ティー・レモン氏の空中庭園(2)──その庭園は翼のように
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第十八番大庭、
予約当日、樹伸は上機嫌で、キッパータックの運転する車の中で鼻歌を奏でた。
「レモンさんは多忙だから、
「レモンさんちの庭園、本当に空に浮かんでいるんですか?」キッパータックが見ているのは車の窓から見える
「あれほどテレビコマーシャルやなんやらで紹介されてるのに見たことないのか? 君は忙しいっていうよりもぐりなんだな」樹伸は呆れた。「ま、実際を見てわかった方がいいだろうがね。レモンさんの住まいや事務所やらが入っている十五階建ての塔があってね。その十五階に庭園があるんだ。あのようなだだっ広い庭が塔を挟んで左右に翼のように広がっていることを考えたら、まさに奇蹟の庭園って感じがするよ。あの庭なら人気一位を譲っても惜しくはない、そういう庭さ」
火龍地区は穹沙市の西の端にあるので、車で一時間以上かかった。西側の地区というのはほかに、
樹伸が言ったとおり、中央に十五階建ての真っ白な塔。その頂の左右に、めいっぱい広がる庭園の土台となるコンクリートがくっついている。まさに翼のように高く風に掲げている格好だった。ただ塔の十五階に繋がっているだけの、あとは空気のみに支えられているという、青空に浮かんだ庭園。何度か訪れたことがある樹伸によれば、正面から見て右側はレモン家のプライベート・ガーデンとなっていて、ゴルフのちょっとしたコースとプールがある。左側が客を招く、いわゆる毎年人気投票で一位を獲得している大庭ということだった。すべてデザインはシンプルであり、色も塔と同じく白が基調。花壇は風害や運搬等を考慮に入れ土は使わず粒子の粗い砂や合成培地を利用したもので、風力オルゴールが〝世話係〟だった。このオルゴール、実はコンピューター管理されているロボットで、仕掛けが動き控えめな音量の旋律を流しながら植物に水を与える様は、たとえ風がそれほどない日にも自然発生的に起こっている非人工的な営みを見ているようだと人々に絶賛されていた。園夫の鼻歌も管理室のスイッチ一つで流したり流さなかったりできるなどは言わぬが花であった。どこに「風力」が関係しているのか、謎だ。
ほかにも青空レストランに美容砂を敷き詰めた散歩道、またウィンドセラピーの体験も楽しめるようになっているという。