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文字数 735文字

 きみは今、夜の中にいる。
 眠りについた暗い闇の帳の中を、雪を踏みしめながら歩いている。

 両脇に並んだ窓の向こうでは、みんなが暖かな毛布にくるまって寝息を立てている。
 その間を、きみは歩く。
 白い息を弾ませて。
 肩に担いだ荷袋の端を、かじかんだ手で抱えこみながら。

 袋の中には、処分待ちだった郵便物が詰め込まれている。
 郵便局から持ってきてしまったものだ。
 きみは宛先のわからない荷物を抱えた、宛て先のわからないサンタクロースだ。
 窓から窓へ渡り歩いては、窓柵にプレゼントを置いてゆくんだ。
 明日の朝、窓を開けてみつけた人たちが、気に入ってくれるかはわからないけれど。



 夢はなにかって?

 いつか一人旅をすることだよ。
 別に、きみとの生活にそれほど不満があるわけじゃないけれど、やっぱりいずれは自分の足で、世界を歩き回ってみたいと思ってる。
 そうだな。特に、北の方に行ってみたいと思ってる。
 サンタの故郷の寒い土地へ行って、空飛ぶトナカイを見つけるんだ。


 きみは女の子の窓のもとへ行くと、中を覗き込む。

 何が見えるの?

「秘密」

 きみはにししと笑って答えると、袋をごそごそ探り、珊の上に小さなくまのぬいぐるみを乗せた。
 背を向けて、また次の家へと向かう。

 雪の振るなかを、きみは何処までも歩いていく。
 これから先も、たぶん、ずっと。

 仕方ない。
 一人旅は当分先のことにして、しばらくはきみの後ろをついていこう。
 きみがうつむいたとき、ふりむいたときに、いつでもそばにいてあげられるように。
 きみが哀しくならないように。

 きみは歩く。一歩、一歩。
 足を上げて、下ろして。
 きみはかげをふむ。
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