埜切秋姫①

エピソード文字数 3,610文字

 終業式まであと二日に迫ると、学園は長期休暇に入る期待よりも、実家に帰省する生徒たちの荷造りの慌ただしさの方が勝った。旅行鞄の中に一週間分ほどの衣服を詰め込まなくてはならなかったし、不足している日常品を買い集めるために学園の中を、ときには学園の外まで足を伸ばして走り回らなくてはならなかった。ところが銀太や紅月は冬休みをすでに前借りしているかのように、午前中だけで切り上げられる授業が終わると(それも勉学のための授業ではなく、中間試験の解答用紙の返却や今学期の後始末ばかりだった)、ベッドに潜り込んで寝転び時間を潰した。結局、大室姉弟は実家に帰らず、学園で年を越すことに決めた。銀太が今年は帰郷するつもりがないと話を持ち掛けたとき、綴はもっと頑固に反対するかと思っていたが、意外なことに二言三言交わしただけで了承した。その聞き分けの良さは、綴の親友である埜切秋姫が関わっていた。秋姫も今年は実家に帰るつもりはないと話しており、綴は銀太と紅月に秋姫も加えた四人で年を越すことに決めた。綴が大晦日に部屋へ招く約束をすると秋姫は絡まった糸をほぐすようにゆるゆると笑って喜んだ。
 ところでこの日も秋姫は紅月と綴の部屋を訪ねる予定であり、表向きは大晦日の食事や掃除の段取りを決めることになっていたが、その実は四人で遊ぶため、ことに銀太に会うためだった。制服から私服に着替えて、昼食を取ったあと、銀太は姉の部屋を訪ねた。そして藤椅子に座ると秋姫に会えることを考えて、落ち着かなくなり指を絡ませながら弄りまわし、足で絨毯の上に何度も矩形を描いた。目線は何度も本棚に並んでいる書物の題名を追っていたが、それらはまったく頭に入ってこず、読了した本でも内容を思い出すこともなかった。銀太の視線は部屋に入ったときから、好奇心と期待の混じった顔を向けてくる紅月と綴には合わなかった。秋姫が訪ねてくるのを待っているあいだの壁に打たれた一本の釘にぶら下がっている手持無沙汰な時間、三人は会話を交わそうとしなかったが、ようやく紅月はいやらしい微笑を浮かべながら銀太に話しかけた。
さっきからそわそわしてどうしたぁ? 秋姫先輩に会うのがそんなに楽しみかぁ? 中間試験の期間はまったく会えなかったもんなぁ?
この気持ちをなんていうんだろう? 紅月は知らないだろうな。会えない時間が長ければ長いほど、白い霧のように儚い絆でも、強く感じてしまうんだ。この気持ちを僕の代わりに語ってくれた、今は亡き詩人を知らないか?
お前は乙女か!
 熱に浮かされた銀太から思わぬ抒情的な意見が返ってきたために、紅月は心ともなく声を荒げた。からかうつもりで話しかけたが、相方が予想よりも感傷的な気分に浸っていたために紅月は惚気に塗れた話を始められるのを避けるために、放っておくことにした。
 無言の時間が再び続くと、ようやくドアがノックされた。銀太のものとは違う、明らかにこの部屋に入ってくるのに慣れていないことを感じさせる、謙虚で秘めやかなものだった。綴が返事をすると、音もなく滑らかにドアが開いた。やはり秋姫だった。
こんにちは……。お邪魔します……。
こんにちは。こちらにどうぞ。
秋姫先輩、お久しぶりっす。
秋姫ちゃ~ん! 今日も可愛いなあ!
 秋姫がおずおずと尻込みするように入ってきて、銀太の勧めた藤椅子に座る前に、綴はベッドから飛び上がって親友に抱きついた。紅月よりも背の低い秋姫は顔が綴の胸に埋まり、何か声を上げているがくぐもって聞き取れず、抱擁を拒絶するもがき、しかし本当に絡みついてくる腕を振りほどく気はない優しい拒絶で身を揺すった。秋姫は小柄で、手足は陶磁器の白さと脆さを持っており、実年齢よりも幼く見え、髪は短く切り揃えられていたが腰の力が弱く、張りもなかったために一本一本の毛が細く捩れていた。癖の強い髪はヨモギの群生のようだった。本人の肌にも負けないほど白いブラウスの胸元はフリルで飾られていたが、秋姫は軽度の漏斗胸であり、それを隠すためだった。サスペンダーのついた黒いキュロットスカートを履いており、なで肩のために五分に一度はサスペンダーの位置を直さなければならなかった。
本当に秋姫ちゃんの髪の毛はすべすべして柔らかいな~! 猫の毛みたい。
 綴が無遠慮に髪を触ったために、蓬髪はすぐに整えた型から崩れていき、秋姫は他の人に助けを求めるために、何とか左に首を捻って、目尻が下がり気味の両目を潤ませた。
