V. 火

文字数 522文字

 ロマーノ・サンデルトは、桟橋へ向かうため、街を抜けていました。
 軍歌、軍靴で、ひとびとは狂っており、武装した屈強の男たちが内心怯えているのに対し、民衆は収穫祭のごとき賑わいでした。みな浮ついて前を見ず歩き、まるでロマーノの行く道を塞ぐように立ちはだかりました。
 いくらか時間がかかって、桟橋に着きました。砲撃の音は、かなり近いところで聞かれました。ロマーノは桟橋に置きっぱなしにしてある椅子をもってきて、これに座ると、まずヴェルノーの粉を海に振り、はじめに三つ、おわりに四つ古の言葉をつぶやきました。
 空がたちまち暗くなりました。ロマーノは座標をリヴィヤタンに合わせると、父の手記を開き、その最後の鍵の言葉を、母サラへの言葉を読みました。

—世界樹のような、大きな雷が落ちて、わたしの世界は燃えてしまった。全身を駆ける雷と美しく燃える浄化の火。わたしの心は斯く君を愛す—

〈かつて聞かれたことのない凄まじい雷鳴。そして、暗転〉


 ロマーノは父をわずかに知ったものの、理解はできませんでした。リヴィヤタンの在ったところは、今ではほんとうに島になって、母の好きだった花が風に揺れていました。ロマーノは大きなあくびをしました。
 
 
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