十一 さらば愛しきエム郎

文字数 3,730文字

「もうこのままだとお母さんが心配なのです。ガオガブが外に行ってあの機械をはずして来るのです」

「ガオガブちゃん。危ない。駄目だ」

「でも、お母さんが」

 ガオガブが小さな声で言う。

「なんかいい方法ないかな。このエロメカを使って、お母さんの機械を」

 一郎はそこで言葉を切る。

「思い付いた。おいエロメカ。あの機械を取れば、もっとエロい事ができるぞ。今、ガオガブのお母さんはあの機械に操られてるんだ。あれさえはずせば、きっともっと素直になるんじゃないかなあ」

 一郎は大きな声で言った。

「パ、パ、パッオーン」

 ジャベリンメカが吠え、ガオガブのお母さんから一度離れる。

「お。なんか、うまくいったっぽい?」

「ちょっと。ジャベリン。ミーケは? ミーケの事は無視なの?」

「何をする気なのです? 乱暴な事はしないで欲しいのです」

 ガオガブが泣きそうな顔をする。

「きっと大丈夫だよ。ガオガブちゃん。このエロメカは、腐っても俺のコピー達でできてる。エロい事はしても、女の人を傷付けるような事は同意がない限りはしないはずだ」

 一郎は、信頼してるぜ。ジャベリンメカ。と思いつつ言った。

「同意があればするのです?」

「え? ああ、うん。変かな?」

「いえ、いや、あの、同意があってする傷付ける行為ってどんな行為なんだろうって思っただけなのです」

 ガオガブが言ってから何かに気付いたような顔をすると、耳の先まで真っ赤にして、顔を俯ける。

「うんうん。いいぞガオガブちゃん」

「もう。旦那様のエッチなのです」

 ガオガブが少し顔を上げ、上目遣いで一郎の顔を見る。

「なんだよ。もう。ミーケは仲間はずれかよ。いいもんいいもん。エム郎をいじめるもん」

「オーイエス。オーモアーモアー。ナイスデス。ナイスデスヨ~」

 そんな会話を一郎達がしている間に、ジャベリンメカが、股間の辺りから巨大な一振りの諸刃の洋剣を取り出した。

「ジャベリンソードデスー」

 エム郎が言う。

「ジャベリンソード? まさか、それでガオガブちゃんのお母さんを斬る気なのか?」

「駄目なのです。やめて下さいなのです」

「パオーン」

 ジャベリンメカが剣を振るう。すぽーんと剣がジャベリンメカの手から抜けてどこかに飛んで行く。

「え? 何?」

「どういう事なのです?」

 一郎とガオガブはほとんど同時に言った。

「ジャベリンメカめちゃジャベリン~」

 ミーケが笑う。

「ジャベリンメカハケンナンテツカッタコトナイデスヨー。ダカラショウガナイヨー」

「だったらなんで出したんだよっ」

 一郎は、我ながら情けない。と思う。

「やっぱりガオガブが行くのです」

 ガオガブがジャベリンメカのコクピットから出ようと出入り口を探し始める。ジャベリンメカはまるで攻撃を受け大ダメージを受けたかのように、その場に片膝を突き、動きを止める。

「どうすればいいんだ。このままじゃ埒(らち)が明かない。でも、ガオガブちゃん。外に行くの駄目だ。危なすぎる。この高さから落ちたらいくらガオガブちゃんだって無傷じゃ済まないはずだ。お母さんの所に行けたとしても、お母さんが攻撃して来たらやっぱりただじゃ済まない。ガオガブちゃん頼むから落ち付いてくれ」

 一郎はガオガブのそばに行く。

「ン~? オチルトイタイデスヨネー? ンン~? アノキョタイニタタカレタラードウナッテシマウデショーネ~?」
 
 エム郎が物欲しいそうな顔になりつつ言った。

「エム郎? お前、まさか、行きたいの?」

 ミーケが言う。

「ノー。エムロウハ、ミーケスキスキヨ~」

 エム郎がもじもじしながら言う。

「行きたいんだね。エム郎」

「ミーケ。ホントウハスゴクイキタイヨー!」

 そう言ったエム郎の瞳は、熱く夢を語る少年の瞳のように輝いていた。

「分かった。でも、絶対に帰って来て」

「オーケーヨー。ミーケ。デハイッテクルヨー」

 言うが早いか、エム郎が駆け出す。ジャベリンメカのコクピット内から、コクピット正面にあるガラスのような透明になっている部分を突き破って外に出ると、ジャベリンメカがエム郎の動きに呼応するように、エム郎に向かって手を伸ばす。