はいはい、お姉ちゃん。秋姫さんが困っているから、離してあげなさい。
 先ほどから立ち上がっている銀太が秋姫の左手を掴んで優しく引っ張ると、綴は抵抗もせずに親友の身体を離して、秋姫は引っ張られるままに、羽毛の軽さで二三歩、足踏みをした。身体が自由になってからも秋姫は握った手を離そうとせず、銀太も手を胸の高さに上げたまま動きを止めていたために、二人は無言で見つめ合う形になった。秋姫は自分の高鳴っていく心臓の鼓動が繋がっている手を経由して相手に伝わるかと思い、面映ゆさに顔が赤くなったり青くなったりして、ますます目を潤ませたが、銀太の方も自分の鼓動を聞き取るばかりに気を取られていて、もう一つの動悸や呼吸の混ざった複雑な生の鼓動を感じ取る余裕はなかった。この場にいる人間が本当に二人だけだったら、手の繋がれたこの数秒を永遠の時間に取り違えただろうが、紅月が横槍を入れたために愛の無限性は崩れた。
おいおい、お二人さん、俺と綴ねえもいるんすよ? 二人っきりになりたいときは、ちゃんとそう言ってくれれば、お望みに答えますからね。
あ……ごめんなさい……。慎みがないところを見せてしまいました……。
 秋姫は銀太の手が突然氷になったかのように驚きながら手を離すと、紅月に向かって頭を下げた。
もう、紅月ちゃんったら邪魔しちゃ駄目よ。
そうは言っても、目の前でこうもいちゃいちゃされるとな。綴ねえも弟を取られたみたいで面白くないだろ。
そんなことないけどな。お姉ちゃんは銀太くんと秋姫ちゃんが仲良くしていると嬉しいよ?
 秋姫は恥ずかしさから顔を俯けたまま勧められた藤椅子に座り、銀太はその隣の椅子に座った。紅月と綴はそれぞれのベッドの縁に腰かけた。
 銀太と秋姫はもちろん、あいだに綴を挟んで、その弟、その親友という立場以上の関係であったが、友人とも恋仲とも言い難い、説明の難しい関係だった。二人が出会ってから経った時間は銀太が高等部に上がってからの期間に等しく、つまり八ヶ月だったが、それは愛が育まれるには十分だった。今から振り返ればの話だが、記憶はロマンチシズムの方向に改竄される傾向がある事実を無視するわけにはいかないとは言え、高等部の入学式の日に、綴から親友だと紹介されたときから、銀太はすでに秋姫に好意を抱いていたように思う。時間の堆積を省略した恋を一般的に一目惚れと呼ぶが、そのときの銀太は秋姫に対して、「年上だが、妹のように可愛い女の子」という好意的な印象を抱いただけで、まだ恋だとは自覚しなかった反面、目を深く伏せてこちらに視線を送ろうとせず、指を絡み合わせて居心地が悪そうに弄りまわしていた仕種から、秋姫が人見知りであり、人付き合い全般が苦手であり、ことにそれが男性相手だと顕著になることは見抜いていた。
 秋姫がいつから銀太に恋愛感情を持つようになったかはわからないが(人から人への好意に明確な区切りが存在しないのも事実である)、二人はすでに互いが互いを悪く思っていないことを承知しており、しかしその感情を口に出すことは銀太も秋姫も決してしなかった。その代わり、学園の廊下や中庭でたまたますれ違ったときには、目と目を合わせて、二人にしか理解できない謎めいた微笑を交わし(その微笑も二人にしかそれと認められない、夏の朝霧のような本当に希薄なものだった)、それだけで満足してその場を去った。綴の部屋以外で会うときには、互いに気安いところを見せず、そもそも会話も交わそうとしなかったために、周りの人間は二人を知人だとも思わなかった。その奥手とも慎重とも言える黙認は一つの遊びのようなものであり、二人とも感情を隠しながら親愛を深めることで、むしろその感情の余韻を長く楽しむ目的だった。
 銀太と秋姫が恋人同士のような振る舞いをしなかったとはいえ、いつも近くにいる紅月と綴には二人の好意は明白であり、紅月は銀太の親友、綴は銀太の姉であり秋姫の親友という、それぞれに親密な立場を持っていたが、概ねのところ二人の関係を祝福していた。概ね、とわざわざ断ったのは、紅月と綴が銀太とどのような関係であろうと異性である以上、多かれ少なかれ好意に由来する嫉妬からは逃れられないからだ。恋愛に凡庸と呼べるものはなく、すべての恋愛が特殊な形式を帯びるものだが、銀太と秋姫の関係は「語らず」がその性質だった。

