ふむふむ。
ねえ、黒鵜ちゃん。
いやん！ どうしたの、いきなり？
照れちゃうじゃない。
あなたの仕事に対する能力だけは高く評価していますので。
能力だけは。能力だ、け、は。
あら、被害者の様子を観察するのも、刑事の立派なお仕事よ。
ほら、このボサボサの頭とか、無精ヒゲとか、整えてあげたら結構見れるんじゃないかしら。
案外彫りの深い顔立ちだし。
――まあ、いいです。
話を戻しますよ。
身代金は本日――いえ、日付はもう変わってるから、昨日ですね――受け渡しを終えています。
捜査官が尾行しましたが、犯人は取り逃しました。
はい。身代金につけていたGPSも、近隣駅のトイレにカバンごと捨てられていました。
……おそらく駅を降りる前に、カバンを詰め替えたと思われます。
（身代金の受け渡しは、犯人に近づく最後のチャンスだもの。
これを逃すと、犯人側から連絡を絶たれて、人質救出は絶望的になることも多い……）
――過ぎたことを悔いても、どうにもならないわよ。
それよりも、犯人から人質を解放するって連絡が入ったんでしょ？
