4.姉様との楽しい楽しい謎解きごっこ

文字数 2,444文字

執事長に・・・ですか?
はい。
一応お聞きしますが・・・誰が交渉を?
・・・アンタでしょうねぇ。
・・・・・・
ラクトン、頼みましたわよ。

無理ですって!

個人情報を漏洩させるようなマネ、あの執事長が認めるはずがないでしょう!?

とは言え、私が直接言っても見せて頂けないでしょうし・・・

ああでも、「当主代行」としての立場で要求すれば・・・

いや、「代行」はあくまでも代行だ、イコール「当主」ではない。

姉姫様は当然把握されているだろうが、それ以外に漏らすことは絶対にない。


仮にリリーア様に情報を見せたとして、それが他の者に漏れ出たとしたら、執事達との信頼関係の崩壊に繋がるからだ。

そうなれば内部から崩壊―――

我が国の存続に関わりますわね。

大体、何と言って説明するんですか?

「スパイを探しているから経歴書を見せてくれ」とは言えないでしょう!

そこはまぁ、何とか頑張って下さいませ?
・・・・・・!
(ああ、半分遊んでるわね、これ・・・)

・・・まぁ実際のところ、この三人の中では、執事長に話を通せる可能性が一番高いのがラクトン、貴方だと踏んでいるだけですわ。


試すだけ試して、無理なようでしたらまた他の方法を模索致しましょう。

(で、もう半分はラクトンの成長に期待ってところよね)
・・・どうなっても知りませんよ?
元々期待できる話ではありませんので、お気楽に。
・・・まぁ、やれるだけはやってみます。
では、その辺りの作戦会議も交えて、お茶会を再開致しましょう。

(さて、ラクトンはどう出るかしら・・・?)

では紅茶を淹れ直しますのでお待ちください。

・・・・・・







―――執事長、お話が。

ラクトンブレッドか、何の用だ?

―――執事長室。


あの後、リリーアの午前の執務を終え、昼食を済ませたあと。

ラクトンは一人、休憩に入った執事長の部屋を訪ねた。

率直に申し上げます。

執事達の出自を記した書類の閲覧をさせて頂きたいのですが。

ほう。

理由を聞こうか。

リリーア様の御要望です。


当主代行として、使用人の経歴を把握しておくことは必須とのこと。

私としても、これからの執務に必要な情報であるとの認識、リリーア様と同意見です。

なるほど。

では、私からも率直に返答する。


執事の経歴をまとめた書類は私の管轄であるが、当主以外の者に見せることはできない。

それが例え、当主代行の命令であってもだ。

・・・それは執事長、貴方の判断でしょうか。
・・・私の判断、とは?
当主の意向がどうであるか、と伺っております。

それならば心配ない。

他ならぬ、当主からの命令だ。

当主から、とは・・・?

では、一字一句違わず伝えよう。

「リリーアが執事の経歴書を閲覧させるよう言ってきたときには見せる必要はない。

当主代行の執務を行うのには不要な情報だ。当主命令により、追い返せ」とのことだ。

・・・!

(さすがは姉姫様、リリーア様がどう動くか、良く分かっていらっしゃる)

―――浅いな、ラクトンブレッド。
・・・え?

今回は実際に当主からの命令があったが、例えそれがなかろうと、あの程度の問答で私が情報を渡すことはない。


当主の代行を託されたのはリリーア様だが、常日頃より執務の全権を任されているのはこの私だ。

形式上の立場の優位など、私の権限で捻じ伏せられると思っておけ。


本当にその情報が必要なのであれば、情報を引き渡さざるを得ないだけの理由を持って来るんだな。

心得ます・・・







・・・といった話です。
再びリリーアの私室に戻ったラクトンは、事の顛末をありのままにリリーアに伝えた。
それでアンタ、そのまますごすご帰ってきたの?

姉姫様に先手を打たれていた以上、どうしようもないだろう。

あのまま食い下がっても、執事長の印象を悪くするだけだ。

余計に事態が悪化するぞ。

―――今のお話、一字一句、間違いはありませんか?
そこまでの自信はありませんが、話の内容に間違いはありません。

では、姉様が「見せる必要はない」と言ったことと、執事長が「情報が必要であればそれだけの理由を持って来い」と言った言い回しは?

そのあたりについては間違いありません。

宜しい、では問題ありませんわ。

え?

ですが、姉姫様からのストップが掛かっているのでは、欲しい情報が得られないのでは?

姉様は「見せるな」ではなく「見せる必要はない」とおっしゃているのですから、執事長の判断で私に見せることについて、特に禁じているものではありません。
そんなムチャな理論、通じますか。

いえ、現に、執事長も「理由を持ってこい」と言っているのでしょう?

ならば、確認を求めるだけの証拠を集め、その対象を絞れということでしょう。

そう言われてみれば、たしかにそうとも・・・
さすがに全部は見せられないから、怪しいやつをピックアップしろってことですか。
ですわね。

―――しかしアンタ、これはまた、何の捻りもなく真正面からぶつかってきたわね。


もうちょっと何とかならなかったの?

嘘を付いても仕方ない。

これが俺のやり方だ。

そうですね。

今回のことについては、こちらの要望を素直に伝えるのが正しかったと思います。

下手に嘘を付いて誤魔化そうとしていれば、それがばれた時に、後々やりにくくなっていたことでしょう。


あの執事長を相手にするならなおのことですわ。

まぁ、ラクトンが執事長を相手にウソを突き通せるとは思えませんしね。

・・・御期待に添えず申し訳ありません、リリーア様。

いいえ、上出来ですわ。

初めから「無理だ」と決めつけて何もしないままに諦めていたら、この条件も分からないままでしたからね。

・・・ありがとうございます。

―――さて、それでは次はどうするか・・・

お茶をしながら、ゆっくりと考えましょう。

―――これは、姉様が仕掛けた謎解きですわね―――


スパイは、やはり居る。

そして、姉様はそれをすでに突き止めている。

ですが、それは国を揺るがすほどの者ではないはずですわ。


それを、私に探させる・・・

謂わば、これは獣の「狩り」の練習のようなものなのでしょう。

ふふふ・・・
・・・リリーア様?
―――楽しくなりそうですわね。
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登場人物紹介

リリーア・オルトランド


オルトランド家当主代理。13才の女の子。
現当主である姉が海外へ人材発掘に向かったため、代わりに領地を守る。が、実務は全て執事長に一任されているため、名目上のただの御飾りである。
本人もそれは分かっているため責任感は一切ない。

エイドリッヒ・ラクトンブレッド


オルトランド家に仕える庭師の息子。
幼少の頃からのリリーアの遊び相手であったため、専属の執事として採用された18才。
こちらも名目上の役職であり、一部からは「ごっこ遊び」と揶揄されているが、本人はいたって真面目な性格であるため、執事の職務を全うするための努力を怠らない。

エミリーナ・ミーアキャット


捨て子。リリーアの姉に拾われ、リリーアと共に育ってきた吸血鬼。メイドとして育てられた16才。
ラクトンと3人合わせて幼馴染み。
生い立ちをものともしない能天気。

シュタインリッヒ・アルバトロス


執事長。当主不在のオルトランド家を切り盛りする影の功労者。その人望は厚い。

ウォルス・バーゼラルド


オルトランド家の平執事。若造がコネで出世したのが気に食わない。

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