第6話 笑顔の店主

文字数 473文字

私たちが、その店を利用し始めたのは、今の住まいに引っ越してきてまもなくだった。
当時、踏切前の仮店舗で営業されていた。
ご主人は、いつも笑顔で接客。
仮店舗での営業が終わり、お店は移った。
なんと、本来の店舗は、我が家からほど近い場所であった。
以来、二十数年、お世話になっている。

お店は、ご主人とご主人の弟さん、それぞれの奥様が代わる代わる店頭に立っておられた。
最近では、若いご子息も店を手伝われるようになり、少しずつ頼もしくなってきた。

通勤の度にお店の前を通る。
毎日のようにご主人の姿を見る機会があった。
しかし、最近は在宅勤務も増え、お店の前を通る機会は減っていた。

「私、お店やめたのよ」
ある朝、奥さんが突然、そんな挨拶をしてきた。
そのように言われるまで、私は彼女を店頭でみかけていないことに気づいていなかった。

伺うとご主人が病で手術されたのが半年前。
術後退院し、自宅療養ていたが、先月、肺炎で他界されたのだという。

お店の前を何度も通る機会はあったが、全く知らなかった。

最後にご主人を見かけたのは何時だったろう。
笑顔で店頭に居られた姿しか思い出せない。
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