第5話
文字数 1,959文字
「とりあえず一瞬だけマスクを脱いでこれを飲みなよ。全部飲んでもいいよ」
俺は百均の保冷カバーに入れて腰に付けていた、未開封のスポーツ飲料のペットボトルのキャップを外して多恵子に渡す。まだ多少冷たい。
「ありがと」
多恵子はマスクを脱いでスポーツ飲料をコクコクと飲む。顔中汗まみれで火照って真っ赤な顔をしている。今が冬だったら大量の湯気が立ち昇っているに違いない。
多恵子はペットボトルの三分の一ほどを飲むと俺に返した。
「ああーーっ、すっごく美味しかったわ。身体の隅々まで水分が行き渡ったって感じ!」
元気になったみたいだ。さっきの軽い異常行動は、やっぱり熱中症の一歩手前だったんだろうな。
「はい、チュパカブラのレモン味。かみ砕いて棒を外して舐めていなよ」
「ありがとう、罰野君」
多恵子に返されたペットボトル……これを俺が飲めば間接キッス! うー、ドキドキする。
「ねえバツーっ、ササラも飲みたい」
「えっ、あっ、えっ、うん。そうだな、お前も飲め。水分補給は大切だ」
小学生がペットボトルを咥えてクピクピと飲む。
ああああっっ、多恵子とササラの間接キス……。うううう、俺のファースト間接キスが……。
俺は写真撮影をするべくスマホを構えた。幽霊達の状況はかなり混沌としている。
営業マン風の幽霊がグレイの肩に飛び乗って、自分の首のロープでグレイの首を絞めながら叫んでいる。
「お客様っ、恐れ入りますっ」「少々お待ちくださいませっ」「本日はありがとうございますっ」
ホステス風の女性が自分の胸に刺さっていた包丁を抜き取り、髪を振り乱して正面からグレイをめった刺しにしている。
「マサオっ、何であたしを捨てたのっ!」「そんなにあの女がいいのっ!」「帰って来てっ、マサオーーっ!!」
前歯が数本抜けた割れたヘルメットの暴走族風の少年が、グレイに横から連続で頭突きをかましている。
「オラーーッ、デキャッカホシュテッテルンジャネヘッヘエッゾーッ、オマンジャクルステッホハップルペアダクッテヤクックッルゾーッ!」
何を言っているのか分からない。
旧日本軍の兵士が全長130センチ程の細長い三八式歩兵銃の先端に、刃渡り40センチの長い三十年式銃剣を着剣して身体の横で構えている。今度は狙撃ではなく接近戦を挑むようだ。狙撃は見事だったが、銃剣術の腕前はどうなんだろう。
三人の幽霊に袋叩き状態だったグレイが突然、言語なのか鳴き声なのか分からない奇怪な雄叫びを上げる。いじめられっ子の突然の反撃みたいに、やられっぱなしでプッツンしちゃったか?
肩に乗っていた営業マンの右足を掴んで思い切り頭からコンクリートの床に叩きつける。肉が潰れ骨が砕ける嫌な音と共に床一面に大量の血が飛び散る。
隣の暴走族の顔面に左手の裏拳が叩き込まれる。頭は粉々に砕け散り、霧状の鮮血で周囲が霞む。飛び散った血まみれの脳漿が壁にぐしゃりと貼り付く。
ホステスの腹に前蹴りがぶち込まれ、爆発するように内臓が飛び散る。長い大腸を空中に引きずりながら吹っ飛んだホステスは、後ろに立っていた旧日本兵に猛烈な勢いで激突する。ぶつかった日本兵が持っていた三八式歩兵銃の長い銃剣が後頭部から貫通し、額の真ん中に鬼の一本角のような血まみれの長い片刃の剣を生やす。
ホステスに激突された痩せた日本兵は手足の骨が粉砕され、首もあり得ない方向を向いている。
「この腐れ宇宙人が! 何さらしとんじゃーっ!!」
893が左手のトカレフを乱射しながら、ズボンの腹に挟んでいた短刀を右手で引き抜きグレイに突進する。
グレイのアーモンド型の大きな目が光り、両目から眩い怪光線が放たれる。怪光線は893の両足の膝から下を吹き飛ばす。
膝から下を消失した893はそのまま垂直にドスンと床に落ちたがそのまま立ち続け、投げた短刀でグレイの右目を潰す。
グレイは残った左目から再び怪光線を放つと893の右半身を吹き飛ばした。893は焦げた内臓や肉片をまき散らしながら、それでも銃を乱射しつつ大きく後方にのけぞり、そのまま床に倒れて動かなくなる。
正統派幽霊の集団が一斉にグレイに飛びかかり、身体中に巻き付き締め上げる。グレイは苦し気なうめき声を放ちつつ、一人の幽霊の顔面をその長い指で掴むと一気に握り潰し、血と脳漿をまき散らす。。
さらに両手でもう一人の幽霊の首と肩を掴むと縦にメリメリと引き裂き鮮血の噴水を上げる。引き裂いた幽霊を無造作に床に放り投げると、別の幽霊の口に左手を突っ込み顎を掴んで右手で腹を突き破る。突っ込んだ右手で掴んだ内臓を根こそぎ引き抜き、辺り一面の床にぶちまける。
逃げ出そうとする幽霊の消えかけた足の辺りを掴んで床に叩きつけ、背中に手を突っ込んで背骨を砕く。さらに肋骨をへし折り心臓を握り潰す。