前世譚2 ❀ 天職

文字数 956文字

本屋の秘密の部屋で、お茶会を楽しんだあと。


借りた傘の下で、晴天のおまじないを唱えながら、リカルドは家路についた。

ただいま

おかえりなさい。…って、なんだ、おまえか

父様かと思ったよ

また本? 好きだね

リカルドは何も言わず、階段を上がった。


すると階下から、長男三男の陰口が聞こえてきた。

同じ腹違いの弟でも、3番目のおまえとは随分違うものだ

リカルド兄さんは、母親が分からないしね

僕たちにも、父さんにも似てない

父様の本当の子ではない、そんな気がしてならないよ。

それにあいつは……昔からなにかと気味が悪い

よく天気を当てたし、僕の母様が死ぬ日も予感していたよ……

一番恐ろしいと思ったのは〝〟だよ。


昔、うちの工場の天井に「丸い首縄がぶら下がっている」とか言い出してな……

その話、知ってるよ。


リカルド兄さんが変なものを見た後、うちの工員が首を吊って死んだって

(聞きたくない、こんな話……)

家にいる時、リカルドは自室にこもるようになった。


けれども時々、自分の悪口が聞こえてくる。

リカルドめ、父親の俺に楯突いてきた。

少しこちらの利益を上げただけだろう

ある夜中のこと。

リビングから、父親と長男の話し声が聞こえてきた。

このご時世、少し手を汚さないと、工場の経営なんてできませんよ

うちの厄介者め。

(ひどい言い様だ。僕が言わなければ、納品先に契約を打ち切られたかもしれないのに……) 

工場では、自動車や飛行機の精密な部品を製造している。


父は、経費を削減するため、粗悪品を使ったのだ。

(あの粗悪品では、すぐにガタが来る。修理工が見れば、うちに非があると分かる)

それに最近のリカルドときたら、あしげなく教会に通って、聖書も読み込んでますよ。


手を汚したくないなら、いっそ聖職者にでもなればいい

天職かもしれないな!

だがアイツは手先が器用だろう? 使えるからな

(感謝なんてされない。けれど僕のつくったもので、事故が起こったらと思うと、言わずにはいられなかった。それなのに……)

家族に疎まれ、婚外子だと馬鹿にされている。

(恨んではならない……。言葉にしてもならない)

リカルドは自室で、本を開く。


悪心から、意識を遠ざけたかった。

言葉は恐ろしい兄弟が叩く陰口は、いずれ彼ら自身に返るのだから
すると、窓の外から光が差した。

雨が止んだか

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登場人物紹介

帯刀 咲良  (たてわき・さら)


 高校2年生、剣術道場の娘。

ジョン・リンデン


イギリス人

インターポールの捜査官。

天羽 理々(あもう・りり)


高校2年生、咲良の親友

合気道部

ラルフ・ローゼンクランツ


ドイツ人

インターポールの捜査官。

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