「イシンデンシンヨー」

 エム郎が言うと、ジャベリンメカが立ち上がり、ガオガブの母親に接近し始める。

「ちょっと、今度は何する気?」

 剣を出された事で、ものすごく警戒を強めているガオガブの母親が言う。

「コウスルンデスー! ゴー、スロウー。ジェベリンメカ」

 エム郎の言葉を受けて、ジャベリンメカが野球のピッチャーのように振りかぶると、手に乗っているエム郎をガオガブの母親目掛けて投げた。

「ヒョウウウウウウー。カゼガココチイイヨー」

 エム郎が、叫びながらガオガブの母親の肩のあたりぶつかる。

「オウ―。コノイタミー、グイグイクルネー」

 エム郎が肩から背中に回り込み、チーターの設置した機械の所に行く。

「オケオケ。ハズスヨー」

「こら。何してんだよ」

 ガオガブの母親が言い、エム郎の事をまるで、蚊でも潰すようにぴしゃりと叩く。

「ファーオ!! コレハスゴイヨー。モア―。ワンモア―」

「くっそう。こいつ離れろ」

 ガオガブの母親の手が執拗(しつよう)にエム郎を襲う。

「オーイエ。ニンムカンリョー。サラダバー」

 ガオガブの母親の背中に設置されていた機械とともに、エム郎の体が海に向かって落下して行く。

「あいつ、やりやがった」
 
 一郎は落下して行くエム郎見つめながら言った。

「エム郎。お前。エム郎。死ぬなー。死んじゃいやだああぁぁぁー」

 ミーケがジャベリンメカのコクピットの前面にあるガラスのような透明になっている部分に駆け寄って言う。

「凄いのです。やっぱり旦那様は素敵なのです。ぽっ」

 ガオガブが頬を赤く染める。

「パオーン」

 ジャベリンメカが、まるで、失った仲間の追悼の為に遠吠えする狼のように吠える。

「はっ?! うちは何を?」

 ガオガブの母親の体が縮み始める。

「お母さんが元に戻ったのです」

「おお。良かったね。ガオガブちゃん」

「はい。旦那様のお陰なのです」

 ガオガブが言って、一郎に抱き付く。

「エム郎。どうしてだよ。なんで、命を賭けてまで、そんな事するんだよ」

 ミーケが力なくその場に座り込む。

「ミーケ」

 一郎は、すすっと、無意識のうちにガオガブの腕の中から抜け出ると、ミーケのそばに行く。

「ミーケ。元気出せ。また出してやるから」

「違う。また出しても、あのエム郎じゃない。あのエム郎は世界に一人だけだ」

「ミーケさん」

 ガオガブが小さな声で言う。ジャベリンメカのコクピット内にずずーんと重い空気が漂い出す。

「ジャベリンメカ。もういい。合体解除だ」

 一郎は小さな声で言う。

「パオーン」

 ジャベリンメカが吠え、ジャベリンメカが縮み始める。

「縮んでるだけじゃない。消えてるのか? これ?」

 一郎はコクピット内の景色の変化を見て言った。

「そうよぉ。もうお別れよぉ」

 コピー一郎の声が言う。

「おす、おら」

「いや、待て、お前は黙ってろ」

 一郎は慌てて口を挟む。

「さらばだ。ずっこんばっこん」

「またどこかで会おうぜ」

「いや、待った。今のどのコピー一郎言ったんだ? こんなきざっぽい奴なんていた?」

 一郎は首を傾げる。そんなこんなで、すべてのコピー一郎が消え、ジャベリンメカもまた虚空(こくう)の中に消えて行った。

「ハーイ。ミーケ」

「え? エム郎?」

 どこからともなくエム郎の声が聞こえ、ミーケがその声に反応する。

「ソウネ。サイゴノアイサツダヨー。ミーケ。マタエムロウノコトケッテヨー」

「エム郎。エム郎、カンバーック」

 ミーケが叫ぶ。

「終わったのか」

 一郎は誰に言うともなく呟くように言った。

「そうみたいなのです。エム郎さん、凄かったのです」

「うん。凄い奴だった」

「なんだよ。ジャベリンもガオガブも勝手にまとめるな」

 ミーケが両手で顔を覆いながら言う。

「悪かったね。うちのせいで」

 ガオガブの母親が一郎達のそばに来る。

「お母さん」

「ガオガブ」

 ガオガブとガオガブの母親が抱き合う。

「アドミニミニコード。エム郎」

 もしも、出せるなら、ミーケの為に出してやりたい。一郎はふっとそんな事を思うと、小さな声で呟いてみる。

「オー。モウヨンダノー? マダハヤイヨー。セッカクサッキノイタミヲオモイダシテタトコロナノニ―」

「エム郎? あのエム郎なの?」

「イーエス。ミーケ」

「なんだよ、死んでないのかよっ。すぐに出て来られるなら最初かそう言えよな。エム郎、椅子」

 ミーケが嬉しそうに笑いながら言うと、エム郎が瞬時に四つん這いになった。
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