キックボクサーとのスパーリング体験
文字数 1,574文字
キックボクシングジムに通っていた頃、筆者は試合には出場しませんでしたが、ジム内でのスパーリングは何度か行いました。その中で最も印象的だった対戦について記しておきます。
相手はプロを目指して本格的な練習を積んでいる若手選手で、筆者がスパーリングをした中では間違いなく最強の相手でした。
身長は筆者よりも10センチほど高いものの、細身であるため同じフェザー級。年齢は当時の筆者より一回り若く18歳前後。キャリアや戦績は聞きませんでしたが、雰囲気だけでも只者ではないことが分かりました。
対する筆者も、この頃には空手を始めて10年近く経っており、スポーツ空手家としては全盛期でしたので、簡単には負ける気がしません。
というわけでラウンド1。
まず低身長の筆者にとって問題となるリーチの差ですが、当然それを補う技術は持ち合わせています。
まずは相手の「拳」を強打することです。
相手の顔や胴体には届かなくとも、そこから10センチ以上手前にある拳になら、こちらの拳を先に当てることができます。
もちろん、グローブを付けているので拳を破壊することはできませんが、一瞬痺れさせるくらいはできます。
そして、その一瞬があれば間合いを詰めるには充分。
先手必勝。筆者の手技ラッシュが始まります。
しかし、相手のディフェンスは固く、なかなかクリーンヒットを奪うことができません。
グローブさえなければガードの隙間を付くこともできますが、こればかりはルールですのでどうにもなりません。
打ち疲れを待っているのか、相手は積極的に反撃してきません。よって、筆者はガードの上からでも効かせる打ち方に移行しました。
それすなわち、空手の正拳突きです。
ボクシングのストレートと違い、空手の正拳突きは打った後すぐには拳を引きません。全体重を乗せたまま、相手のガードに拳をねじ込みます。
言ってみれば、拳で体当たりをするようなものです。
これには、さすがに相手も驚いた表情をしていましたが、やはりグローブを付けた状態では決定打にはなりません。しかも、威力が強い分隙も大きいですから、一度見せてしまった以上、繰り返し使うわけにはいきません。
その後は互いに様子見をするような状況が続き、気が付けば第1ラウンドが終わっていました。
積極的に攻めた筆者の方が傍目には優勢に見えたかもしれません。
一分間のインターバルを挟んで、
ラウンド2。
先程まで様子見をしていた相手が、今度は積極的に攻めてきました。
フェイントを混じえながら強烈なミドルキックを連発してきます。
さすがにキックボクサーだけあって、足技は完全に向こうが上でした。カウンターどころではありません。ガードするのが精一杯です。
後手に回ってはジリ貧なので、一旦間合いを取った後、再び拳打ちから始まる手技ラッシュで、相手にキックを出させる隙を与えません。
しかし、相変わらずガードが固いので決定打を与えることができません。
もっとも、向こうは向こうで、慣れない空手の技術に戸惑っているのか、攻めあぐねているような感じではありました。
そうこうしている間に第2ラウンドも終了。
同時にスパーリングも終了。
試合ではないので勝敗はありません。
内容としては互角……と言いたいところですが、すでに肩で息をしていた筆者に対し、相手は息も切らさず平然としていたので、この後も試合が続いていたら敗北する可能性が高いと言わざるを得ませんでした。
無理もありません。
なにせ空手の試合は一分半から二分しかありませんから、スタミナ配分などなく、ほとんど最初から最後まで全力で戦うのです。
3分1ラウンドを、場合によっては10ラウンド以上も戦うキックボクサーとは、その辺りの感覚が全く違うのです。
ですが、このスパーリングでまた新たに分かったこともありました。
それについては長くなるので、次章で説明したいと思います。