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文字数 1,919文字
自分を半ば強引に勇者という役割に押し込めた仕組みは、これで一応破壊できたことになる。
実際のところはどうなのだろうかと、疑う気持ちがないわけじゃない。なぜなら、私自身が何か変わるわけではないために、本当のところがどうであるのかがわからなかったからである。
ただ、探し当てた情報が示したものは全て無くなった。
それだけは確かなことであり――自分の気持ちに区切りをつける理由としては、それだけでも十分だった。
事の発端が自分の気持ちの落としどころを決めたかったかから、なのだから、実際のところがどうであっても構いやしない。
終わってしまえばこんなものだろうと思うだけだ。
そして、協同作業が終わったのであれば、魔王の城に居る理由もなくなる。
だから、最後の義理として要求された報告書を作って渡したら、城を出ることにした。
なんだかんだで三年ちょっとを過ごしたことになるわけで。長いような短いような、中途半端な期間ではあるが、存外名残惜しいと思う気持ちもあった。まぁ生活するだけならほぼタダで楽だったから、という面もあることは否定しないがね。
報告書はすぐに書き上げることができた。
予定を無理矢理合わさせて、魔王に面会して直接報告書を手渡す。
出来がどうであるかは知ったことではなかったから、魔王がこちらの手から報告書を受け取った時点で背を向けて、部屋を出ようとしたのだが。
そんな去り際になって、魔王から制止の声がかかってしまったので足を止めることになった。
こちらが首だけを動かして振り向いてやると、魔王はひとつだけ教えて欲しいと前置きを挟んだ上で、本当に興味本位でしかないのだがと断りも入れた上で口を開いた。
「なぜこんなことをする必要があったのだ?」
今更そんなこと聞くのかよ、と笑いながら。最初に言ったはずだろうと答えたら、そんな建前はいいから本当のことを言えと返されてしまった。
いや全部本当かと言われたら嘘になるけど、余計なことに巻き込まれた鬱憤を晴らすという、八つ当たりに近い感情が大きかったのは本当のことなんですけどね。
とは言え、今までとこれからの生活について思った以上の便宜を図ってもらったこともあり、喋らずにいようと思っていたことを対価として語ることで後腐れを無くすのもいいかと、そう考えて。
少し頭を回して言葉を選んでから、魔王の質問にこう答えてやった。
「単純なことだよ。あの制度は、当時こそ本当に必要だったから作られたものだったんだろうけど、今は違うだろう?
ちょっと問題が起こった。ああこういう制度がある。だから利用しようってな具合に利用しているだけだった。そこにあるから使っている、それだけだった。
だから、それを使う連中の誰も彼もが無責任になっていた。
誰かの人生を無理やりに奪って何かを強制するのに、その相手を覚える気すらないなんて――そんなの、それこそ一番許されない行為だろう。
そんなものに巻き込まれるのを俺で最後にしたかった、なんて言うと大袈裟かもしれないがね。
せめて、誰を選んだのかくらいは覚えていられる程度にしてやろうと、そう思ったんだよ。そしてそう思ったから、今の制度は邪魔だなという結論が出た。
……まぁ本当に必要になれば、私の邪魔をしてくれた連中みたいに、また勇者みたいなのは現れるだろうこともわかってたしな。
つまりは、あってもなくてもいいようなもんは無くしてしまったって問題ないだろうと、そう思ったから行動したってことだな、うん」
言い切って、少し間を置いてからこんなところだと続けると、魔王は納得したような、満足したような表情で頷いた。そして笑いながら言う。
「世直しをするという意味では、君はまさに勇者だったというわけか。
案外と、あの仕組みはうまく働いていたのかもしれないな」
その言葉を面白い評価だと笑ってやってから、私は魔王の居室を出た。
道中で顔馴染みになった連中と別れの挨拶を軽く交わしたりなんてした後で、城の外へと辿り着く。
「…………」
これから先の当てはない。特に何をしようという目的もない。
ただ、何かを出来るだけの力と余裕は持っている。
とりあえず、ひとつ大きなことを――その内容が良かれ悪しかれ――為した後だ。どこかの観光地っぽいところで、しばらくゆっくりするのも悪くないよなと、そう思ったから。
「さーて、どこに行ってみようかねぇ」
まずは誰かにそういう行き先を聞いてみようかと考えて、それなら酒場がいいかなと目的地を定めてから、目の前にある雑踏に混ざるための一歩を踏み出した。