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登場人物紹介

第二部「偉大なる二十世紀」

忍谷夕吉(しのびたにゆうきち)
第二部の主人公。
賭博師を生業としている。コンプレックスを保持していない無能力者。26歳。
千ヶ谷千陰と組んで、封鎖された東京で成り上がることを計画している。
性格は皮肉屋だが、実業的。
職業柄、変わった特技を多く隠し持っている。

千ヶ谷千陰(ちがやちかげ)

第二部のメインヒロイン。
日本でも有数の名家、千ヶ谷家の長女。23歳。
生粋のお嬢様なのだが、普段着がジャージ(光文学園時代のもの)、主食がラーメン二郎など、俗っぽい。
近寄りがたい兄と可愛くて仕方のない妹がいる。
意外にも本職はハッカー。

シンボル:???

コンプレックス:『カラマーゾフの兄弟』

 ???

千ヶ谷絹人(ちがやきぬひと)

千ヶ谷家の現当主。
千一郎、千陰、千五百の父。
現在の政治情勢は千ヶ谷派と宇津木派に分かれている。
忍谷を千陰の恋人ではないかと疑っている。

シンボル:腕時計
コンプレックス:『ガルガンチュアとパンタグリュエル』
 対象を30分以内のある時点にリセットする。
 本人は物理的な状態だけで、記憶や感情など精神的な状態はリセットできないと言っているが……?

千ヶ谷千一郎(ちがやせんいちろう)

千ヶ谷家の長兄。千陰と千五百の兄。26歳。
次期千ヶ谷家当主。
神経質で気難しい。そのために千陰からは苦手意識を持たれている。

シンボル:???
コンプレックス:「???」

千ヶ谷千五百(ちがやちいほ)

千ヶ谷家の次女。
第二部の時点では行方不明になっている。
千陰は妹を探し出すために忍谷と手を組んでいる。

黒塗ほのか(くろぬりほのか)

日本政府に保護されていた謎の少女。17歳。
「未来を見通す」コンプレックスを保持している。
この能力により、2000年問題を予見していた。
忍谷と千陰のことはなぜか出会う前から知っていた。
はたしてその正体は……?

シンボル:???
コンプレックス:「???」

赤藤詩音(あかふじしおん)

暗殺を生業としている。千陰の大親友。23歳。
光文学園特別科クラスに在籍していたころは、千陰とコンビを組んでいた。
しかし金さえ積めば仕事を引き受ける性格で、政治的には千ヶ谷派、宇津木派のどちらにも属していない。
名前からわかるとおり、第一部に登場した赤藤梨音の実姉。

シンボル:窓
コンプレックス:『月は無慈悲な夜の女王』
 手で触れた場所に窓を作る。
 その窓は通常の窓と同じ性質を持つ。つまり開閉ができ、向こう側が見通せ、ガラスは壊れやすい。

源次郎助(みなもとじろすけ)

上野にある国内最大の国営カジノのオーナー(所有者)。28歳。
本職は権力者向けの金貸し。
商売人として、天才的な能力を持っている。
政治的には宇津木派に寄っている。
権力者のあいだで、「ゲームマスター」と呼ばれるほどあらゆるゲームに精通している。

シンボル:鎖

コンプレックス:『バック・イン・ブラック』

 対象との契約を遵守させる。具体的には対象が契約を違反した場合、損害を与える。その損害の内容は対象の「同意」によって決定する。

五十鈴凪子(いすずなぎこ)


