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エピソード文字数 727文字

 信長と久しぶりに勝負をし、竹刀が激しくぶつかり合う音が鳴り響く。興味深く勝敗を見つめる家臣の前で、やはりあたしは信長には勝てなかった。

 右腕を一打され、木刀は地面に転がる。
 指先を伸ばそうと前屈みになり、肩に信長の木刀が振り下ろされる。

「……うっ。信長様、参りました」

「紅、わしに勝てぬとは、貴様もまだ半人前じゃのう」

「この次は、必ずや信長様を負かして見せましょう」

「これは面白い。は、は、はっ」

 豪快に笑う信長に、平手が声を掛ける。

「信長様、濃姫様との婚儀の件でお話がございます」

「蝮の姫君か。平手の縁組など気が乗らぬ」

「これ、気が乗らぬではござりませぬ。織田家の一大事でござりますよ。庭での戯れはおやめ下さい。早う座敷に上がって下さらぬか」

 平手に窘められ、信長は渋々座敷に上がる。平手はあたしにも同席するようにと命じた。

 座敷に上がってもなお、信長は落ち着きなく部屋の中を彷徨く。

「信長様、猿のようにウロウロなさらず、早うお座りなされ!」

 平手に一喝され、信長は渋々胡座を掻く。

「ほんに情けない。いつまで駄々を捏ねておるのですか。濃姫様との婚儀はすでに決まったことであろう。本日、明智光秀殿より(ふみ)が届いておりまする」

「明智光秀とな?」

「はい。明智光秀殿は濃姫様とは従兄弟であらせられます。明智光秀殿の文によると濃姫様は長きに渡り床に伏せていたため、声が出なくなったそうでございます」

「話せぬと申すのか?蝮はそのような姫を、この信長に輿入れさせると?」

「和睦の条件ゆえ、今さら破談にはできますまい」

「鳴かぬ女など面白うもない。そんな女を正室にしろと申すのか?」
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登場人物紹介

斎藤紗紅(さいとうさく)16歳

レディース『黒紅連合』総長

 斎藤美濃(さいとうみの)17歳

紗紅の姉、家族想いの優等生

 織田信也(おだしんや)20歳

紗紅の交際相手

元暴走族

 織田信長(おだのぶなが)

戦国武将

明智光秀(あけちみつひで)

戦国武将

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