#1 筆記編
文字数 1,684文字
「読めません。書き直してください」
「え〜」
鉛子は少年Aに書き直しを提案します。
「これなら、どう?」
「読めません。顔を洗って出直してください」
鉛子は少年Aに人生のやり直しを提案します。
鉛筆の申し子、鉛子。
スマートにしてエレガントな体型。無駄を一切排除したその姿勢に、憧れる者は少なくない。書けば書くほど、誰もが鉛子に魅了されていきます。
ただし鉛子は、人を選びます。
いくら告白されようが、字の汚い方の申し込みは遠慮させて頂いています。
更に鉛子は、非常にプライドが高いのです。
何故なら、その身を削りながら一字一句に命を吹き込み、言葉の世界を創造しているのです。そのため鉛子は、その世界を汚す者を許しません。常に上を志す者のみが、鉛子のパートナーとして認められるのです。
そんな鉛子にも悩みがあります。
それはまだ、これはと思う方と出会えていないことです。鉛子も、もう立派な大人です。お年頃です。それは、この世に生を受けた時からお年頃です。
腕に自信と度胸、それと少々の財力があれば鉛子のパートナー候補としてのチャンスが有るかもしれません。
さあ、どうしますか?
「綺麗に書けました!」
「貴方はこの世界を脅かす者。成敗致します。お覚悟を!」
「えー」
その後、少年Aの目の前に異世界への扉が開き、何処かに召喚されて行きました。これで一つ、この世界は守られたようです。成敗完了です。
◇
「何ですか? それは絵ですか? それとも記号ですか?」
「ちゃんと書いてるじゃん」
少女Aは鉛子に反抗します。
「読めればいいの! 読めれば」
「勝手は許しませんよ。さあ、心を込めて書くのです」
「こころ? キャッハー、笑えるー」
「仕方のない方ですね。はあ」
鉛子は人に優しく、忍耐強いのです。時に寛容で、おおらかな心を持ち合わせています。つまり、芯 抱強いのです。
少女Aは好きなように書きなぐっていきます。
何を書いているのか、もしかしたら本人にも分からないかもしれません。
暫くして少女Aは『終わったー』と叫ぶと、鉛子を放り投げてしまいました。その時です。ポキッと芯が折れてしまいます。
「キャー」
鉛子は悲鳴を上げます。
そうです。鉛子の心も折れてしまったのです。
「何をなさるのですか!」
「えー、ちゃんとココロ? 入れたよー、てんこ盛りだよ〜。あたいのラブまでブッ込んだよ〜。もう、鼻血も出ねーよ」
「貴女は私にとって脅威です。排除致します。出でよ! 消し子!」
鉛子は消し子を召喚。その使命を伝達します。
「呼んだ〜」
「消し子! 少女Aの痕跡をこの世界から消し去るのです」
消しゴムの申し子、消し子。
そのグラマラスで柔軟な体を駆使し、この世のあらゆる汚れを消去する力を持つ能力者。彼女の綺麗好きは、あらゆる筆記男子から羨望と憧れの対象になっています。恋人候補ナンバーワンは伊達ではありません。彼女もまた、お年頃です。貴方にもチャンスはあるかも、です。
「いいの〜」
「おやりなさい。ターン・エンド」
「じゃあ、いっくよー」
消し子は彼女の能力、オール・デリートで少女Aの書きなぐった”もの”を消していきます。
「おおおおおおおおおおおおおおお、おがあちゃん!」
少女Aは泣き狂います。
しかし、もう遅いのです。消えた”もの”は、この世界には存在しません。
”ひらがなのようなもの”、消去。多い〜
”カタカナのようなもの”、消去。多い〜
”漢字のようなもの”、消去。少な〜
「消去完了!」
少女Aの手元には句読点だけが残りました。
「せめてもの情け。精進されたし」
「おがあちゃん! 鉛子がいじめるー」
少女Aは泣きながら去って行きました。
これで一つ、この世界は守られたようです。
「オーホホホ」
「その声は!」
「ま〜だ、そのような、書いては消し〜の書いては、などと愚かな行為を続けてらっしゃるのですか〜」
「万年筆子!」
さあ、続きは『友達編』でお会い致しましょう。
「え〜」
鉛子は少年Aに書き直しを提案します。
「これなら、どう?」
「読めません。顔を洗って出直してください」
鉛子は少年Aに人生のやり直しを提案します。
鉛筆の申し子、鉛子。
スマートにしてエレガントな体型。無駄を一切排除したその姿勢に、憧れる者は少なくない。書けば書くほど、誰もが鉛子に魅了されていきます。
ただし鉛子は、人を選びます。
いくら告白されようが、字の汚い方の申し込みは遠慮させて頂いています。
更に鉛子は、非常にプライドが高いのです。
何故なら、その身を削りながら一字一句に命を吹き込み、言葉の世界を創造しているのです。そのため鉛子は、その世界を汚す者を許しません。常に上を志す者のみが、鉛子のパートナーとして認められるのです。
そんな鉛子にも悩みがあります。
それはまだ、これはと思う方と出会えていないことです。鉛子も、もう立派な大人です。お年頃です。それは、この世に生を受けた時からお年頃です。
腕に自信と度胸、それと少々の財力があれば鉛子のパートナー候補としてのチャンスが有るかもしれません。
さあ、どうしますか?