源の右腕。24歳。

堅物で、軍人のような口調をしている。

二色ほどではないが、戦闘能力に長けており、荒事を頼まれることもある。

拳銃を得物とする。


シンボル:風船

コンプレックス:『クロイツェル・ソナタ』

 シンボルの風船は複数出現する。風船に触れた物体は別の風船に転移する。

二色廻(にしきめぐる)

源の側近。源は「秘書のようなもの」と言っている。
無口で無表情。しかし非常に礼儀正しい。意外に気さくらしい。
忍谷はその体つきから、一目で「戦闘タイプ」の人間と見抜いた。

本文ではスキンヘッドになっているのですが、きゃらふとさんの仕様上、再現できなかったので、頃合を見て、キャラデザを作り直します。

シンボル:???
コンプレックス:「???」

散歩桐雄(さんぽきりお)

上野にある国内最大の国営カジノの経営者。源から業務を委託されている形となる。
現在は経営者として働いているが、ディーラーとしての腕前はまだ落ちていない。
コンプレックスを保持しているかは不明。

森重義生(もりしげよしお)


日本政府に所属する男。立場は源よりも上となる。

日本政府と光文学園の仲介役となるために、源のもとに派遣されてきた。

異常なほどに厚着をしている。

第一部にて秋姫と接触していた男その人。


シンボル:ポーン(黒)

コンプレックス:『ミリオンダラー・ベイビー』

 対象の物体の価値を誤認をさせる。ただし、価値の変動や能力の範囲はミクロなものである。

宇津木将臣(うつぎまさおみ)

大日本帝国第八十六代内閣総理大臣。
千ヶ谷家の最大の政敵。
東京の封鎖政策の主導者。

シンボル:???
コンプレックス:「???」

猫松喜久二(ねこまつきくじ)

権力者の一人。千陰は性格が悪いと言っている。
元大手薬品会社の重役であり、現在は大手銀行に天下りしている。
コンプレックスを持っていない無能力者。

切田善嗣(せったよしつぐ)

宇津木派の人間に雇われた刺客。
絹人の暗殺を目論見るが、千一郎の機転により防がれた。
その後、忍谷と戦闘になる。

シンボル:スプーン
コンプレックス:『バナナフィッシュにうってつけの日』
 砂糖を自由自在に操る。しかし操れるのは乾いた砂糖だけであり、ジュースに溶解しているものなどは操ることができない。

間宮蘖(まみやひこばえ)

宇津木派に雇われた暗殺者。
宇津木側の人間の依頼ばかり引き受けるため、「宇津木の犬」の汚名を着せられている。
しかし暗殺者としての実力は詩音と拮抗する。
オークションのさいには司会を務めていた。

シンボル:???
コンプレックス:『モダン・タイムス』
 自分の身体を軟化する。これにより関節を無視する形で身体を動かせるようになる。
 柔らかくなった身体の痛覚は通常のときと変わらない。

園城ゆゑ(そのしろゆゑ)


光文学園二年十二組の担任教師。28歳。

学園に封鎖線が敷かれるなか、コンプレックスを用いて自力で脱出した。

実は葛籠未造が誘拐した子供たち〈チルドレン〉の一人だった。


シンボル:人体の一部

コンプレックス:『アナベル・リー』

 能力の範囲内の任意の場所に目や口など自分の身体の部品を複製する。

葛籠未造(つづらみぞう)


戦後日本最悪の犯罪者と呼ばれる男。

表向きは死刑の確定から執行まで史上最短で絞首刑に処されたことになっている。

しかし実際は日本政府の庇護下のもと、東京のどこかで生き延びている。

葛籠の犯した犯罪の一つに稀有なコンプレックスを持つ子供を誘拐し、養育していた、というものがある。なぜこのようなことを行っていたのかは不明。

ほのかの予言によると、葛籠が次の「世界の王」である。

第一部「ペストの時代の愛」

大室銀太(おおむろぎんた)

第一部の主人公。
国立光文学園高等部一年八組所属。15歳。
中性的な顔立ちで少女と間違えられることもあるが、性格は偏執的かつ執念深い。
これまで一般市民として生きてきたために戦闘の経験が一切ない。それゆえ学園の封鎖を乗り切るための戦闘では変則的な戦法に頼らざるを得ない。

