第2話 息子の同級生が風呂に入ってきて

文字数 1,320文字

台所で洗い物をしていると、愛実は背後に人の気配を感じた。
 振り返るまでもない。
 この絡みつくような気配の持ち主は、一人しかいない。
 
「おばさん、ごちそうさまでした」
 
 もう飲んでしまったのか、空になったグラスを盆に載せて、謙信が立っていた。
 
「あら、わざわざ持ってきてくれなくても……」
 
「いえ……実は僕、正直に言うと、おばさんと話がしたくて」
 
 総毛立つ。
 同時に、股間の奥がカッと熱くなったことに激しく動揺した。
 
「僕は父子家庭で育ったせいか、母親の、いや年上の女性の愛情を知らずに今まで育ちました。だからなのか、交際する女性も年上ばかりです」
 
 突然始まった謙信の身の上話に、愛実は戸惑うばかりだ。
 だが最も戸惑ったのは、謙信がこれまで年上の女性と交際経験がある事実に、嫉妬の感情が芽生えたことだ。
 
「真治君が教えてくれたんですけど……おばさんは、真治君のお父さん、つまり旦那さんとは、ここ一年程、ろくに会っていないそうですね。寂しくないんですか?」
 
 謙信が何を言いたいのか分からず、愛実は返事ができずにいた。
 謙信が黙って洗い場にグラスを置くのを、ただ見ていた。
 
 そして愛実の返答を待たずに、静かに去っていく――その瞬間。
 恵美の熟れた果実のような尻を、謙信が両手で鷲掴みにした。
 だがすぐに、その手は離れ、謙信は部屋へと戻っていく。
 愛実は呆然と立ち尽くしていた。
 だが、尻に食い込んだ謙信の指の感触が生々しく残っている。
 その蛮行の余韻が、愛実のパンテイをたっぷりと濡らす。
 
 
 
 翌々日も、真治は謙信を自宅に連れてきた。
 自宅は思い切って買った一戸建てだ。
 今はそんな自宅の中が、武がいないせいで広く感じられる。
 それは侘しく、正直寂しい。
 
 今日は雨だ。
 それもひどい土砂降りで、目が眩むほどの雷光のあと、激しい雷鳴が響いていた。
 
 謙信と真治は、二階の真治の部屋にいる。
 降りてくる気配はない。
 
 所属する地域のバレーボールチームの練習から帰ってきたばかりの愛実は、シャワーを浴びることにした。
 脱衣所で、洋服とスカートを脱ぎ、黒のパンテイストッキングと水色のパンテイを脚から抜く。
 
 頭から温かいシャワーを浴びながら、愛実は一昨日の謙信の蛮行を思い出す。
 尻にはまだ、謙信の食い込んだ指と大きい手の平の余韻が残っている。
 ――あの時、自分は女としての喜びを感じてしまった。
 それから、目を逸らしている。
 逃げている。
 武への忠誠心のみで自分を律し、自慰行為は自制した。
 
 今日は、愛実が帰宅したときにはすでに謙信は真治の部屋にいたので、顔を合わせていない。
 真治に階下から帰宅を告げただけだ。
 今、謙信と顔を合わせたら、とても冷静ではいられない……。
 
 そんな事を考えていると、股間から湯ではない汁が垂れてきた。
 慌てて何も考えないように努める。
 外で一段と凄まじい雷光が走り、腹に響くほどの雷鳴が鳴る。
 その直後、愛実はふと背後を振り返った。
 
 謙信が立っていた。一糸まとわぬ姿で。

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