第13話 困った時は死霊に聞こう

文字数 8,159文字

 教会に向かうと、今回はちゃんとハインツがいた。自分で来いと言ったのだから、いるのは当然とも言えるが、しかし。
「ハインツ様……もう少しだけ、ダメでしょうか」
「すまない。私としても迷える敬虔な君の告解を聞き、その心が晴れるまで祈りを捧げたいところなのだが……今日は先約があるものでね」
「そんな……司祭様はいつもそうです。きっと私のような罪深き者はお見捨てになるのでしょう?」
「それは誤解だ。私は毎日君の心の安寧を願って、偉大なるフライアに祈りを捧げているというのに……」
「嘘よ、もう信じません……」
「どうでもいいが、その寸劇はいつ終わるんだ?」
「きゃっ!?
 教会の宿舎前で、ハインツと信者らしき若い女性が、何やら修羅場の雰囲気をただよわせながら、終わりの見えない会話をしている。
 アローとミステルは、それを少し前からずっと観察していた。していたのだが、一向に切り上げられる気配のない、痴情のもつれにしかみえない何かに、しびれを切らしたのだ。
「し、失礼します!」
 女性はパタパタと逃げ出していき、その背中を見送ったハインツが切なげなため息をひとつ漏らした。
「まったく、君たち、少しは空気を読んでくれないか? おかげで迷える子羊が逃げ去ってしまったじゃないか」
「迷っているのは貴方の思考です、ナマグサ司祭」
 ミステルの声音は、氷の如く。しかし、ナマグサ司祭は動揺もせずに済ました顔で微笑んでいる。鋼鉄の厚かましさである。
「これは手厳しい。でもナマグサは心外だな。フライアは男女の営みを否定しない女神様だから、何ひとつ問題はないよ」
「問題が大有りです。フライアは信徒の行いを否定しないだけで、司祭の行いを肯定するとはとうてい思えませんが」
 ミステルのこれ以上ないほどに冷たい眼差しを、ハインツは肩をすくめて受け流した。
「アロー君も何か言ってくれないか?」
「僕は君の素行には全く興味がわかないので、先約をさっさと果たしてもらいたい」
「私は悲しいよ、娼館の意味も知らなかった純朴な少年だった君が、わずか一日のあいだにそんなすれたことを言うようになるなんて」
「娼館に行くことになったのは大体君のせいだ。ついでにいうが、フライアは生によってもたらされる結末である、死をもつかさどる母神。なので、死霊術師である僕とミステルも一応フライアの信徒と言えるわけだが、君は敬虔なる僕らをいつ救ってくれるんだ?」
「……わかった。私の負けだ」
 いよいよ雲行きが怪しくなってきたのを悟ったのか、ハインツは会話を打ちきった。この件に関しては、アローが味方にならないとわかったからだろう。打算的な司祭である。
 ハインツに案内され、宿舎のある庭を抜け、大聖堂の裏に至る。この教会の敷地は大きい。この国で一番の大聖堂なのだから、それも当然か。
 聖堂の入り口両脇にはフライアの化身とされる、牝山羊の石像。きっと内部には立派な女神像があることだろう。しかし、今はまだ大聖堂には用事がない。
「フライア大聖堂が管理する墓地はいくつかあるけれど、該当の死者が埋葬されている場所は祈祷所裏のところだね」
「王都はそんなにいくつも墓地があるのか」
 郊外の村や小さな町であれば、町はずれの平野や小高い丘などに墓地がある。教会とは完全に分離されているのだ。
「都の外部にある庶民のための共同墓地。それなりに身分が高い人や金持ちが、教会から権利を買って利用するのが教会敷地内の墓地。今回はここだね。あとは……墓の場所が足りなくなった時に、骨を掘り起こして納骨するためにある地下納骨堂がある」
「地下に移動するのか? 権利を金で買ったのに?」
 不思議に思って首をかしげていると、ミステルが苦笑して説明を加えた。
「こういった都市部では珍しくありません。墓地は限られていますから、縁者がこなくなった古い墓を掘り起こして、遺骨だけを地下で管理するのです」
