あめふり休日の過ごし方

文字数 1,139文字


 ザァアアア…

 突然の聞こえてきた音に、窓の外を見る。
 午前中だというに、薄暗くどんよりとくすんだ灰色の空から、勢いよく雨粒が降り注いでいる。雨は満遍なく、葉や地面、庭のスチール倉庫等を濡らし、その境界線を霞ませ、薄く曖昧にしている。勢いを変えず降り続ける雨をしばらく眺め、た…と、窓辺から離れる。薄い水色のロングスカートが、ほわりと揺れた。暖かくなってきたし、どこか出かけようかな…と、購入したこのスカートは、プリーツがたっぷりと入った、今年初の夏もの。この間まで着ていたスカートは、もったりと重い生地のものだったため、足元がとても軽い。くるりんと、一回転なんてしてしまう。

 …満足。

 座っていた白いカーペットに戻り、正座から、脚を横に少し崩して座る。横に置いてある薄い木盆から、白いブックカバーのついた文庫本を手に取る。ブックカバーはいつかのハンドメイド市で見つけたもので、そのさらりとしていながらしっとりと柔らかな布質に、一目惚れ…ならぬ、一肌惚れしてしまった。純白でなく、オフホワイトの様な柔らかい色味も、お気に入りポイントだ。少し手触りを楽しんでから、水色の栞紐を外した。因みにこれはブックカバーに付けられているもので、文庫本体に付いているものではない。文庫本に付いているものは、スピンと言うらしい。
 紙面の文字を追い、以前読んでいたところを見つけると、意識は直ぐにその世界に溶け込み、雨の音は、聞こえなくなった。



 …喉が渇いた。

 一度そう気づいてしまったら、もう戻れない。

 冷蔵庫には何があったか。確か、この間買ったサイダーがまだあった筈。グラスはどれにしようか。一緒に何か摘むのも悪くないかも。

 そんな邪念に、だんだんと意識が支配されていく。

 こうなってしまっては、もう物語と溶け込むことは難しい。チラチラと、グラスに注がれた冷た〜いサイダーが、彼等の会話を侵食してくる。
 ここらが潮時、と諦めて栞紐を挟み、ぱたむと本を閉じた。
 指と指とを絡ませ、ぐうーっと腕を天に押し上げ身体を伸ばす。伸ばしきって腕を下ろすと、ふうっと息が溢れた。
 ふと窓の方へ顔を向けると、外が少し明るくなっている。豪雨…とまではいかないが、そこそこに勢いのあった雨が、小雨に変わったようだ。雨音も、時折水の跳ねる音が微かに聞こえてくる、そんな程度。
 …このまま、雨が止んでくれるといい。雨が降った後の散歩も、またお気に入りのひとつ。雨の甘い匂いに、少ししっとりした空気。触れていると、ふんわりと笑みが溢れる。

 雨が上がったらどこに行こうか考えながら、た…とんっ…と、軽やかな足取りを、ひとまずはキッチンへ向けた。



 − 終わりー
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