第9話 超人参入

エピソード文字数 2,099文字

「おめぇはこっちにいつ飛び込んで来た?」

「ボクは2003年にこちらの世界に。あなたはいつこちらに?」

「俺は2018年だ。じゃあおめぇはこの世界にもう15年も生きてるって訳か?そいつはすげぇな。歳は幾つなんでぇ?名前は?」

「あちらの世界から飛び込んで来た時は16歳でした。だから今は31歳のはずですが。元々老けて見られていたけど、この世界ではあまり歳をとらないみたいです。名前は寛太(かんた)です」

「ふぅーん、確かにまだ25、6歳にしか見えねぇな。もう31歳か。寛太(かんた)おめぇ、今は何して暮らしてるんだ?」

「実はこの町で塾を開いて、子どもたちに勉強を教えています。昔覚えた歴史や国語の知識が役に立ってるみたいです。それで何とか生活しています」

少し安心したのか、寛太の顔にもやっと笑顔が浮かんだ。若えのにたった一人きりで、この世界で苦労しながら生きてきたんだろう。

どんな理由でこの世界に飛び込んできたのか分からねえが、奇跡的に元の世界の人間に出会えて、懐かしくてたまらないようだ。

「先生、こんにちは!いつも家の子がお世話になっています」

小さな子供連れの若い母親が挨拶してきた。そういえばこの道を行き交う人々の中には、この男に軽く会釈していく者もちらほら見かける。塾の先生っていうのも、どうやら本当らしいな。

「失礼とは思いますが、お兄さんのお名前を、是非教えていただけませんか?」

「ふっふふふ、俺の名かい。俺は『風介』、ただの風来坊だよ」

「風介さんですか!しっかし嬉しいですよ。もう二度とあちらの世界の人間に会えるなんて考えてもみなかったから・・・・・」

「寛太、おめぇ、今は独り暮らしかい?それとも可愛いお姉ちゃんともう所帯でももってるのかい?」

「いやいや、まだ独り暮らしです。塾の先生なんて大したお金も稼いでいない貧乏人なので、こ汚い長屋暮らしをしています。まあ近所の皆さんのお世話になりながらですが」

「寛太、せっかく会えたんだ。ちょぃと話がしてぇんだが、時間は取れるかい?」

「もちろんですとも!ここでこのまま別れたら、もう二度と会えないかもしれない。家に来て是非とも話を聞かせてください」

寛太の家までは、歩いて5分ほどの距離だった。茂治の長屋と変わりもしねぇ間取りだ。

客の俺にお茶さえ出さねぇまんま、話に夢中になって1時間ほど過ごした。まあ、別世界の客人だ、興奮してもしょうがねぇか。

寛太はどうやらあっちの世界では、か弱くて情けねえほどのイジメられっ子だったが、こっちの世界では、俺同様にまるで超人みてえにパワーアップしたようだ。

話の内容では、もちろん俺ほどじゃあねえが
、茂や熊レベル以上の力は十分に持ち合わせてるようだ。

イジメられっ子で不登校、自分の部屋に閉じこもって毎日ゲーム三昧。その戦国時代シュミレーションゲームの世界から、こっちの世界に飛び込んで来ちまったようだ。

ゲームの中でも、時の扉が開く場合があるんだな。まぁこの町で寛太と出会えて良かったのかもしれねぇな。寛太も風軍団のメンバーに自ら飛び込んで来やがった。

もちろん丑の刻の集合時間の前に、茂治の家に訪ねて来るように話はしておいた。

別れたがらねぇ寛太に何とか見切りをつけて、茂治の家に戻った。黒介には土産に買った兔の肉を放り投げると、よほど腹を空かせていたらしく、あっという間に平らげた。

まだ夕方の4時前だ。夜中の2時までは10時間もある。寝るにしても長過ぎる。小腹が減ってきたので何か食いに出かけるか。

満腹になって眠りについた黒介を残して外に出る。まだ4時位なのにまるで秋のような夕陽が町を赤く照らしている。

食う場所が分からないので、先程のうどんを食った茶屋に向かった。昼飯の時間を過ぎたせいか客はほとんどいねぇようだ。

「あら、色男。看板娘のアタシに会いたくて、また訪ねて来たのかい?」

さっきの可愛い姉ちゃんが、嬉しそうに声をかけてくる。参ったな、惚れられちゃったかもしれねぇな。

茶屋には手伝いの若い姉ちゃんたちが3人。みんななかなかの美女さんだが、俺に声をかけてきたこの姉ちゃんが一番可愛い。

「色男、何を食べるんだい?」

注文を取りに来るのに、俺の背中にぷりんとした胸を押し付けて来るのは困ったものだ。

笑いながら振り向いて、他の客に聞こえねぇような小さな声で、姉ちゃんの耳に囁いた。

「本当は姉ちゃんを食いてぇんだけど・・・・・」

指先から耳まで真っ赤になって、さらに体を擦り寄せる姉ちゃんに、今度はでかい声で声をかける。

「何か美味いもんねえかぃ?」

「くじらの煮物か鮭の焼物はどう?とっても美味しいよ」

「おう、じゃあそのくじらの煮物、鮭の焼物
、それに飯と味噌汁頼むぜ」

「あいよ!」

他の客がほとんどいねぇのを良い事にウィンクしてるぜ。まったく可愛い姉ちゃんだぜ。

大きなお盆にくじらの煮物、鮭の焼物、大盛りの玄米飯、そして味噌汁と注文のすべてを載せて、運んで来た。

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