「人が多いと大変だな」
 しかし、いくら大教会といえども、王都の外に墓場を作るわけにもいかず、金をもらっている以上管理を完全に投げ出すわけにもいかないのだろう。教会の苦慮が透けてみえる。
 祈祷所は大聖堂から少し離れた場所にあった。墓場は街の通りから見えないように、蔦の絡んだ柵と生け垣に囲われている。綺麗に整えられていて、白っぽい墓石がずらりと綺麗に並んでいた。入口には墓守が常駐している小屋があって、そこに見知った姿を見つける。
「……ヒルダ。どうしてここに?」
 見るからに気が進まなさそうな表情をしたヒルダが、墓守の男と一緒にそこにいる。今日はきちんと騎士の制服を身にまとっている。つまり、仕事でここにいる。
「私としても大変不本意なんだけど、上司から押し付けられたわ……。どうやら私の上司はカーテ司祭がお嫌いみたいよ」
 昨晩、ヒルダは教会からの捜査のための書状を騎士団へと届けている。要するに、彼女が届けた書状を見て、それがハインツの筆によるものだと知った上司が、ヒルダに丸投げしてしまったのだろう。
「おやおや、それは困ったね」
「他人事のように言わないでください。カーテ司祭が嫌われている事情は何となく察していますので」
「おや、それは誤解というものさ。私は多くの女性から相談を受けているというだけで、決して乱れた関係では」
「あるよな」
「ありますよね」
 アローとミステルに封殺され、さすがのハインツも少しばかり引きつった顔になる。
 ヒルダはうろんな目でじっとハインツを見つめた。
「ミステルさんはともかく、アローにまで言われるなんて相当ですね」
「…………さて、さっそくだが犠牲者の墓について確認してもらおうか」
「ごまかしたな」
「ごまかしましたね」
 ハインツは畳みかける兄妹のツッコミを、聞かなかったことにしたらしい。墓の場所へと案内を始めたので、一行は渋々ついていくことになった。ここで立ち話をしていても、本来の目的はかけらも果たされないことは事実だ。
 ヒルダは心なしか青ざめた顔で、なるべく周りの風景を目に入れないようにして歩いていた。昼間でも怖いものは怖いらしい。ただの墓場なのだが。
「他の騎士に代わってもらえなかったのか?」
「私は貴方の顔も名前も知っているし……それに、墓場は幽霊が出そうだから、なんて理由でかわってもらうわけにはいかないでしょ?」
「出そうだから、ではなくて、これから僕が出すんだ」
「……そうだったわ。貴方が呼ぶんだったわ」
 必死に考えないようにしていたのだろう。今思い出したといった風にそうボソボソ呟くヒルダの顔は、ますます青ざめたように見えた。
「やっぱり今からでも代わってもらうべきじゃないのか?」
「いえ、さすがに私も騎士としての誇りがありますから、やりとげます」
「そうですよね。幽霊が怖くて真昼間の墓場から逃げ出すんじゃ、戦女神の名折れですものね」
「ミステルさん、そのあだ名はもういいから」
 はぁー、と深く大きなため息をつき、それでもヒルダの顔色は幾分かましになったように見える。
「アロー、その、呼び出す時って、ミステルさんくらい鮮明になるものなの?」
 遠慮がちに尋ねる彼女に、アローは「うーん」としばらく考えこんだ。
「条件にもよる。ミステルは、遺灰を媒介にしているし、僕と魔術的につながった眷属になっているから、僕の方で見え方を調節できるけど、今回はそうじゃない。ただ呼ぶだけだからな」
「そ、そっか……」
 ミステルくらいはっきりと見えていれば、幽霊という感じがしないからあまり怖くはないのだろう。実際、触れることさえなければ、魔術の素養がない人間が気づくことなどそうそうない。ギルベルトは、アローが真実を言ってもしばらくミステルが霊体であることを信じなかった。
「元々、死霊は陽の力に弱い。だから降霊術は夜の方が成功しやすいし、降ろした霊の姿や言葉もはっきりする。……というか、降霊術自体が本来昼間に行うものではないから。できてもせいぜい、半透明にぼんやりした姿くらいかな」