「綺麗に書けました!」
「貴方はこの世界を脅かす者。成敗致します。お覚悟を!」
「えー」
その後、少年Aの目の前に異世界への扉が開き、何処かに召喚されて行きました。これで一つ、この世界は守られたようです。成敗完了です。
◇
「何ですか? それは絵ですか? それとも記号ですか?」
「ちゃんと書いてるじゃん」
少女Aは鉛子に反抗します。
「読めればいいの! 読めれば」
「勝手は許しませんよ。さあ、心を込めて書くのです」
「こころ? キャッハー、笑えるー」
「仕方のない方ですね。はあ」
鉛子は人に優しく、忍耐強いのです。時に寛容で、おおらかな心を持ち合わせています。つまり、
少女Aは好きなように書きなぐっていきます。
何を書いているのか、もしかしたら本人にも分からないかもしれません。
暫くして少女Aは『終わったー』と叫ぶと、鉛子を放り投げてしまいました。その時です。ポキッと芯が折れてしまいます。
「キャー」
鉛子は悲鳴を上げます。
そうです。鉛子の心も折れてしまったのです。
「何をなさるのですか!」
「えー、ちゃんとココロ? 入れたよー、てんこ盛りだよ〜。あたいのラブまでブッ込んだよ〜。もう、鼻血も出ねーよ」
「貴女は私にとって脅威です。排除致します。出でよ! 消し子!」
鉛子は消し子を召喚。その使命を伝達します。
「呼んだ〜」
「消し子! 少女Aの痕跡をこの世界から消し去るのです」
消しゴムの申し子、消し子。
そのグラマラスで柔軟な体を駆使し、この世のあらゆる汚れを消去する力を持つ能力者。彼女の綺麗好きは、あらゆる筆記男子から羨望と憧れの対象になっています。恋人候補ナンバーワンは伊達ではありません。彼女もまた、お年頃です。貴方にもチャンスはあるかも、です。
「いいの〜」
「おやりなさい。ターン・エンド」
「じゃあ、いっくよー」
消し子は彼女の能力、オール・デリートで少女Aの書きなぐった”もの”を消していきます。
「おおおおおおおおおおおおおおお、おがあちゃん!」
少女Aは泣き狂います。
しかし、もう遅いのです。消えた”もの”は、この世界には存在しません。
”ひらがなのようなもの”、消去。多い〜
”カタカナのようなもの”、消去。多い〜
”漢字のようなもの”、消去。少な〜
「消去完了!」
少女Aの手元には句読点だけが残りました。
「せめてもの情け。精進されたし」
「おがあちゃん! 鉛子がいじめるー」
少女Aは泣きながら去って行きました。
これで一つ、この世界は守られたようです。
「オーホホホ」
「その声は!」
「ま〜だ、そのような、書いては消し〜の書いては、などと愚かな行為を続けてらっしゃるのですか〜」
「万年筆子!」
さあ、続きは『友達編』でお会い致しましょう。