第5話 月界の境界線
文字数 1,866文字
部屋に戻った後は、軽めの朝食をとってラジオを聞いていた。
週間予報では明後日から雨と聞いていたが、1日ずれたみたいだ。
とりあえず片付けをしておこうと、机の上の食器を手に取り、軽く濯いで水切りカゴに入れる。
その前に管理人さんに電話して、玄関の鍵の件をお願いをしよう。
スマホのアドレス帳を呼び出して、管理人さんに電話をかける。
これで手配はOKっと。
それでは憩いの一時を堪能するとしますか。
ベッドにどさっと倒れ込むと、手近に置いてある雑誌を手に取る。
ま、いっか。
もう過ぎた事だから考えても仕方ないし、もう会う機会も無いだろう。
いつも前向きを心がけている俺には、問題なしだ。
ささっと気持ちを入れ替えて、本命の漫画雑誌『月刊少年鳳凰』を手に取る。
月一で鳳出版(おおとりしゅっぱん)から発行されるその雑誌は、
ファンタジー専門の雑誌で、俺は欠かさず愛読しており、結構人気もあるそうだ。
しかも、先月のあの引きからのセンターカラーだから、一層引き込まれる。
全く猫のくせになぜか漫画も読めるし、油断もすきも無い奴だ……。
気を取り直して……。
驚きを隠せない仲間達の前で目を瞑り、淡々と話すアリシア。
アリシアはアバルトNO2の腕前で、これまで数々の闇なる者を討伐してきた。
精鋭の集まりであるアバルトに所属するだけでも名誉なのだが、
アリシアとしてはNO2に甘んじる事は納得いかなかった。
元々家柄は貧しく、能力も人より少し秀でているくらいだったが、
持ち前の努力でアバルトに入隊し、それに満足しないアリシアは日々邁進し、
徐々に地位を上げていった。
そんな時、この物語の主人公であるロランと出会う。
ロランは秀でた剣術者や政治家を輩出してきた名家の息子、言わばサラブレッドだ。
腕の方もしなやかな身のこなしと、相手の虚をつく瞬発力で負け知らず。
仲間からも慕われ、人望の観点からしても、ロランは優秀な逸材だった。
そんなロランをアリシアは素直に受け入れられるはずもなく、
表面上はまるで姉弟のように仲良く、
でも本心ではロランを見返す事ばかり考えていた。
そうして互いに背中を合わせながらも、親の敵のように恨むアリシアはある夜に、
堕天使と出会ったのだ。
でも思い返すと、ロランが他の仲間達と話してる時に、
アリシアが1人空を見上げているシーンが度々描かれていた。
国や自分達の行く末に、思いを馳せているのだと思っていたのだが。
来月の予告はどうなっているかと思い、最後のページに手をかけると
スマホの着信音が鳴り響いた。
バイトは休みだし、暇をした誰かがかけてきたのかと思いながらも、
電話に出るとバイト先の社長だった。