「うーん、が、頑張るわ……」
 ヒルダにとっては耐えられるかギリギリの線のようだ。とはいえ、彼女がやりとげると自分で決めた以上、耐えてもらわなければ困る。
「ヒルダ様。貴方は簡単にできるのかと聞きますけど、昨晩も申し上げた通り、兄様が特別なのですからね?」
 ミステルがむすっとした顔で念を押すと、彼女は素直に感心したようだった。少し余裕が出たのか、周りの墓石をぐるりと見回す。
「死霊術って、そんなに難しいものなの? 聖霊魔法だったら、騎士にも使える人は少しいるけど」
 聖霊魔法は、フライアをはじめとした、創造神話に名を連ねる神の力や眷属を借りて行使する魔法だ。高位魔法の使い手はごく少数であるものの、例えば火の神の力を借りてランプに灯をつける程度の下級聖霊魔法なら庶民でも使える者は多い。騎士となれば、小さな魔物を倒す程度の中級聖霊魔法を使える者もいるだろう。
 聖霊魔法は人々の信仰と生活に根差したものだから、魔術師の少ないゼーヴァルトでも、難易度の少ない術が一般的に使われている。
 しかし、それらと死霊術の明確な違いを説明しろ、と言われてもアローには難しい。
「死霊術は、魔法と死も司っているフライアの神の力を借りる……んだと思う」
「思う、って、自分で使っていてわからないの?」
 ヒルダは不思議そうな顔になる。無理もないだろう。アローとしても、この感覚をどう説明していいのかわからない。
「僕は特殊な体質で、無自覚に死霊術を使えるんだ。何もしなくても最初から死霊が見えたし、話せたし、力も貸してもらえた。だからちゃんとしたやり方を師匠に教え直されたんだ。物心ついた時にはできていたことだから、それがどうして、というところは知らずに来てしまった」
「ああ……ミステルさんの言ってた『特別』ってそういうことなの」
 ヒルダは単に、変わった体質なのだと解釈したようだった。それも間違ってはいないので、アローは特に訂正しなかった。
 ただ、今まで黙って歩いていたハインツが、ふと短く笑ったのには気づいていた。彼はひとつの墓の前で立ち止まる。
「さて、おしゃべりはここまでにしようか。一人目の被害者と思われる女性の墓がここだ」
 被害者(推定)の名はクローディア・コリント。裕福な商家の娘らしい。
 アローは、墓石に刻まれた名前を確認する。そして、後ろについてきた三人を振り返った。
「ひとつだけ言っておくけども、ある程度力の強い霊を呼ぶならともかく、この真昼間に魔術の素養なんて何もないであろう人間の魂を呼び出しても、調べられるのは死んだ本人が知っていることだけだからな」
 死霊術による降霊は、影占い、死体占いなどと呼ばれるが、占うのは未来の予測ではない。
 正確には占いですらなく、単なる死者の魂との対話だ。ある程度の力を持った魔術師などの魂を呼び出すなら話は変わって来るが、そんな存在を適切に呼び出すのは至難の業だった。
「でも、おとぎ話に出てくる死霊使いって、未来のことを言い当てたりするけど……あれは作り話だから、ってこと?」
 ヒルダが首をかしげた。子供向けの絵本には、未来予知の力を使って悪事を働く死霊術師を聖なる剣を持った戦士がこらしめる話がよくある。
「典型的な死霊術師への誤解だな。呪術師や黒魔術師と勘違いしているんだ。ああいったおとぎ話の『悪い死霊術師』が使うのは、どちらかというと黒魔術の領域だ。その場合、呼ばれるのは下位の聖霊、悪霊。もちろん、占いの精度はそんなに高くない。水晶やカードを使った占いの方が、よほど当たるし安全だ」
「死霊術って結構できることが限られているのね」
「ああ。だから専門家はあまりいない……らしい。師匠がそう言っていた。師匠も、別に死霊術が本分の人ではなかったからな」