シンボル:鋏
第一のコンプレックス:『緑の家』
 シンボルの鋏はその強度に関係なく物体を切断する。そのとき物体の連続性は保たれたままになる。切断面を合わせれば、分断したものは再び接合する。
第二のコンプレックス:『石蹴り遊び』
 『緑の家』によって切断した異なる物質を接合する。接合された物体は元の二つの物質の性質が混ざり合う。時間の経過とともに、物質は元の物質のどちらかの性質へと帰着する。
第三のコンプレックス:『百年の孤独』
 シンボルである鋏に「意思」を与える。鋏はその意思を遂行するように自動駆動するようになる。あくまで鋏は意思を与えられただけであり、生物化していたり、能力者が操作したりしているわけではない。
 鋏の移動のさいは床や壁など、物体を切り裂きながらでなければならない。

瀧川紅月(たきがわべにづき)

第一部のメインヒロイン。
大室姉弟の幼馴染。
七人しか在籍していない特別科クラスに唯一の一年生として所属している。生徒会庶務兼任。16歳。
男勝りで、非常に野蛮な言動が目立つ。その反面、緊急事態でも冷静に対処するだけの胆力と機知を持ち合わせている。

シンボル:ハンドベル
第一のコンプレックス:『太陽の塔』
 能力の範囲内にある最も速度の速い物体を爆破する。このとき、能力の対象には能力者自身も含まれる。
第二のコンプレックス:『明日の神話』
 能力の範囲内にある一定の速度の超えたすべての物体を爆破する。この一定の速度はスペクトルによって設定される。

大室綴(おおむろつづり)

銀太の姉。紅月にとっても姉貴分である。
国立光文学園高等部二年十二組(芸術科クラス)所属。17歳。
自分にも他人にも甘く、銀太と紅月の二人を溺愛している。
一人称が「お姉ちゃん」。
文学に精通しており、編纂者を志している。

シンボル:豆本
コンプレックス:『バベルの図書館』
 シンボルの豆本は無限の頁を持ち、際限なく情報を書き込める。文章の記入・消去は念写により行う。このコンプレックスはあくまで「無限に情報を記録する」能力であり、「頁を入れ替えて情報を整理する」能力はない。

埜切秋姫(のぎりあきひめ)

綴のクラスメートであり、親友。銀太とは初めて会ったときから友達以上、恋人未満の関係。
国立光文学園高等部二年十二組(芸術科クラス)所属。16歳。
気弱な性格であり、自分の意見をなかなか出せない。この性格は自分のコンプレックスが他人のものよりも実用性に欠けることと無関係ではない。
癖毛を気にしており、外出するときは必ず帽子を被る。そのために帽子集めも趣味になっている。

シンボル:???
コンプレックス:『ダンサー・イン・ザ・ダーク』
 手で触れた小さな傷を塞ぐ。

須磨楓子(すまかえでこ)

紅月のもう一人の親友。
国立光文学園高等部一年六組所属。16歳。
紅月の「唯一」の親友を名乗っているため、銀太とは犬猿の仲。
高飛車で傲慢だが、これは自分の実力への自信の表れである。実際に普通科クラスの中ではトップクラスの成績を誇る。
学園封鎖後はショッピングモールにて幹部の一人になっている。

シンボル:皮手袋
コンプレックス:『茹でた隠元豆のある柔らかい構造(内乱の予感)』
 シンボルをつけた拳で殴られた人間はその部位を認識できなくなる。攻撃された部位は透明に見え、同時にその機能も失う。

守門恒明(しゅもんつねあき)

七人いる特別科クラスの一人。生徒会書記兼任。学年は二学年に当たる。17歳。
綴に一目惚れして以来、告白を繰り返している。そのために銀太からは目の仇にされている。
お坊ちゃんであり、物腰が柔らかい反面、ナルシストな言動が目立つ。しかし特別科クラスに所属している以上、頭脳や戦闘の実力は折り紙つき。

シンボル:金平糖
コンプレックス:『重力の虹』
 空中に浮いている物体を垂直に落下させる。このときの落下の速度は少なからず銃弾の速度を超える。

常盤七星(ときわななほし)

