第29話 焔の成長

文字数 2,422文字

 夏休み……早くも5日が過ぎ去った。

 正直言って、えげつないぐらいきつい。これが俺の一日の日程だ。



 4:30 起床
 5:00 体力作り(山登り)
 7:00 ダッシュ力&止める力を鍛える特訓(全力山登り&全力山下り)
 10:00 素振り500回
 12:00 休憩
 13:00 戦闘訓練(素手)
 16:00 戦闘訓練(武器)
 19:00 実戦(素手)
 19:30 実戦(武器)
 20:00 終了


 新たらしく追加されたものもあるが、それは後で説明しよう。


 ―――今は午前の特訓が終わり、束の間の休みを過ごしている。過ごしていると言っても、昼ご飯を食べて、床のカーペットに寝っ転がってるだけなんだけどな。

 新しく追加された特訓の素振り……これがまあきつい。

 足腰なら相当鍛えてきたが、腕は特に鍛えてこなかった。毎日負荷をかけていたから、それなりに筋肉はついていたけど。

 この素振りに使っている棒もただの棒じゃない。

 シンさんはこの棒のことを素振り棒と言っていたが、AIに聞いたらこれも自動負荷装置の一種みたいだ。

 何も意識せずにただ素振りするんだったら、疲れはするけどここまで消耗することはない。ここまで腕がプルプルするのはシンさんから言われたある言葉のせいだ。

 全力で振ってしっかり止める。

 全力で振ることは別にきつくはない……が、これをしっかり止めることが滅茶苦茶きつい。もし、ちゃんと止められなかったら、AIがカウントしてくれない。

 本当に良いサポーターだよ……全く。

 そろそろ1時だな……もうちょっと休んどこ。


 ―――1時を過ぎ、炎天下の中、焔とシンはいつものように戦闘訓練をしていた。シンは焔に多彩な攻撃を仕掛ける。だが、そのことごとくを焔はかわす。そんな焔の姿を見てシンは苦笑いを浮かべていた。

(ハハッ……これはもう笑うしかないな。たったこれだけの期間でもうこのレベルの攻撃を避けることができるのか!? 普通腕とかで攻撃防いだりするだろ!? ここまですごいとはね……さて、そんじゃレベルを上げさせてもらおうかな)

 シンは一度攻撃を止め、焔と距離を取った。その際も焔は集中力を切らすことはなかった。

 そんな焔の姿を見てシンは一言言うと、さっきとは別人のような動きになった。

「レベルを10上げるね」

 焔は一瞬で間合いに入られた。そこから繰り広げられるシンの攻撃は鋭さも威力も精度も段違いに上がっていた。先ほどまでは焔も余裕とまではいかないが、それほど焦る様子もない顔つきだった。しかし、今は顔を歪め、必死でシンの攻撃をさばいている。先ほどまでは全て避けていたが、もうそんな余裕はなく所々腕でシンの攻撃を防御していた。その攻撃が当たるたびに焔は顔を歪めていた。

 焔の頑張りもむなしく30秒も経たずしてシンからまともな攻撃を食らい、草むらの上に倒れ込む。痛みに悲痛な声を上げる焔だったが、ハッとするや否や飛び上がり、腹を抱えながら距離を取った。焔が倒れていた場所にはシンの右足があった。

 そう、シンは倒れ込む焔に対し思いっきり踏みつけようとしたのだ。

「実戦じゃ、倒れ込んでいる暇なんてないよ」

 そう言うとまた、焔の間合いに一瞬で入ってきた。


 ―――夜の8時。暗くなってきた空を見上げながら俺は草むらの上に寝転びながら肩で息をしていた。一方のシンさんも疲れたらしく、草むらの上に腰を下ろし、タオルで汗を拭いている。

 今日だけで戦闘訓練の難易度が跳ね上がった。やっと戦う時の視野とか動き方とかが身についてきたところでいきなりこれだもんな。本当に気が滅入る。素手はもちろんだが、武器ありきの訓練は相当きつい。

 俺が使っている武器は剣。剣と言っても実際に切れたりはしない。だけど、当たると滅茶苦茶痛い。刃渡りは俺の身長に合わせて短めにしてもらった。

 シンさんは短剣の二刀流。これがとにかく速い。ただ速いだけじゃなくて、洗練されているような気がする。一斉無駄がなく、流れるように次々と攻撃を繰り出してくる。

 耐えることはできる。辛うじて。だが、そこからシンさんに攻撃を仕掛けることができない。実戦形式では、ただ守りに徹するだけじゃなく実際に攻撃を仕掛けないといけない。だけど、もし攻撃をしようものならシンさんから怒涛のカウンターをもらってしまう。

 どうすればあの攻撃の隙間を縫って、シンさんに攻撃を仕掛けることができるんだ……こればっかりは数をこなしていくうちに見えてくるのかな?……わからん。

 シンさんに聞くか? いや、だめだ。シンさんは考えろと言った。だったら俺のやることはただ一つだろ。

 焔はおもむろに立ち上がり、シンに軽く挨拶をするとすぐさま家に帰った。

 焔の姿が見えなくなるまでシンは見送った。その後、糸が切れたようにシンは草むらに寝っ転がった。

「あー、疲れたー!!」

 シンは珍しく声を上げた。寝っ転がったまま、シンは左右の腕を見て笑った。

(あーあー、腕にけっこうあざができてるね。本当、焔君ってどっからあのエネルギー出してんだろ。攻撃の仕方も段々と無駄が少なくなってきてるし、速さも上がってきている。威力もとんでもない。俺も素手は本職じゃないけど、まさかここまでとはね。毎日驚きの連続だよ。剣の扱いも初めから何となく板についていたし……これでまだまだ伸びしろがあるんだもんな。この時間がある夏休み。彼は一体どこまで高みに手を伸ばせるのかな)

「フッ……AI、医務室まで転送してくれ」

「わかりました」

「ここにはこれから毎日お世話になりそうだ」

 そう言って、シンは一笑した。



 ―――ピピピピ

 9月2日 朝4時半

 夏休み最終日。
 

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