大須商店街にて

文字数 800文字

 ナルからのチャットで「今度研修でそちらに行くので、アテンドをお願いします」と来た。俺は「どこか行きたいところは?」と打つ。答えは文字通り秒で返ってきた。

「大須商店街!」



「これがナゴヤの誇るケイオス!」
「お前が前に研修で行った原宿や秋葉原と比べると、そうすごい場所でもないと思うけど」
「トーキョーのシンギュラーな都市がひとつにまとまってるのがいいんじゃないですか!」

 ナルは手を広げて熱弁する。こいつ、正規のガイド以外に何か読んだな。問い詰めると、英語で書かれたブログなどを少々、と白状した。

「あと他に何かヘンなの読んでないだろうな」
「ナゴヤは『大いなる田舎』という情報も見ましたが、意外とこちらをジロジロと見てくる人はいませんね」

 ナルは自分を指差す子供に愛想よく手を振りかえす。日本語の情報も何か偏ったものを取り入れたらしい。

「……名古屋へのそのビミョーな評価は置いておくとして……大須はごった煮の街だからだ。外国人の出入りも多いし、家電から古着までなんでも手に入るのがここのウリ」
 あと、電子パーツ屋も昔からあるし、と付け加えると納得したようにナルは頷く。

「で、今回の目的のためにまずは団子屋に来たわけだが……。どっちを先に食べたい?」
 俺は団子屋のおばちゃんから、きなこ団子とみたらし団子を一本ずつ受け取る。

「あなたのおすすめで」

 なら、みたらしから。俺は自分のこめかみから拡張ケーブルを引きだしてプラグをナルの腕に差し込み、団子にかぶりつく。

「これが夢にまで見た食べ歩き……アーケードから降り注ぐ日差し、都市を吹く風、みたらしの香ばしさ……」

 カメラの映像、センサが感知した気流、俺の脳から送られた味覚情報を統合処理してナルはうっとりと呟く。最近の人工人格は仮想空間で自由に動くのに飽き足らず、夢まで見るようになったらしい。そこまで楽しみにしてたなら、今日はお前のために食い倒してやるよ。
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