特別科クラスの一人。生徒会会計兼任。学年は三学年に当たる。18歳。
紅月と同様、生徒会の義務を放棄しているため、クラスメートからは問題児として見られている。
学園封鎖とともにショッピングモールを制圧し、ここに篭城する。その後ショッピングモールの管理人として、学園内の物資と人材を独占している。

シンボル:注射器
コンプレックス:『美しき水車小屋の娘』
 自分の血液を混ぜた液体を操る。このとき、必要な血液の量は操る液体の体積に比例する。そのため、自分が貧血になるほどの量の液体は操ることができない。

犬童影千代(いぬどうかげちよ)

ショッピングモールの幹部の一人。医療品や生活用品の管理を担っている。
国立光文学園高等部三年二組所属。18歳。
物腰の柔らかい好青年。しかし七星がショッピングモール内で唯一コンプレックスを把握していない人間でもある。そのため七星からは「油断のならない男」として見られている。

シンボル:水銀温度計
コンプレックス:『パルプ・フィクション』
 自分よりも高いところにいる生物の体温を上げ、自分よりも低いところにいる生物の体温を下げる。
 このときの変化率は能力者との上下の距離が離れているほど大きくなる。

赤藤梨音(あかふじりおん)

ショッピングモールの住人の一人。地下倉庫(監房として用いている)の管理を担っている。
国立光文学園高等部二年五組所属。17歳。
幹部ではないが、貴重なコンプレックスを持っているために同等の発言権を持つ。本人曰く、人を閉じ込めるのに適したコンプレックス。
間延びした口調のため、ややとろそうに見える。しかし七星や犬童への意見は鋭く、意外にも人をよく見ている。

シンボル:鍵
コンプレックス:『夏への扉』
 能力の範囲内にある、場所から場所を区切るもの(扉や窓など)に、可能な限り通行の妨害をさせる。
 具体的には、それらが固定されたように開きにくくなり、無理やりこじ開けても即座に閉まるようになる。

桑折良蔵(こおりりょうぞう)

特別科クラスの一人。生徒会会長兼任。学年は三学年に当たる。18歳。
精悍な顔つきをした巨漢。生徒会長という立場も相まって一般クラスの生徒たちから恐れられているが、クラスメート曰く、その性格は寛容。
互いに反目しがちな特別科クラスの人間には珍しく、クラスメートを家族だと考えている(特別科クラスから離反した紅月と七星も例外ではない)。生徒会長である自分はその家長だという自負がある。

シンボル:磁石
コンプレックス:『ペイント・イット・ブラック』
 シンボルを中心にして、同じ物質を集める。このときに物質が集まる速度は、その途中にあったものを破壊するほど速い。
 シンボルの磁石は同時に二個以上具現化することもできる。

立畑照葉(たてはたてりは)

特別科クラスの一人。生徒会副会長兼任。学年は三学年にあたる。17歳。
端正な顔立ちだが、男口調であり、傍若無人な態度が目立つ。
紅月と七星の死刑宣告の撤回を報告するために、銀太たちを訪ねてくる。
見た目に合わず、作中でも珍しい、武術を極めた武闘派。

技術:「炸空術」(さっくうじゅつ)
 手を打ち鳴らすことによって、空気を破裂させ、真空により対象を切断する。これはコンプレックスではなく、純粋な技術。銀太は剣術の系統に入る武術と見た。
シンボル:モノクル
コンプレックス:『鎖に繋がれた犬のダイナミズム』
 モノクルを嵌めた左目では、すべてのものが静止して見える。つまり能力者は左目で一瞬一瞬が止まった世界を見て、右目で流れている世界を見ていることになる。

清美一暁(きよみかずあき)

特別科クラスの一人。生徒会遊撃兼任。学年は三学年に当たる。18歳。
細身だが、非常な長身。髪型は常にオールバックにしている。
性格は慇懃で、馬鹿に思えるほど丁寧な口調で話す。
生徒会の職務を全うしようとしない紅月の交渉役を引き受ける。

シンボル:鎖帷子
コンプレックス:『私の名は赤』
 能力者に与えられるダメージ、もしくは能力者が与えるダメージの位置を別の場所に転移させる。

吾妻奈純(あずまなずみ)

特別科クラスの一人。生徒会遊撃兼任。学年は二学年に当たる。16歳。
緊急集会のさい、反抗的な態度を取った男子生徒二名を射殺する。
恒明からは「野蛮な性格」と評される。
生徒会の職務を全うしようとしない七星の交渉役を引き受ける。