 師匠、クロイツァは魔法なら何でも手を出す人で、死霊術どころか、黒魔術、聖霊魔法、呪術、占術など、あらゆる魔法を熟知していた。アローも、結局師匠が本来、どの魔術を修めていた人なのかわかっていない。魔術の何でも屋だと思っている。
「とにかく、犯人をずばり言い当てるとか、そういった過度の期待はしないでくれ。……いくぞ」
 黒塗りの杖を墓石に向かってかざし、真っ直ぐに見据える。
 聖霊の召喚には祝詞が、悪霊の召喚には呪文が必要になる。しかし、死霊にはどちらも必要ない。呼ぶのは生きる次元が違う存在ではなく、肉体を失いこの次元からつまはじきにされた者たち。かつて人だったものだからだ。
 顔も知らず、名前は今知った。だが、亡骸はこの石の下にある。死んでからまだ一年も経っていない。それならば――喚べる。
(……髪は、金髪。琥珀の眼。小柄な女の子。名前はクローディア)
 頭の中で、少女の姿がぼんやりとした輪郭をとりはじめた。
(歳は十七歳。毛皮商人コリントの娘。趣味はお裁縫……こんなものか)
 少女の輪郭がはっきりして、見知らぬ彼女の顔がわかる。悲しげに伏せられた瞳。
『死を記憶せよ』
 その言葉を唱えた瞬間、アローの青の瞳が一瞬血のような赤い光を放った。
 その瞬間、脳裏にあった少女の姿がうっすらと墓石の上に現れる。
「きゃぁっ!?
 ヒルダが悲鳴をあげて剣を取り落とし、あわあわと三歩ほど後退する。
「ふむ……本当に昼間から死霊を呼べるとはね。しかも他人にも見える、と」
 ハインツは元からある程度見ることのできる人間だからともかく、魔術の素養がないヒルダにまで見える――ように調整している。それだけアローの死霊召喚の技術が高いことの証明だ。
「その様子だと、僕の腕前は信用してくれているみたいだけど、本人だと確認するか?」
「必要ない。私は女性信者の顔はよく覚えている方でね」
「……ナマグサで良かったな」
 アローの皮肉をものともせず、ハインツは澄ました顔でそう述べた。先ほど修羅場を見られたことに対する反省は、特にしていない様子だ。
「いつか君が刺されて死んでも、僕は君の死霊は呼ばないと心に誓おう」
「ははは、心配ないよ。私は司祭だから、偉大なるフライアの元に召されるだろう。恨み言を言いに戻ってくる必要なんてないのさ」
 爽やかに笑う彼を、ミステルと、やや我に返ったヒルダがげんなりとした顔で見つめている。
「女神フライアは寛大ですね。このような男にも加護を与えてしまわれるなんて」
「カーテ司祭、本当に、私は貴方が痴情のもつれで刺された事件の捜査なんてしたくありませんので、自衛をお願いいたします」
「ああ、大丈夫だよ。これで簡単に刺されるほど貧弱でもないのでね」
「論点はそこではありません」
「論点というか、そもそも今は降霊術の最中だということを思いだしてくれ」
 ハインツのせいで話が横にそれてしまった。
 アローが死霊召喚に関してはずば抜けた才能を有しているといっても、今は本来召喚に向かない昼間だ。他人にも見えるようにしているから、多大な魔力を消費する。死霊の声を聴くとなるとさらに高度になるから、魔力の消費ももちろん大きくなる。できるだけ節約をしたい。
「声は僕と、僕と魔力で繋がってるミステルにしか聞こえない。ミステルに通訳させるから、ヒルダはそれを書記してくれ。君もミステルならまともに見てられるだろう」
「わ、わかったわ」
 ヒルダが慌てて書記用に羊皮紙を紐でくくった板と、布を巻いた黒鉛の棒を取り出した。黒鉛棒はインク壺を使えない外での筆記具だが、こすれると簡単にぼやけるので、後で書面の書き直しが必須となる。きっとそれも上司に押しつけられるのだろう。短めに切り上げた方がよさそうだと、アローは密かに考えた。早く済む方が自分も楽だ。
「質問してほしいことがあったら言ってくれ」
「では、死んだ前後に何か特別なことがあったかどうかを」
「わかった」
 浮遊するクローディアに手をかざす。
