最後の一度
文字数 1,128文字
「ねえ、知ってる? 今日転校生がいらっしゃるんですって。ほら隣のクラスの如月家の……事故で入院なさったでしょう。従姉妹の方が代わりになられるそう」
「“十家”のチャンスをお逃しになりたくなかったのね。でもこちらのクラスに? どんな方なんでしょう」
ざわめく教室の片隅に、私は立っていた。
春の気配のする、見慣れた教室。
「……違う」
自分の机のなかを覗くと教科書がすでにつまっている。それに私が教室にいることを、誰も不思議がっていない。
「あの、美硝さん。今日の午後の『四神選抜』のことなんですが」
「――えっ」
霜鳥一伽が、私に話しかけてきた。
気のせいなんかじゃない。私は転校生としてではなく、ずっとこのクラスにいる生徒の一人としてここにいる。
「“十家”の方もクラスの皆と一緒に移動してくださいとのことでした。昼休みの後に、遅れないようにお願いします」
「これから、なの」
「……ええ、今日の午後。それに間に合うように転校生もいらっしゃいましたし」
「転校生って、誰が――」
「如月家の……お名前まではわからないですけど。でもお昼のホームルームにはいらっしゃ……あっ!」
私は、教室を飛び出した。
七度目のこの世界は、何もかもが違っている。
『――わたしも変わる、頑張るね』
六度目のつぐみがそう言ったように、何もかもが変わっていた。
何かを探すように迷いながら、転校生のつぐみが私の前に現れた。
「早く、こっちだから」
*
初めて出会う『転校生のつぐみ』と、最初はどう接していいのか、私は戸惑っていた。
明るくて、愛嬌があって、口角をきゅっとあげて笑う姿は、『元の世界のつぐみ』そのものだった。舞がうまくできてくて、落ち込んだり悩んだりするつぐみは、かつての私だった。
……そして今度のつぐみも、私が繰り返してきた罪をうっすらと覚えているようだった。
もう、失敗しても繰り返すことはできない。
最後の、一度。
だから、私はつぐみに問いかけた。
何度も何度も繰り返すなかで、初めてのことだった。
「つぐみは、どうしたい」と――。
「わたしは――美硝さんと一緒に踊りたい!」
つぐみがそう答えてくれて、私はやっと気付けたのかもしれない。
もう一度、始まりの夏の日々のようにただひたすら練習に打ち込んで、一緒に舞いを成功させよう。全部忘れて、罪のことも罰のことも忘れて、神楽舞を踊る日まで駆け抜けよう。
あの結末を変えるためにつぐみの隣にいることは止めて、どうなるかわからない未来に向かって――頑張ろうと。
そんな覚悟を決めて――私は七度目のつぐみと一緒に、『祓神楽』の日を迎えた。
「“十家”のチャンスをお逃しになりたくなかったのね。でもこちらのクラスに? どんな方なんでしょう」
ざわめく教室の片隅に、私は立っていた。
春の気配のする、見慣れた教室。
「……違う」
自分の机のなかを覗くと教科書がすでにつまっている。それに私が教室にいることを、誰も不思議がっていない。
「あの、美硝さん。今日の午後の『四神選抜』のことなんですが」
「――えっ」
霜鳥一伽が、私に話しかけてきた。
気のせいなんかじゃない。私は転校生としてではなく、ずっとこのクラスにいる生徒の一人としてここにいる。
「“十家”の方もクラスの皆と一緒に移動してくださいとのことでした。昼休みの後に、遅れないようにお願いします」
「これから、なの」
「……ええ、今日の午後。それに間に合うように転校生もいらっしゃいましたし」
「転校生って、誰が――」
「如月家の……お名前まではわからないですけど。でもお昼のホームルームにはいらっしゃ……あっ!」
私は、教室を飛び出した。
七度目のこの世界は、何もかもが違っている。
『――わたしも変わる、頑張るね』
六度目のつぐみがそう言ったように、何もかもが変わっていた。
何かを探すように迷いながら、転校生のつぐみが私の前に現れた。
「早く、こっちだから」
*
初めて出会う『転校生のつぐみ』と、最初はどう接していいのか、私は戸惑っていた。
明るくて、愛嬌があって、口角をきゅっとあげて笑う姿は、『元の世界のつぐみ』そのものだった。舞がうまくできてくて、落ち込んだり悩んだりするつぐみは、かつての私だった。
……そして今度のつぐみも、私が繰り返してきた罪をうっすらと覚えているようだった。
もう、失敗しても繰り返すことはできない。
最後の、一度。
だから、私はつぐみに問いかけた。
何度も何度も繰り返すなかで、初めてのことだった。
「つぐみは、どうしたい」と――。
「わたしは――美硝さんと一緒に踊りたい!」
つぐみがそう答えてくれて、私はやっと気付けたのかもしれない。
もう一度、始まりの夏の日々のようにただひたすら練習に打ち込んで、一緒に舞いを成功させよう。全部忘れて、罪のことも罰のことも忘れて、神楽舞を踊る日まで駆け抜けよう。
あの結末を変えるためにつぐみの隣にいることは止めて、どうなるかわからない未来に向かって――頑張ろうと。
そんな覚悟を決めて――私は七度目のつぐみと一緒に、『祓神楽』の日を迎えた。