シンボル:二丁の散弾銃
コンプレックス:『ライト・マイ・ファイア』

天目小桜(てんめこざくら)

ショッピングモールの住人の一人。光文学園一年普通科。15歳。
犬童をリーダーとした、七星に対する反勢力の一人でもある。
そのコンプレックスを使い、ショッピングモールの住人を暗殺する。
正体を暴かれたさい、仲間の情報を流して命乞いするが、七星に拒否され殺害される。

シンボル:拳銃
コンプレックス:『若きウェルテルの悩み』
 シンボルは驚いた人間に憑依する。その人間がもう一度驚いたとき、身体を乗っ取り、拳銃自殺させる。
 このとき、周りにいる人間の中で最も早く驚いた人間に改めて憑依する。

也則允彦(なりのりまさひこ)

ショッピングモールの住人の一人。光文学園三年六組所属。
ショッピングモールの反勢力チームの一人でもある。
プロレス同好会会長。
銀太はその戦闘能力を高く買ったが、紅月は「馬鹿」と一蹴した。

シンボル:プロレスマスク
コンプレックス:『ボーン・トゥ・ラン』
 身体に触れたものを吸着する。
 格闘技の固め技はほとんどの場合、抜け出す技術も見つけられている。しかしこの能力と組み合わせれば、相性の悪いコンプレックスを持っていない限り、抜け出すことは不可能になる。

毒島慈(ぶすじまめぐむ)

ショッピングモールの住人の一人。光文学園一年八組所属。銀太とはクラスメートである。16歳。
ショッピングモールの反勢力チームの一人。
醜男であり、女性に恨みを持っている。しかし銀太は見た目以上に卑屈な性格に問題があると言っている。

シンボル:???
コンプレックス:『目=気球』
 自分に対して嫌悪した人間の大腸にサナダムシのように寄生する。
 能力者は寄生主から少しずつ栄養を奪い、三日ほどで死に至らしめる。そのあいだ、人質を取っている状態にもなる。

一重柳子(ひとえりゅうこ)

ショッピングモールの住人の一人。
ショッピングモールの反勢力チームの一人でもある。
殲滅戦が始まってからも、自分のコンプレックスを使って周りの人間を欺き、フードコートでくつろいでいた。
身なりを異様に気にし、学園封鎖の中でも衣服の手入れをかかさない。

シンボル:メモ帳
コンプレックス:『ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー』
 メモ帳を読んだ人間は、そこに書かれた言葉を言うことができなくなる。その言葉を言おうとした場合、言い間違えるようになる。このとき、その人間は自分が別の言葉を言っていることに気がつかない。

八木沼篤(やぎぬまあつし)

ショッピングモールの住人の一人。
ショッピングモールの反勢力チームの一人でもある。
殲滅戦が始まると同時にショッピングモールから脱出を試みるが、赤藤の『夏への扉』の能力を知らなかったために自動ドアに挟まれ、身動きが取れなくなる。
その後、楓子により自動ドアから引きずり出される。楓子に奇襲をかけるも、『茹でた隠元豆のある柔らかい構造(内乱の予感)』によって返り討ちにされる。
コンプレックスを保持しているが、詳細は不明。

時谷圭吾(ときやけいご)

ショッピングモールの住人の一人。
ショッピングモールの反勢力チームの一人でもある。
赤藤の『夏への扉』により、眼鏡屋に閉じ込められる。そのため、そもそも殲滅戦が始まったことを知らなかった。
銀太の能力で眼鏡屋から救出されるが、同時にその場にいた七星から死刑宣告を受ける。命乞いをするが、七星に拒絶され首を刎ねられる。
コンプレックスを保持しているが、詳細は不明。

殺人犯

第一部のラスボス。
生徒会暗殺。
大室綴、守門恒明、常盤七星、犬童影千代を殺害した。

シンボル:バタフライナイフ
第一のコンプレックス:『フルメタル・ジャケット』
 シンボルでつけた傷を自由に開閉する。この能力は生物にも無生物にも有効。
第二のコンプレックス:『地獄の黙示録』
 シンボルでつけた傷を自由に移動させる。このときの移動速度は人間が全速力で走るよりも速い。

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