最後の一度

文字数 1,128文字

「ねえ、知ってる? 今日転校生がいらっしゃるんですって。ほら隣のクラスの如月家の……事故で入院なさったでしょう。従姉妹の方が代わりになられるそう」
「“十家”のチャンスをお逃しになりたくなかったのね。でもこちらのクラスに? どんな方なんでしょう」

 ざわめく教室の片隅に、私は立っていた。

 春の気配のする、見慣れた教室。

「……違う」

 自分の机のなかを覗くと教科書がすでにつまっている。それに私が教室にいることを、誰も不思議がっていない。

「あの、美硝さん。今日の午後の『四神選抜』のことなんですが」
「――えっ」

 霜鳥一伽が、私に話しかけてきた。
気のせいなんかじゃない。私は転校生としてではなく、ずっとこのクラスにいる生徒の一人としてここにいる。

「“十家”の方もクラスの皆と一緒に移動してくださいとのことでした。昼休みの後に、遅れないようにお願いします」
「これから、なの」
「……ええ、今日の午後。それに間に合うように転校生もいらっしゃいましたし」
「転校生って、誰が――」
「如月家の……お名前まではわからないですけど。でもお昼のホームルームにはいらっしゃ……あっ!」

 私は、教室を飛び出した。
 七度目のこの世界は、何もかもが違っている。

『――わたしも変わる、頑張るね』

 六度目のつぐみがそう言ったように、何もかもが変わっていた。
 何かを探すように迷いながら、転校生のつぐみが私の前に現れた。

「早く、こっちだから」



 初めて出会う『転校生のつぐみ』と、最初はどう接していいのか、私は戸惑っていた。
 明るくて、愛嬌があって、口角をきゅっとあげて笑う姿は、『元の世界のつぐみ』そのものだった。舞がうまくできてくて、落ち込んだり悩んだりするつぐみは、かつての私だった。
 ……そして今度のつぐみも、私が繰り返してきた罪をうっすらと覚えているようだった。
 もう、失敗しても繰り返すことはできない。
 最後の、一度。
 だから、私はつぐみに問いかけた。
 何度も何度も繰り返すなかで、初めてのことだった。
「つぐみは、どうしたい」と――。
 
「わたしは――美硝さんと一緒に踊りたい!」

 つぐみがそう答えてくれて、私はやっと気付けたのかもしれない。
 もう一度、始まりの夏の日々のようにただひたすら練習に打ち込んで、一緒に舞いを成功させよう。全部忘れて、罪のことも罰のことも忘れて、神楽舞を踊る日まで駆け抜けよう。
 あの結末を変えるためにつぐみの隣にいることは止めて、どうなるかわからない未来に向かって――頑張ろうと。
 そんな覚悟を決めて――私は七度目のつぐみと一緒に、『祓神楽』の日を迎えた。
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