第十三話 決戦・中編

文字数 2,498文字

 二人の戦いが、再び始まろうとしていた。
「そう言えば、さっきのあなたの仲間は見かけませんでしたね?」
「エメラルドのことか? そんなのどうでもいいだろう? 妲姫を確保できなかった責任を取った、ただそれだけ。もうアイツに存在意義なんてない。生きているかどうかも、いい。重要なのは、俺とお前。白黒つけないと気が済まないということだけだ」
「なるべく早くしてくださいよ? そうしないと妲姫だけじゃない。高雄たちまで危険なんですから」
「その点は、心配いらねえ。俺が戦っている間、増幸の野郎は厄霊を動かさない。もし動かすなら、俺にこの戦いの許可が下りなかっただろうよ」
「そうですか」
 一先ず、みつきに苦戦している間に厄霊が動き、高雄たちを焼き払う心配は消えた。
「思いっ切り、来な…。そうじゃないと面白くない。俺も最初から、全力だ」
 そう言うと、氷の刃を真織に見せる。
「では……始めますかね…」
 真織も札を取り出し、雷の刃を作る。
(んん…!)
 その時、いつも以上に電気が生じた。
(さっきよりも、強い力…。これが生きるということ…!)
 行けるかもしれない。さっきは互角で、結局突破不可能だった。だが今度の真織は一味も二味も違う。
「行くぜ…!」
 みつきが動いた。その素早さは、海神寺で見せた動きよりも速い。だが、真織はもっと速く動いていた。みつきの突進をかわすと、彼の後ろに回り込んだ。
「馬鹿な!」
 そして雷の刃を振り下ろす。だが、振り向いたみつきに阻止された。氷の刃で受け止められる。
「コイツに、こんな力が? さっきはなかったはず…!」
 徐々に押されるみつき。氷の刃に段々と、音を立ててヒビが走る。
「チッ!」
 後ろに飛んだ。着地すると同時に、氷の刃は根元から砕け、その木の棒は使用不可能となった。
(さっきまでとは、まるで別人…。何でこんなことが! こんなこと、あるはずがない!)
 今度は、真織が駆けた。
「はっ!」
 みつきをしてかわせたのは、運が良かった。というのも、真織が左から攻めて来たからだ。みつきは今、右手に握る木の棒を失ったばかり。右から来たら、ガードできなかった。
「うぐぐぐぐぐっ!」
 左手を右手でも押さえる。だが、それでも力負けしそうだ。
「だが!」
 みつきが体を振ると、服の下から大量の木の棒が落ちて来た。それら全てが氷をまとい、急成長する。
「これは!」
 流石の真織も、危険を感じて下がる。
「お前から学んだ、氷の陣。それを強化改造した。その表情を見るに、くらえばただでは済まないと直感したな?」
「ええ。今の私でも、それは危険極まりないでしょうね。避けたいのは当然ですよ。でも…」
 真織の中の勝利の方程式は揺るがない。再び駆ける。今度は放電し、みつきを移動しながら攻撃する。その電撃を、みつきは氷の壁を作って凌ぐ。
「私は、生きる! この状況を乗り越えて、増幸を倒し! この世界で生きながらえてみせます!」
 思っていたことをストレートに、言葉に出した。すると力がこみ上げてくるのだ。さらに強い稲妻を解き放つ。
「うおおお!」
 だがみつきも、最後の賭けに出た。氷の壁を複数枚形成し、それを盾にして真織に近づく。
「そうはいきません!」
 札と札を合わせ、間に生じた電気を撃ち込む。何枚もの氷の壁が一撃で砕け散る。
「ここだ!」
 だが、みつきは飛んだ。氷の壁は、盾ではなかった。真織の頭上を飛び越えるための足場が欲しかったのだ。
「撃ち落とす、まで!」
 しかし、その動きは真織が捉えられないわけではない。札の照準ををみつきに合わせた。その時、みつきの服から木の棒が降って来た。
「しまった! これも囮ですか!」
 木の棒は、氷をまとっている。その氷が邪魔で、正確にみつきを狙えない。真織の電撃は、外れた。
「違う。俺が欲しいのは、お前の弱点を突くための道。そして、勝利する!」
 見事に真織の背中を、みつきは取った。一度後ろに回り込めれば、真織が振り向いても背中と一緒に動ける。
(勝った。コイツの弱点は背中の札…。それを潰せば、電気は消える!)
 真織には、背中の札から放電するという選択肢があったはずだ。禮導と戦った時に見せたあの技。あの時と同じ札を背中に忍ばせているのだから、放電できる。
 が、しない。真織には、みつきの正確な位置がわからないし、それに間に合わないのである。
 次の瞬間、みつきの氷の刃が、真織の背中の札を切り裂いた。
「勝った…! これでお前は、電気を失う!」
 しかし、みつきが見たもの。それは信じられない光景だった。
 真織はすぐに振り向いた。その時の表情が、絶望していない。
「いくらでもくれてやりますよ、蓄電専用の札なんて! だって、私にはもう必要ないんです!」
 生きることを考えることは、無限の力を真織に与えた。生きることは可能性の増幅。それを理解した真織の電気は、尽きることがない。
「ば、馬鹿な…?」
 この時、みつきは決定的な隙を見せてしまった。
「ここです…!」
 真織が駆け出した。すれ違いざまに、みつきに雷の刃を叩きこんだ。
「どうです? くらわせましたか?」
「うがが…!」
 みつきの体は、地面に崩れ落ちた。
「届いた…!」
 たったの一撃だが、与えたのならもう運動神経が麻痺して動けない。その一撃を与えるまでが長かった。最初に遭遇した時も、さっき海神寺で戦った時も。真織の電撃はみつきには届かなかったのだから。
「まだ、だ…!」
 みつきの口は、そう動いた。しかし、首から下が言うことを聞かない。
「動けますか? いいえ、動けないでしょう!」
 真織の指摘の通りである。
「さて、痺れが取れれば動けるわけですが、そうするわけにはいきません。私の札を張っておけば、剥がすまで痺れて動けなく……」
 途中で口が止まる。異様な光を、目が捉えたからだ。
「危ないです!」
 反射的に、体が動いた。みつきの腕を掴んで、真織は飛んだ。
 厄霊の光が、こちらに向かって飛んで来たのである。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み