第15話   第三章 『シャルウィダンス』①  失踪  

文字数 1,015文字

「ヘリの上から見たって・・?」
「ああ、あの家の煙突から、煙が出てたんだってよ」
「・・あの人、戻って来たのかや」
「まさかな・・」
「・・じゃ、誰かが鍵でも壊して入り込んだのかね」
「うう~ん、鍵は頑丈で、窓も打ちつけてあるっていうしな・・」
 
 その夜の夕食時、管理人さん夫婦の言葉に一瞬、晃子の箸が止まった。何気なく話の行方を伺っていると・・。

「なんか今日、ヘリが飛んでましたね・・」
 
 バイト仲間の田口君が言った。

「ああ、管理会社のヘリで時々、飛ぶんだよ。ほら、第四ゲレンデの近くの森があるだろ、あの奥に家があるんだよ」

 
 スキー場開発時にその周辺の森だけは売ることを拒んでいた麓町の大地主が、十五年ほど前に川久保という人物にその一部を売り、以来、その川久保氏はそこに素晴らしいコテッジを建てて暮らしていた。
 が、誰もその人物のことはよく知らない。その言葉使いで、どこか関西の方から来た人らしいことくらいしか。
 なにしろ森の奥での殆ど隠遁に近い生活で、地元民で話したことのある者も僅かだった。
 
 そして三年ほど前、突然姿を晦ましてしまったのだが、その消えた経緯が奇妙で未だ地元ではミステリーとなっていた。


「・・奇妙っていうのは・・」
 
 晃子の問いに、二人は何か同じことを思い出したように顔を見合わせた。

「なんだか、斉藤さんが言ってたよな。うちの克也が変なこと言いだして困るって・・」
「かっちゃん、あの頃、ちょっとノイローゼ気味だったみたいだからね、進路のことや何かで・・。最近じゃあ、そんなことすっかり忘れちゃったみたいだけど・・」

 
 その年の夏、麓町の高級食材を扱う店『寿屋』の店主は、常連の川久保氏から大量の注文を受けて驚いた。何か大きなパーティでもあるらしい。
 いつもは月に二、三度やって来ては、無造作にその間の買い物をしていた。
 ところがその頃は至るところでパーティブームらしく、幾つか品切れになってしまったものがある。それでも、約束の日迄には仕入れを間に合わせると請け負った。
 
 春休みに免許を取ったばかりの『寿屋』の息子、サトシ君は運転がしたくてたまらない。
 が、自分の車はまだない。大学の夏休みに帰省しているのはそのためで、その間、得意先である別荘地やペンション村などへの配達を受け持っていた。
 
 人里離れた川久保氏のコテッジまではかなり距離があった。が、むしろ喜んで出かけて行き、その後はそのまま夕方まで戻らなかった。

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