第1話

文字数 1,999文字

「調査結果はどうだった?」
 そう尋ねると、彼女はテーブルに置かれたカレーに顔を突っ込んでしまいそうな程勢いよく身を乗り出した。
「すごいですよ、会長。これはスクープです。良い記事が書けますよ」
 十一月某日、我らオカルト研究会の活動拠点でもある大学から程近い田園地帯にUFOが現れた。実際に目撃されたというUFOは写真や動画としてネットに上げられ、業界内を中心にかなりの騒ぎとなった。
 ぼくたちオカルト研究会の扱う題材は多岐にわたる。だがそのほとんどは既に散々「擦られた」ものであり、その上現場はいつも遠方。そんな訳で、会誌に載せるネタは常に不足していた。
 そこに突如現れたのが例のUFOだった。オカルト研究会に属し、今年度から会長職まで務めているが、いわゆる超常現象を身近に感じた経験は一度もなかった。目撃場所はバスでわずか二十分。正直かなり胸が躍った。
 本音をいえば自ら実地調査に乗り出したかった。しかし、入会以来UFO研究に夢中な彼女を、ぼくはこの目でずっと見てきた。彼女の熱意を無視する訳にはいかない。研究会の代表として実地調査に派遣する旨を伝えると、彼女は飛び上がって喜んでくれた。オカルトを愛する者として、清々しい敗北感を味わった瞬間だった。

「詳しく聞かせてくれ」
 すると彼女は満面の笑みを浮かべて頷いた。
「実際に目撃談の多かった場所へ行ったのは一昨日です。はじめに住民の方々から情報を募りました。そしたらなんと、庭にUFOが降り立ったとお話するおばあちゃんに出会ったんです。しかもしかも……」
「しかも?」
 先を促すと、ついに彼女の胸元から垂れたリボンがカレーに沈んだ。
「そのおばあちゃん、UFOの中から現れた宇宙人と接触したらしいんです」
 その報告にはさすがに驚かされた。やはりUFOは宇宙人の乗り物だったのだ。一体どんな姿をしていたのだろう?
 宇宙人の外見について問おうとすると、その前に彼女は言葉を続けようとした。どうやら相当興奮しているらしい。ひとまず話を聞いてから、後で疑問点をぶつけるとしよう。
「おばあちゃんの庭に降り立った宇宙人はですね、なんとなんと、テレパシーでおばあちゃんに語りかけたそうなんです。それも内容がすごくて。地球を侵略するために偵察に来たって」
「偵察? それはまた物騒な」
「やっぱり、そう思いますよね?」と彼女は言った。「でも、さすがおばあちゃん。生きてきた年数が違いますから。そう驚くこともなかったみたいです」
「それで、どうなったんだ?」
「おばあちゃん、宇宙人にこう言ったそうです。『立ち話もなんだから、どうぞ中に入ってください』」
 凄まじい肝のすわりっぷり。突然現れた宇宙人を家に招き入れようとするなんて。
 彼女は更に続けた。「宇宙人は三名だったといいます。家に上がった宇宙人たちも礼儀正しかったと、そうおばあちゃんは言っていました。宇宙人三名、それからおばあちゃん、合計四名で食卓を囲み、おばあちゃんがつくった豚汁を一緒に食べたそうです」
 食卓を囲む宇宙人? 理解が追いつかなくなってきた。「どうしてそうなった?」
「いやぁ、おばあちゃん、前日に豚汁をつくりすぎちゃったみたいなんです。それに、旦那さんに先立たれて寂しかったらしくて。わざわざお米も炊いて、他の料理までふるまったとのことです」
 いよいよ訳が分からなくなってきた。黙って彼女を見つめると、大きな目がにんまりと細められた。
「結論なんですけどね」と彼女。「宇宙人たち、地球へ到着するまでとんでもない長旅をしてきたらしいんですよ。しかもUFOという密室の中で。喧嘩もしょっちゅうだったといいます。食べ物といえばUFOに積んだ栄養剤だけ。そんな宇宙人がおばあちゃんお手製の料理を口にすれば、もうおしまいですよ。『この星にはこんなに温かい文化があるのか』って。侵略する気もすっかり失せて、仲良く団欒。『もし良ければまたお邪魔したい』って、アポだけ取って帰ってったそうです」
 想像の斜め上を行く報告に混乱してしまう。だが今まさに食事中にもかかわらず、おばあちゃんの豚汁が食べたくなった。
「ぼくもその豚汁、食べてみたいなぁ」
 つい声に出してしまった欲望を受けて、彼女は言った。
「じゃあ今度行きましょうか。おばあちゃんとはとっても仲良くなれたんです。多分宇宙人も来ますよ。みんなでごはん、食べましょう」
 宇宙人と食事か。実現すればかなりのスクープだ。次の会誌のネタにもちょうど良いだろう。だが、調査に行ったのは彼女。ネタを奪う訳にはいかない。
「今度の会誌、どんな記事にする予定?」
 すると彼女は、茶色く染まった口元にすばらしい笑みを湛えた。
「例の豚汁、そこに秘密が隠されているんだと思います。なにしろ地球を救った豚汁ですから。隠し味を含めて、レシピを探ってみるつもりです」
 次の取材、それから会誌が楽しみだ。


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