帰省

文字数 670文字

入学した高校は、1学年に9クラスずつあり、私はまずその人数の多さに衝撃を受けた。
中学校ではリーダー的な立場に立つことも多かったが、高校ではクラスで誰よりも目立たない存在だっただろうと思う。
日々の勉強や部活に追われながらも、下宿生達はゴールデンウィーク、お盆、お正月に数日間の帰省をする。
「もうすぐ帰れる!」
と、胸をワクワクさせて帰省の日を指折り数える。
かつて、
「何にもないこんな島、早く出たい。」
と思っていた故郷。そんな考えはすぐにどこかへ行ってしまっていた。
深緑色の山と青く光り輝く海、温かい人たちがそこにはいる。
なにも変わらない風景が、帰省するたびに私を迎えてくれた。
「なんて美しいんだろう。当たり前に思っていたものは、当たり前じゃないんだ。」
と、教えてくれる。秋の夜長の虫の鳴き声、冬の澄んだ空気と満天の星空。会うと、
「お帰り。」
と声をかけてくれる人たち。
私が生まれ育った場所は、こんなに素晴らしい場所だったんだと島を離れて初めて分かった。

帰省から本土に戻るフェリーに乗る時、戻りたくなくて毎回泣きそうになった。いや、隠れて泣いていたことも何度もある。
それでも自分で決めた道だから、また頑張ろうと思えた。
ずっと変わらないこの島が
「また頑張っておいで。」
と背中を押してくれている気がした。
それは社会人になっても変わらなかった。
仕事もプライベートも上手くいかなくて、心が弱っている時、島に帰るとほっとした。
「もう少し頑張ってみようかな。」
と自然に力が湧いてきた。

帰る場所があるというのは、とても幸せなことなんだとこの歳になっても痛感する。
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