 死者の意識は大体の場合、曖昧で要点を得ない。ミステルは、彼女自身が魔術師で、しかもアローと契約した使い魔となっているので意識がはっきりしているが、大体の人間は肉体がなくなった時点で意識は散漫になる。
 生きた人間だって、身体が疲労していたり怪我や病気をしていたりすれば意識が朦朧とする。健康な肉体には魂を明朗に保つ機能も備わっているのだろう。
 クローディアがアローに向ける言葉は、単語にすらならないものばかりだ。その中から根気よく彼女の魂に残留する記憶をたどり、言葉にする。
「……護符を買った、と言っています」
 集中しているアローに代わって、ミステルが答える。
「恋のお守りだったらしいですよ」
「年頃の女の子らしい話だね」
「その恋が貴方に向けたものでなかったことを祈るばかりですね。あまりにこの娘が報われませんので」
「大丈夫、私はもう少し大人の方が好みだ」
「女の敵と認識します」
 へラッと笑うハインツに、ミステルは剣呑な眼差しを向けた。ヒルダは反応に困る顔で「護符の購入」とだけ書きとめた。
 その間も、アローはクローディアと『対話』している。ある程度こちらが誘導すれば、死者は次第に自我を取り戻し、勝手に話し出す。
《お守り……好きだった、あの人……だめ、もう……私、死んで……どうして? どうして、死んだの、私……》
(……どうしてかは、今調べている)
《そう……そうなの? 私、死なない、の?》
(すまない。君はもう死んでいるし、生き返らせることもできない)
《死にたくない……死にたくない……私、なんの病気、だったの?》
(病気じゃない。呪いだったんだ。確信できた)
 病気で死んだ人間には、特有の気配がある。病人は魂を消耗していることが多いから、意志が希薄になりやすい。また、よほどの急病で突然死亡した場合以外は、死を自覚的に受け止めている場合が多い。
 だけどクローディアは比較的短時間で、会話が成立する段階までこられた。衰弱して死亡したはずなのに、自分が病で死んだことを認識していない。
 呪詛なら、気配をたどれるかもしれない。クローディアの中に残留した魔力を探すが、見つからない。呪いの元をたどるのなら、彼女自身よりも彼女の家の周囲を調べる方がいいだろう。
《ねぇ……私、神様の、ところ、いけない……》
(いけるようにする。君も、君の他の子たちも。もう少しだけ時間をくれ)
《いや、いや……お願い、私を、つれて、つれ、ツレテいっテ……》
「お兄様、それ以上は危険です」
 ミステルの声でハッと我に返り、アローは杖で地面を大きくカツン、と打ち鳴らす。
 それでクローディアの姿は霧散した。
「……ああ、びっくりした。ありがとうミステル。ちょっと集中しすぎた」
「あのままでは引きこまれるところでしたよ」
「まぁ、引きこまれたところで僕は戻ってこられるけど、ヒルダのトラウマが甚大になるだろうからな……」
 今の時点でも、突如消えたクローディアの姿に、彼女は現実を受け入れがたい表情で固まっている。それでも逃げはしないのだから、職務に忠実だ。
「とりあえず、呪殺なのは間違いないと思う。だから、死んだ娘の家周辺に不自然な土の盛り上がりがないかをまず調べてくれ」
「え、土?」
 きょとんとするヒルダをよそに、ハインツは「なるほど」とうなずいた。
「クローディアには恋のお守りとして買った護符くらいしか、心当たりのあるものはなかった。だけど、護符程度で狙った通りの病死を引き起こすのは難しい。だから、護符は無関係か、もしくは標的にする少女を見分けるための印だったんじゃないかと思う。呪殺の方法は呪い人形が有名だけど、呪いたい相手の家近くに呪詛を込めたものを埋めるのもよくある手法だ」
「えっと、つまり……」
「呪い道具探しだ」
「それ、私がやるのよね……流れ的に」
 ヒルダは沈痛な面持ちで、がっくりとうなだれた。
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