文字数 719文字

    二

 こうして嘘ばかりついて、友人に恥を晒していたのが小学生時代なのですが、大きくなるにつれ段々とそういう事もしなくなり、すっかり大人になってからは、気がつけば、今度は嘘をつくのが苦手になっておりました。
 不意のことだと、あっと思考が固まって、間があいてしまったり、棒読みになってしまったり、「うん」とか「いや」とか短い一言で終わってしまったりして、それだともう、どうせ嘘だと分かってしまうので、諦めて本当のことを言うのですが、人間、本当のことを言いたくないときだってあります。
 しかも私は、自分では秘密主義者だと思っております。あるいは秘密主義を理想としているのかもしれません。
 無害なことでも、つまらないことでも、好きなことも嫌いなことも、特にこれといった理由もなく、ただ言いたくない、知られたくないと思うのです。
 心を開いていない人に対しては、誰でも勿論そうでしょうが、身近な親しい人にもそうなのです。
 休日は何をしているだとか、何を買っただとかどこへ行っただとか、あまり人に話したくありません。
 しかし、やはり会話の中でそういう話は出ます。そのとき私は、本当は知られたくないくせに、嘘をつくことも、曖昧に誤魔化すことも出来ずに、馬鹿正直に答えてしまうのです。それも大抵の場合、場の雰囲気や相手に合わせて、謙遜したり卑下したり、ふざけたりと、お飾りの愛想を混ぜて。
 勿論対策をしていないわけでなく、よくある会話には、偽物の答えを予め考えてあったりしました。しかし折角、これを訊かれたらこう答えようと用意してあっても、いざそのときになると、やはりばれるかもしれないと心配になって口ごもって、結局本当のことを言ってしまうのでした。
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